落ちこぼれ魔法少女✡

しーな

第1話 ✡ 火曜日

私、小学三年生、女子。

私のクラスは、至って平凡だ。

他のクラス程荒れてないし、かと言って大人し過ぎる訳でもない。

みんな適度に元気で、それなりに『小学生』を楽しんでいる。

そう、あの子以外は。


今日は火曜日。登校班のみんなと一緒に登校して、学校に着いたらまずランドセルから教科書を取り出して、水色の道具箱の中に入れる。ランドセルを教室後ろのロッカーに入れて、友達と校庭に走るんだ。

8時40分になったら、朝読書の時間だ。みんな自分の席に着いて、図書室で借りた本や、自分で持ってきた本を読むの。私はこの間お母さんに買ってもらった魔法少女のお話を読む。

「あ、名札付けるの忘れてた」

前の席に座っているあやめちゃんが立ち上がって、名札を取りに行く。

「寒いから上手く付けらんない」

そう言いながら、悴む手で一生懸命名札を付けていた。ちょっとだけ曲がってる。

「三、四時間目は体育だね。ハンドボールやるらしいよ、朝の会でチーム分けするんだって」

「えー、私ハンドボール嫌いだなぁ」


今日も、一日が始まる。


「おい、今日の日直誰だ?杉田と瀬尾か?早く前に出てきなさい」

担任の先生が声を荒らげる。教室入って早々怒るんですか。周りを見渡すと、みんなも不満そうな顔。

「先生、瀬尾さん居ませんよ」

誰かが言う。

「あー、瀬尾は休みだっけな。じゃあ杉田、一人でやれ。」

「はぁ?」

眉を顰める杉田君。

「そりゃそうだよね、日直一人でやるなんて私も嫌だもん」

「んね、先生謎に拘るよね。日直の順番一人ずつずれたっていいのに」

「だよねー」

あやめちゃんともなちゃんと一緒に、先生に聞かれないように、小声で先生を批判する。

「そこ!話すのやめろ!」

指差して怒られた。私達は顔を見合わせて、渋々前を向く。

「ほら、早くしろ、杉田」

「へーい。きりーつ」

ガラガラガラ。教室中の椅子が動く。椅子をちゃんと机の中に仕舞わないクラスメイトが居れば、すぐさま先生の怒号が飛ぶ。

「気をつけー。れーい」

『おはようございまーす』

「ちゃくせーき」

ガラガラガラ。教室中の椅子が動き、杉田君以外のクラスメイトは全員席に座った。

朝の会が始まる。欠席は瀬尾さん――茉莉菜ちゃんと、真壁君の二人だった。茉莉菜ちゃんはノロウイルスで、真壁君はインフルエンザに掛かってしまったらしい。

杉田君がスピーチをして、全員が席に着くと、一時間目が始まる。

火曜日の一時間目は国語だ。私は国語が得意だから苦じゃないけど、国語が苦手な子は嫌そうな顔をしている。

私はそれよりも、二時間目の社会が嫌だなぁ……。


国語の時間、二つの班を一組にして、グループ内発表が行われた。物語を読んでその感想を言い合うんだそう。

「えー、めんどくせー!」

「ちょっと静かにしなよ、あずちゃんが話してんのに聞こえないじゃん!」

「うるせーうんこババア!」

「は!?そういう事言うのやめな!?」

あああ、私のグループは男子と女子が対立して発表どころじゃないよ。他のグループは結構ちゃんと進んでるのにぃ。

「発表したフリで良くね?」

秋山君が言うと、みんな頷いた。そしてそれぞれお喋りを始めた。うー、私今回の感想文は結構自信作だったのにな。筆者の気持ちが分かったし、隠喩だって理解出来たのになぁ。


「あ、あの。」

一人で勝手に落ち込んでいると、斜め前に座っていた子がそっと手を挙げていた。

「私の感想、聞いてほしい」

ぼそりとそう言った。

「…………ねぇ?」

「……だよね」

女子達は顔を見合わせて、顔を引き攣らせる。男子達はすぐにまた騒ぎ始めた。

「私は、この小説を最後まで読んでも、作者の本当に伝えたかった事が分かりませんでした。でも作者はとても辛い思いをしてきたんだってことは分かりました。作者がこの小説を書いている時、どんな気持ちだったんだろう。分からないので、みんなの意見を聞いて、答えを見付け出そうと思います……」

その子は、みんなが聞いていないと言うのに、最後まで発表したのだ。私はびっくりした。こんな状況でも真面目に発表しちゃうなんて。

でも馬鹿。あなたは何を言っても駄目なんだよ。だからもう余計な事言わないで?


その子は、二ヶ月前にこのクラスに転入してきた女子児童だった。

微妙な時期に転入してきたのと、余り空気を読むのが得意じゃないせいか、結構初期の方から孤立気味だった。クラスに馴染めていないみたいで、私やあやめちゃんが話し掛けても、「何で私に話し掛けてくるの?」みたいな疑り深いような視線を向けられるだけで、何も話してくれなかった。だから私はあれからこの子に話し掛けた事がない。

「あの子、なーんかムカつくんだよね」

クラスの中心でいつも笑っているあずちゃん達がそんな会話をしているのを耳にした事もある。そしてあずちゃん達があの子を無視しているのも見た事がある。


私のクラスは、至って平凡だ。

他のクラス程荒れてないし、かと言って大人し過ぎる訳でもない。

みんな適度に元気で、それなりに『小学生』を楽しんでいる。


そう、あの子以外は。


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