第20話:私の夢

フ■イ▲、フ■イ▲よ……、




 なんだろう……、




 見たことのない景色なんだけど、今までそこに居たかのような、




 どこか懐かしいような、




 この声は……っ!




「フ■イ▲、朝ごはんよォっ いつまでボーッと寝てるの?」




 どうやら私は、寝ていたらしい。




 とある部屋の一室だ。




 周りの装飾は、ピンクのものが多く、いかにも女子、それも幼い女子のものかと感じさせる内装だ。




 私は、このことに疑問にも思わず、眠気にあらがうかのように目元をこすると、香ばしい香りが部屋のドアの隙間から漏れて、私の鼻をくすぐる。




 この匂いは、シャンタク鳥の卵の目玉焼きだ。




 私はその匂いに誘われ、部屋を後にし、リビングへ向かった。




「さ、冷めないうちに、召し上がれェ」


 と私に言う女性は、ピンクがかった、ロングヘアをひとくくりにし、ポニーテールにしており、変わった特徴といえば、頭部に二本の角があることだ。




 変わった?




 あれ?




 おっかしいな?




 彼女のことはずいぶんというか、毎日のように見慣れている“日常”そのものなのに、変わったなんて思うのかしら?




 私は先ほどは全く違和感を感じず過ごしたが、ここから違和感を感じ始めてくる。




「い、いただきます……っ!」




 ……




 美味しい。




 そう、




 シャンタク鳥の卵の目玉焼きは私の好物。


 少々大味だけどまろやかで、本当は繊細な後味を引く、私の好物。




 私は、自分でもいうのもあれなんだけど、柄にもなくガツガツとさらに食らいつくように、目玉焼きプレートと焼き立ての食パンを平らげる。






「ご馳走様ぁっ! 美味しかったぁ!」


「フ■イ▲ァ! あ~ら、やだァ? 改まっちゃって、どうしたのォ?」


「なんか、よくわかんないけどいつもよりおいしく感じたわぁ」


「ふふっ。ま、うれしいけどォ。ちゃんとお口ふくのよォ? せっかくの美人さんが台無しじゃあないィ?」


「うんっ」


 私は角の生えた女性に促され、口をふくため洗面台の鏡に向かう。




 確かに、口の周りはシャンタク鳥の卵の黄身でべとべとだ。




 見っともないので私はすぐふくと、




「フ■イ▲ァ、前々から気になってるんだけど、寝ぐせ直さなくなったわねェ」




 ああ、これか?




「こ、これは、ざ、雑誌に載ってた“イカリングヘア”でも試そうかと思ってぇっ」




 なぜか私の髪の毛は短い。




 ミディアムショートといったところか?




 イカリングヘアにするには、長さが足りない。




「だ~め~よォ~、これじゃただの寝ぐせじゃないっ、えいっ、うりうり~」


「きゃっ?」


 女性は後方からわしゃわしゃと私の髪の毛を押さえつける。




楽しそうだ。




んっ?




 女性のスキンシップにくすぐったく思う私だが映る鏡の中の私をみて、違和感。




 イカリングにする予定の部分の髪の毛を束ねたところから、何やら硬質な“何か”が見え隠れしだすと、




「あれっ? 私こんなところにごみでも挟まったのかなぁ? ……っ! えいっ! あれれぇ、取れない……っ!」




 私はゴミだと思ったそれを取ろうとしたが、それはどんなに引っ張手も取れずに、




「ねぇ、これ取れないんだけどぉ、取るの手伝って!」


「あ~らァ、やだねェ~。それは取れないに決まってるじゃな~い? だってあなたは私の大切な……」




 んっ?




 一瞬彼女の声が曇って聞こえて聞き取れない。




 私はもう一度髪に詰まったごみを確認するためその部分をまさぐり返すと、




 えっ……!?




「だってあなたは私の大切な娘じゃあないィ?」




 それは、私の○○。




 私がそう認識したとたん、母さんの体から突然発火し、彼女の皮膚はゾンビのように焼けだだれ、骸骨へと成り下がった。




 嫌、いやあああああああああああああああああああああああああああ――! 母さん! 母さんっ! 火が! 眩しいっ! お父さん! みんなぁ! 熱いよ――! 嫌ぁ――!




 私が心の中で悲鳴を上げると、世界は暗転し、床が抜けるように落ちる。




「はっ……!」




 がたっと私は目覚めたようだ。




「フ、フレデリカ……さん……?」




 天井は灰色がかったカラー、




 周囲はガタガタと揺れている。




「だめじゃないですか~? 人と約束してすぐさま泥酔なんてっ……! それにしても、気持ち良さそうにしてたと思ったら、急に顔色悪くなっちゃって? 吐くかと思いましたからねっ?」


 パカラ、パカラ、と金属音が木霊する。


 どうやら、ここは機馬車の中のようだ。




「お客様? ここいらで大丈夫?」


「ええ! そこを曲がったところで停車お願いしますっ」


「あいわかりました~」




 飲みすぎたせいか、のどかからからになっていたので、そばで運転手とやり取りしているアンジェリーナに、


「アンジェちゃん? 水を一杯もらえるかしらぁ?」


「まったく……、あなたって人は……。水っていうか烏龍茶ならバッグの中にありますよ?」


「それプリーズぅ!」




 二人が乗る機馬車タクシーはとある集合住宅の前でききっと停車した。


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