2013年【疾風】息をしていて欲しかったのに
4
「おいっ! 生きてるか!」
疾風の叫び声が山にこだまする。
やまびこは、やがて聞こえなくなる。事故車のエンジン音だけが虚しく闇の中で音を奏でる。
荷台のドアノブに指をかける。
誰か生きていてくれと願いながら、ドアを上にひらく。
室内灯が転倒した瞬間、誰かではなく『彼女』だけでも生きていてくれと思った。
なんでだ? なんでここにいる?
いや、その可能性があったのは知っていたはずだ。
意図的に、考えないようにしていたのかもしれない。
そんな想像など現実に起こってほしくないから、有りえるはずがないと。
ライトバンに優子が乗っている。
目の当たりにしても、どこか現実味がない。
人違いだ。
優子のはずがない。よく見てみろ。観た。
最愛の女を見間違えるはずもなく。
頭を疾風のほうに向けて、彼女は横たわっている。
しかも、事故を起こした車に乗っていたという単純な状況でもないようだ。
服は無残にも引き千切られている。
破られた衣類は、即席の拘束具として再利用されていた。身動きが取れないように、優子は縛られている。
疾風が何度も揉んで、大きくしてやった胸があらわになっていた。
パンツは足にひっかかった状態だ。
股を開いている優子の傍らには、全裸のデブがいる。
助手席のシートに体をぶつけた状態で、動かなくなっている。体格が大きいせいで、皮をかぶったチンコの小ささが際立つ。
あれがもしかしたら、優子の膣内に入っていたのかもしれない。
尻を丸出しにしたまま、フロントガラスに頭から突っ込んでいる奴もいる。
こいつもまた、ぴくりとも動かない。
車内でのお楽しみが、同意の上だったとは到底思えなかった。
優子は他の連中とちがって、交通事故による外傷が見受けられない。
つまり、身動きがとれないほど拘束されていたのだ。
レイプ目的で無理やり連れ去られていたのか。
浮気かもしれないと、彼女を疑った自分が情けない。
情けなすぎて、許しをこうつもりもない。
だからこそ、自分も許さない。
チンコ丸出しの奴らが憎い。
地獄のような車内に、疾風は乗り込む。まず駆け寄ったのは、優子ではなくデブの元だ。
殴るために近づく。
脂肪でパンパンに膨らんだ顔面に、握った拳をぶつける。
歯を砕いた感触があったのに、デブはなんの反応も示さない。
息をしていて欲しかったのに。
「っざけんなよ! なんでチンコおったてたまま死にくさってんだっ! もっと根性見せろよ! もうちょっと生きて、苦しんで苦しんで苦しんでからだろっ! 死ぬのはよ!」
叫びながら、疾風は肘をデブの顔面にぶつける。
鼻の骨を砕くまで続けたが、いっこうに気分は優れない。むしろ、自分の服の肘部分が破れたことで、不快さが増した。
「死んでんのに、人を苛立たせる奴だな!」
全力で死体をいたぶって、額に汗をかいた。シャツの腕の部分で、額を拭く。
フロントガラスに顔を突っ込んでいる男の汚い尻が視界に入った。
割れたガラスの破片で、掌よりも大きいものを拾い上げる。
すかさずケツに突き刺してやった。肉の裂けた箇所から、ぬめっとした液体が流れ出る。
少し前まで生きていたからこそ、血は流れる。
こいつは命が尽きる直前まで、人の女に何をしていたのだ?
パンツを脱いで楽しんでいたのか?
怒りのままに、体重をかけてガラス片を押し込んでいく。
フロントガラスがみしみしと音を立て始めた。
やがて激しい音とともに、フロントガラスが砕ける。
いきなり握っているガラス片が重たくなった。
手を放しても良かった。
だが、もっとガラス片を使って傷つけたいという気持ちが、疾風の中で勝った。意地になってガラス片を握っていると、意図せずにそれを引き抜いてしまう。
ガラス片に支えられていたケツ丸出し男は、車外に落下する。
不完全燃焼だ。
自らの手を切り傷だらけにしたというのに、まだ満たされていない。
この怒りをどこにぶつければいい?
勝手に死にやがって。
せめて、役にたってから死ねよ。どうせ死ぬのなら、命を奪う機会を他人に与えてから死ね。死。
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