第3話 同好会

「なにー!同好会を作る!?」

「現在形じゃなくて、もう過去形です。もう申請書は係の先生に提出してしましたから手続き自体は完了です。ありがとうございました、臣人先生。」

あれから20分位して綾那達がまた調理室に戻ってきた。

準備室にあるテーブルを臣人、綾那、美咲で囲んでいた。

バーンは窓際に立ち、壁に寄りかかりながら外を見ていた。

「臣人先生におかれましては、わが会の熱血顧問に就任であらせられます。

(パチパチ)で、私、不肖劔地綾那が部長。本条院美咲が副部長を務めさせていただきます。」

綾那が拍手をすると、美咲も無表情で手だけ動かしている。

「そやかて、おまえら合唱部員やろ? そっち、やめてまうのかいな?」

「いいえ、“三月兎研究会”は基本的に週1回の活動です。合唱部は必ず金曜日がお休みですので、その日を活動日にしました。」

「部のかけもちなんて、今の高校生の常識。」と、ぼそっと美咲が言った。

「何を研究するのか、いまいちわからへんで。さっきバーンから聞いたけど、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』でも研究するのかいな?」

「表向きは」

「表向き?」

「はい。」

「裏があるんかい?」

「一応それなりに装ってないと。あとでクレームが来て“ご破算”なんていやですから。」

「で?」

臣人が右腕をズズッとテーブルの奥に乗せてきて、話を迫った。

「えー。言わなきゃダメですか?」

苦笑いをして、ちょっと照れくさそうに綾那が笑った。

「当たり前や。まず何でも顧問のわいに言え!」

臣人は偉そうに、胸を張ってふんぞり返った。

「あのですね」

綾那は臣人の目の前で視線を上下に何度も行き来させていた。

「“占い”…研究会なんです。タロットカードとかやりたいな…って。」

それを聞いたとたん、臣人は口をあんぐりとさせてしまった。

バーンも彼女らの方は見ないものの、小刻みに肩が震えたようだった。

「私はただの付き添い。」と美咲。

祥香このあいだの件に触発されたかいな。なあ?」

臣人が窓際のバーンの方に向かって声をかけた。

「……」

けれど、やはりバーンの方の反応はなかった。

ふうっと臣人は深いため息をついた。

「! 本条院はわいらのこと知って!?」

臣人は何食わぬ顔でいる美咲に驚いた。

祥香の事件の時は、彼女は確かにいなかった。

「あ、みっさは大丈夫です。口は悪いんですけど、堅いし。私との約束は絶対に守るから。」

「そうか。ほなら劔地、それと本条院。ひとつ言っとくで。」

真剣な顔(と言ってもサングラスをしているので定かではないが。)でじっと二人の顔を見据えた。

綾那はぐっと緊張が増したように、背筋がピンとなった。

「力のあるもんの側には、何かと不可思議なもんが寄りやすい。これは前に言ったな。」

「はい。」

「それと同じようにそのまわりにいる奴らにも同じ現象は起こりやすいんや。良きにつけ悪しきにつけな。わいらみたいなのがおらなんだら、別にタロットだろうが何だろうがやってええ。」

「……」

無言でうなずきながら綾那は聞いていた。

「今回のことは、そうやない。何かしらの影響が出ることを覚悟せえよ。真剣にやって当たり前や。遊び半分でやったらぶっ飛ばす!」

臣人はテーブルを拳でドンッと叩いた。

鈍い音が響いた。

綾那と美咲は肩をすくめた。

「せやから条件は付ける。」

「条件、ですか?」

「活動場所はこの準備室のみ。それ以外の場所ではカード占いを絶対せぇへんこと。ええか!!」

臣人は本気で語気を荒げた。

まるで彼女たちを叱っているようだ。

「じゃあ、やっていいんですね?」

にっこり笑って綾那がうれしそうに言った。

「やるな!いうても、やるんやろ? そんならいっそ目の前でやってもろうた方が少しは安心や・・・。」

「はい、もちろんです。」

「それからな、わいとバーンの言うことは絶対きけぇよ。たとえ、それがあんたらにとって意に添わないことでもな。」

臣人は祥香(このあいだ)の件を思い出しながら言った。

いくらバーンと自分がいるからと言って、生徒を常に危険な目に遭わすわけにはいかない。

「はいっ。わかりました。ありがとうございます。」

拍手して喜んでいる二人の姿を尻目に、臣人は眉をひそめた。

「ホンマにわかってるかぁ?」

バーンは臣人の方に『わかってないんじゃないか?』という顔を向けた。

その視線を感じつつ、臣人は準備室の壁にかけられた丸く大きな時計を見た。

4時半を回っていた。

「今日はこれくらいにして、そろそろ帰りぃ。」

「また来週ですね、臣人先生。」

とても楽しそうに綾那が言った。

「来週もこの面子?」ちょっといやそうに美咲が言った。

「なんや不満か?」

「別に。」

「じゃあ、失礼します。」

そういい残すと二人は、カバンを手に調理室をあとにした。

調理室の出入り口の施錠を確認し、準備室にもどってくるとバーンが彼を待っていた。

「……」

「やめさせたらよかったって顔しとるで。」

「……」

「それとも、わいら二人の憩いの時間をあいつらに邪魔されとうなかったか?」

いきなりバーンが臣人の頭をゲンコツで殴った。

臣人が両手で頭を押さえる。

「冗談や。冗談。すぐそうやってムキになるなって。」

「……」

『限度がある。』と言わんばかりに、バーンは臣人をにらんだ。

「かわいげのない。」

こうもストレートに反応を返したバーンを臣人はうれしく思ったのか、にんまりと笑った。

「こないだのこともあるしな。また、ポルターガイストで包丁だの、フォークだのに飛ばれても困るさかいに。ま、とりあえず重度の結界を3重くらいに調理室と準備室とに張っとけばなんとかなるやろ。」

「……」

「もちろん、手伝ってくれるんやろ?」

手伝ってくれることを確信した顔で、にっこりと笑って臣人が言った。

バーンは、『この男は。』という顔で彼を見ていた。

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