第13話
『現代文 100』『数学 100』『科学 100』『英語 97』
返ってきたテストたちを見、智大は内心憤った。英語を三点間違えている。
ここの間ずっと、家庭教師を全うしていた。気を抜くと始まっているペン回しに最初は苦労したものの、朱璃はすぐに勉強内容を吸収していった。結果として彼女だけでなく、自身の復習にも繋がったわけだが、結果間違えては意味がない、と自分を責めていた。
全教科分のテスト返しが終わり、昼時に入った。時刻は午後の零時。テスト返しの日は午前の授業で終わりなので、帰宅の準備を始める。皆重圧から開放されて一喜一憂する中、隣で治が放心していた。「終わった」
「赤点か」
「吉本のアホ、勉強してないって言ってたのに。なんで普通に高得点なんだよ」
「真に受けたら駄目なやつだね」
「木田言ってたぞ、俺今回微妙だわーって。なんで赤点回避してんだよ」
「それも真に受けちゃ駄目なやつだね」
「何かがおかしい……。そうだ、採点ミス! 採点ミスはねぇのか⁉」
治はすごい勢いで英語のテスト用紙を取り出すと、泣く子も黙るにらめっこをはじめる。彼に限っては一憂どころの話ではないようだ。
「まだだぞ、俺は諦めねぇ、希望は残されてるはずなんだ!」
「真鍋君、すごく言いづらいんだけどさ」
「どした?」
「その点数だと採点ミスがあったところで赤点じゃないかな?」
「えっ、あっ――」
「やっほ」
絶望に染まった声を打ち消したのは麻耶だった。白い歯を剥き出しにしながら「どだった?」と訊いてきた。
「羽根田はどうなんだよ? 仲間だよなぁ⁉」捨てられた子犬のような目で治は訊き返す。
すると麻耶はドヤ顔を浮かべ、持っていたテスト用紙の束を一斉に裏返した。スポーティなイメージとは裏腹に、そのほとんどが九十点を超えている。
「残念だったな真鍋ぇ。あたしも馬鹿組だと思った? んぅ?」成金が札束をはためかせるかの如く、麻耶は大袈裟に用紙を仰ぐ。清々しいほどに悪辣な笑みだ。
「自慢しに来たんかい!」
「わざわざ恥晒しに来るわけないじゃん」
「くそっ、言われてみりゃその通りだわ」
まやちゃん、私にもここ教えてよぉ。背後から女子たちの声が聞こえてくる。
「すぐ行くから
麻耶はサイドテールを整え直し、いそいそと女子の輪に入っていった。内容までは聞き取れないが楽しそうに談笑しているのが見て取れる。愛嬌のおかげもあってか、麻耶はすっかりクラスの一員として適応しているようだ。
丸焼きトカゲのよう机に突っ伏す治を置いて、智大も席を立つ。麻耶たちの横を通り過ぎ、目立たない窓際でも一際浮いた席へと向かう。
「どうだった? 黒塚さん」そうして輪ゴムであやとりしていた朱璃に声をかけた。
彼女は智大を見上げると嬉しそうに笑い、机の上にテスト用紙を広げた。智大は一つ一つ目を通していく。勉強の成果はしっかり出ているようで、全ての教科が平均点を上回っていた。
「おかげさまで目標を達成できました。浦本様のご指導のおかげですわ」
「あはは、僕は何もしてないよ。結果を出したのは黒塚さんだ」
「謙虚ですのね、本当に――」朱璃は一瞬目を伏せた。「それよりカフェですわ、おすすめのカフェ。浦本様さえよろしければ、この後にでも行きたいと思っているのですが」
「僕は大丈夫だよ。まあ、こんなところで油売ってるのもなんだし、とりあえず帰ろうか」
執事の姿などまるで存在していないかのように、智大は頼りなさそうな笑みを貼り付ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます