2013年【疾風】●島県の場合は岩田屋だった
「それで勇次の話に戻りますが――」
守田裕という男は、笑いながら親友の夢を語るようなマネをしない。
真剣な顔になった守田に引きずられるように、疾風も表情を引き締める。
「――あいつは、UMAを捕まえるのが、小さい頃からの夢らしいんですよ」
「UMAってあれだよな? ネッシーとかイエティのことだろ。でも、あれって二〇年ぐらい前に発見されてなかったか?」
「されましたね。確か、いまから二一年前ですかね。一九九二年に、ネッシーとイエティは同じ年に捕獲されてるって、勇次が教えてくれました」
「じゃあ、ダメじゃんか。いまさら、それを捕まえてもUMAっていえないだろ? 未確認じゃないんだから」
「それが勇次の話だと、まだ捕獲されてないUMAってのも、結構な数がいるらしいですよ。だから、まだまだ可能性はあるんですよ」
「ホントか? 興味ないから、全く知らなかったな」
「意外ですね。UMAっておれらが小学生の頃とかに流行ってましたよ。発見が相次いだ時期は、冒険家になりたいって奴、ウチのクラスには何人かいましたし」
「これってジェネレーションギャップか? 少なくとも僕の同年代には皆無だぞ。そもそも、UMAも流行ってなかったし。ひょっとして、岩田屋が異常だったんじゃないの?」
納得のいかない顔をしている守田が、ポンと手を叩いた。
「岩田屋が異常。その可能性はありますね。なんたって岩田屋にはUMAの都市伝説がありますから」
「都市伝説ぅ? これまた、怪しい言葉が飛び出してきたな」
「世界的にUMAの発見が相次いだ時期に、日本全国の都道府県で、最低でも一箇所は話題になった場所があるんですよ」
「それが、●島県の場合は岩田屋だったってことか」
「はい。『サンダーバードが飛んでた』って、マイナーな雑誌で特集ページが組まれたそうですよ。残念ながら、テレビの取材は来ませんでしたけどね」
「サンダーバード? 雷の鳥って、ライチョウか?」
鳥の姿が頭に浮かぶ。パッとイメージできたのは、ライチョウではなくてカラスだった。
どこにでもいる鳥だから、UMAとは正反対のものを想像したことになる。
「ライチョウのわけないじゃないですか。てか、本当に何も知らないんですね。自分が住んでる町のことなのに?」
「住んでるっつっても、高校卒業して一人暮らしするまでは、槻本山を挟んだ隣町の実家で暮らしてたからよ」
「あー、そういわれると仕方がないことなのかもしれませんね。岩田屋に来ても、特にやることってないですから。車持ってたら隣町の黒芦町に遊びにいきますよね」
「いやいや、黒芦もそこまで都会じゃねぇぞ。全国展開されてるチェーン店が多いってだけだろ」
「田舎の人間は、そういうのに憧れるもんなんですよ」
「よくわからんな。岩田屋だっていいとこじゃねぇか」
「どこがですか?」
「家賃が安くて、美人が多い」
岩田屋のような田舎に大学の分校があることで、この二つの長所が奇跡的にうまれた。
なんでも岩田屋は、歴史的に謎が多く残っている土地らしい。
これは都市伝説のような怪しい話ではない。事実、戦前から研究者が集まっていたようだ。それが元となって、地質学や民俗学といった疾風には縁のない勉強をする大学の分校もできた。
大学に通う学生が増えると、家賃の安い集合住宅が数多く建築されていく。
ラブホテルに通うデートを数回我慢すれば、そこそこの部屋に住める状況となった。
そして、田舎だからセックス位しかやることがないのか、はたまた研究の息抜きの一環か、学生のうちに子供ができる例が多かった。
美人が子供を授かり、そのまま住み着くのもざらだった。人工が少ないくせに、アイドル級の美男美女が多いので、歴史的にそういう土地なのかもしれない。
槻本山の頂上から岩田屋に石を投げれば綺麗な子に当たる、という冗談もあるぐらいだ。
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