第3話 私達の解決策

 骨董品屋の店長の言葉を信じるなら、私達には時間があまり残されていないらしい。だったら行動あるのみだ。出来うる限りの手を打って、ナツミちゃんを酷い事から救うのだ。大事な大事な友達のナツミちゃん。助けられるのは私しかいない。



「こっち!こっちよ、ナツミちゃん」


 人気のない靴箱。チカチカと点滅する廊下の蛍光灯。誰もいない学校に忍び込むのは二度目だ。あの日、教室で猿の手を使った時が一度目。そして今。問題を解決するには何事も原点にかえるのが一番だと思い、渋るナツミちゃんを家から連れ出して学校に来たのだ。やはり事を終えるなら始まった場所でするべきだろう。暗くて怖い帰りたいと涙ぐむナツミちゃんを安心させたくて、繋いだ手に力を込めた。


「あのあとね、私なりに猿の手について調べてみたの。骨董品屋の店長が、猿の手は猿神の片腕を切り落としたものだって言ってたでしょう?その猿神って、どこかの山を統べていた動物神なんだって!猿神は年に何度か人間達に若い女の生贄を求めたらしいの」


 彼女の華奢な腕を引いて、教室のドアを開く。異臭が鼻をつき、ナツミちゃんが顔を顰めたが気にせず足を踏み入れた。


「だからね、準備したの」


 生贄のことを知った時、私は思い付いたのだ。クラスメイトを差し出せばいいんじゃないかって。みんな女の子だし、みんな若いから、ちょうど良い。ちょっぴり心は痛んだけれど、ナツミちゃんを代償という呪いから救えるのなら安いものだ。私にとって一番大切なのはナツミちゃんだから。


「ほら見て!これでもう大丈夫だよ!」


「ひっ…………!?」


 電気をつけると、ナツミちゃんが短い悲鳴をあげた。無理もない。教室にはクラスメイトの死体がそこかしこに転がっているから。首を掻き切られたものや、体を滅多刺しにしたもの。制服のネクタイで首を締めたものや、教壇に飾られていた花瓶で歯が折れるまで殴られたもの。クラスメイト全員が転がっている。みんなを集めるのは大変だったし、激しく抵抗する子もいたから苦労したけれど、ナツミちゃんのためだと思えば何とかやれた。一歩後ろに立つナツミちゃんは顔を真っ青にさせて唇を震わせている。驚きすぎて声が出ないようだ。


「う、うぁ、あ…!あ……!いぃやぁああっ!!」


「怖いよね…………でも、これもナツミちゃんのためなの」


 腰を抜かして座り込むナツミちゃんを支える。今にも気絶してしまいそうだ。


「生贄を捧げれば、きっと猿神の気もおさまるはず。そしたら猿の手に願い事をしたナツミちゃんのことも見逃して、」


「ッ止めて!止めてよ!!」


「………………ナツミちゃん?」


 それはとても大きな声だった。腹の底から吐き出された拒絶に、今度は私が驚いて声が出なかった。ナツミちゃんがこんなに大声を出すのを初めて見た。


「いい加減にしてよ、もうウンザリ……!」


「そんな………どうして分かってくれないの?みんなが生贄として死んだのも、私がみんなを殺したのも、全部ナツミちゃんのためなんだよ?」


「やだ…………止めてよ…………」


 ナツミちゃんは私の話を聞こうともしてくれない。それどころか、さっきから目も合わせてくれない。ずっと俯いて、自分のことばっかり。怯えるだけで私のことなんか構いもしない。私はこんなにも、ナツミちゃんを大事に思っているのに。


「なんなの、私が何かした……?私は、ただ、友達が欲しかっただけなのに……」


「何言ってるの?だから、私がいるじゃない」


「やだ……!」


 ナツミちゃんが大きく身を捩り、私から離れて行こうとする。逃げ出そうとする彼女の腕を慌てて掴むと、ナツミちゃんが泣き叫んだ。


「ま、また!が私の手を掴んだ!あの日からずっと怪奇現象こんなことばっかり……!もう止めてよ!」


「!待って、ナツミちゃん!」


 私の制止も聞かず、ナツミちゃんが鞄に手を突っ込む。出てきたのは柊の模様が描かれた木箱。その中から3が折れた猿の手を取り出し、体を震わせながら、残った最後の1本を折った。

 強く、強く、願いながら。


「この苦しみから解放してよ!!」



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