第2話


「君は比較的高度な知能を有する傾向にある」


 こないだと同じ服。こないだと同じ表情。

 ホムセンのトラロープを手に矯めつ眇めつ強度を確かめてたあたしは不意を打たれて固まった。


「従って君さえ問題無ければ人類の現実を教授願いたい」


 いやいやいやいやいや。なにこれ。なにが進行中。あたしが比較的なんだって? 思考停止して動けないあたしに、幼女はまっすぐ視線を投げてくる。

 ……まぁとりあえずは。


「あなた、お名前は?」

「振動言語で称される名称は所持していない」


 逃げてもいいかな。


「しかしこの地域の言語では……、ヒメ、に類する単語で呼称されていた」

「じゃあヒメちゃんね」


 よかった、名前すら覚えてない系かと。警察なんかと関わったらあたしもめんどくさいことになるから。

 お名前が分かったところで次の質問だ。おい幼女、平日の昼間にこれを喰らってタダで済むと思うなよ。


「ヒメちゃん、学校はどうしたのかな」

「当該発達段階であれば通常所属している環境と我は関連しない」


 よしきめた。

 ばいばい。


「拒絶されたと見做すのが最適なのだろうか」

「そうだねー」


 ついてくんな変態。


「お姉ちゃん忙しいから話しかけないでね」


 すたすた。あたしは自分の始末つけるのに集中したいんだよ。あんたみたいな頭のおかしいやつに付き合ってる時間はない、

 ……頭のおかしい、ね。

 そういうやつ、初めて見たかも。あたし以外にさ。

 つと振り返り、少女の顔を覗き込む。うむ、何度見てもふつう。


「我は現実を知りたいのだが。力添えは期待できないと捉えるべきだろうか」


 現実。ふうん。じゃあ教えてあげるよ。


「ばいばい」


 人生ね、思うようにはいかんのよ。これが現実、さようなら。




     *




 数日後の深夜二時、例の公園に行ってみる。


 あの女の子についてはいやまぁ実はちょっとは気になってるよ。超不確定要素だからさ。

 真面目な話、決行したとき誰かに見つかると面倒どころの騒ぎじゃないし。ちゃんとダメになる前に中途半端な救助受けでもしたら目も当てられないかんね。最悪。だから確かめとこうと思って。暗さと、人気のなさ。それと脚立はでかいの買えば間違いないけどそんなん運んでたら目立つから、いちおうメジャーで測っとこう。何事も下拵えが大事だよ。

 とか考えながらやってきたら、


 ヒメちゃんがスーツのおじさんに声をかけられてた。一緒に歩き出す。背中に手が回ってる。待て。待て待て待て。


 あまり使わない声帯を酷使しながらおじさんに話しかけ、親類じゃないと確認してからとりあえず蹴り上げといた。流石に見過ごせねえってばよ。

 あのね、何がどうなりそうだったか分かってる?


「哺乳類に分類される生物の生殖行動を要求されていると推察した」


 ストレートすぎんだよ。分かってんなら嫌がれよ。


「人類の基準からして我の外見特性では現段階の生殖が不可能だ。しかしながら彼は要求してきた。どんな意図や感情があったのか興味深い。教授を願う」

「あたしに聞くなそんなん……!」


 幼女をペドの魔の手から救ったらセクハラ受けるって。どんな沙汰だ。




     *




 ヒメちゃんは結局、あたしん家に泊まらせることにした。なんだかんだ言っても目覚め悪いしさ。いちどは助けたのにほっぽくってのもさ。


 歩いてる途中に我は宇宙を統括する天上存在からどうだしかし観察と報告の義務が消滅したからどうだ真実だ現実だと淡々しゃべくってたけど、総括すると「超科学が作ったアンドロイド」なんだとさ。面白いね。何かは分からないけど何らかの才能があるよキミ。


 ふへぇと息を吐きながらベッドに寝転んで目を閉じる。


「休眠に入るのか」

「疲れたんだよあんたのせいで。そのへんで適当に寝なね」


 自称超科学のアンドロイドさんは眠るのかね。知らんけど。


「応。我も睡眠をとる。振動言語での意思伝達は疲労が大きい」


 その年でコミュ障。大変だよお互い。


「収束されず他空間へ散らばるため常に彼我の位置関係を考慮する必要がある。その割に精緻な調整が要求され続ける。しかも肝心の伝達結果は不明瞭極まりない。非効率の極致だ」


 超馬鹿にされてる気がする。人類代表として怒ったほうがいいのかな?

 でも実際その通りだし、でなきゃお母さんは死ななかったろう。あたしは? まどうでもいいや。


「じゃおやすみ」

「君が入眠する前に確認したい」

「?」

「生しょ」

「黙れ幼女」


 こんな食い気味にツッコんだのなんて初めてだな。ほんと油断ならねぇわ。人生ってやつは。


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