第19話:大爆発のその後
「こ、これは――! ひどすぎる……、こんな事があっていいのか!」
「一体誰がこんなことを――! 犯人は真に最低なやつだ! 許せん!」
「きゃああ!? 男の人が裸で転がってる――!」
辺り焼け焦げた痕が所々ある、商店街にて。
商店街の人間が一箇所に群がっている。
それは何故かと言うと、身ぐるみを剥がされ、ロープで亀甲縛りにされて地面に転がされており、股間に“焼き立て”と書かれた紙札が貼られていた男がのたうち回っていたからだ。
「フガ、フガ――! (ま、まさか、この俺がここでやられるなんて……)」
男は猿ぐつわをはめられ、しゃべることはできず助けを求めているが、なぜか周囲には特殊な結界が張られているため、誰も彼に近づくことはできないし、彼自身もこの場から動くことはできない。解除魔法なしでは。
――場所は変わって――
「ふぃ~、一時はどうなることやら……。 爆裂魔法を町中でぶっ放すバカが居るとはな」
タクヤは商店街を抜けた路地を走って直進。
路地は家々が混み合っており、薄暗い。そのため走っているタクヤの体感速度は速い。
「一応妙な魔道具仕込んでるかもだから身ぐるみ剥がさせてもらったんだが、あれはちとやりすぎだったかなぁ」
先程の商店街の全裸男の件の下手人はタクヤだ。
「ま、念の為、警察に予約発信する遠隔発信魔道具仕込んだし、貼っつけた札の裏に証拠の在り処書いといたから問題ないはずだがな……」
走りながら先程のことを振り返る。
(それにしても、なぜ俺を人払いしてまで襲ったんだ? あと、さっきの焼き芋屋、炎熱系の能力だったけど、結界魔法で受けた感じだと魔法とは異なる感じだったな)
「念の為ルゥルゥに通信っと……、あれ? 通信が繋がんないや。まさか携帯不携帯なんじゃあないのか?」
タクヤは連絡用に携帯魔導魔導端末をもたせていたが、肝心な時に機能しないので苛立ちが募る。
「嫌な予感がしてくるな……」
裏路地を抜けて、タクヤの自宅のアパートにたどり着いた。
アパートの入口に入り、タクヤの部屋のある3階へ階段で登ろうとすると、
ぼちゃ――
肩に粘性のある液体が滴り落ちる。
その液体は異様なほど生暖かく、水色に着色されている。
「!!」
機馬車と呼ばれるの機械仕掛けの馬が引く荷馬車のタイヤほどのサイズの液体――スライムが、タクヤにうじゅるうじゅると襲いかかった。
「うぉ!? やべぇ! うっかり掴まっちまった!? なぜこんな都会にスライムが――!?」
スライムはタクヤの身体にまとわりつき、動きを封じ込める。
「ぐっ……、動けねぇ……、こうなったら――!」
封じられている手をなんとか動かし、カバンに手を入れるタクヤ。
「だ、大丈夫だ。一舐めするだけだ――!」
ゴソゴソと鞄の中を探り出し、赤い液体が入った小瓶を取り出す。
キュポン、と小瓶の蓋を開け、蓋の方に付着している赤い液体を下に垂らすと、
「うおおおおお――! はあああああ――!」
力がみなぎり、目は血走る。耳はやや尖り気味になった。
全身から魔力のオーラを漂わせ、その邪悪なオーラで、スライムをスパン、と弾き飛ばした。
ゴム風船がはじけ飛ぶように。
「びぎゃああああああああああああ――!?」
スライムは子供の声のような断末魔の悲鳴を上げその液体のボディは爆散した。
さらに、別個体のスライム、色は先程のと異なり、緑色をしているものがタクヤに後方から襲いかかった。
「フンッ! 邪魔だ!」
「ぎええええええええええええええ――!」
タクヤは右手を居合の構えに持っていき、そこから手刀で抜刀するジェスチャーを取ると、邪悪なオーラは、真空刃となり、スライムを一刀両断した。
「もう残党はいなくなったか、って、今午前なんだっけ……、やべっ。日差しが! ぎゃああああああああああああああああ――! 熱い、あちちちちっ!」
タクヤの左腕に日が差し込んだがそこから、青色の炎が上がったのだ!
「速く避難! うおおおおおお――!」
タクヤはアパートの通路の薄暗い日かげのエリアに走って退避すると、左腕の青色の炎は何事もなかったかのように消え失せた。
「“一舐めだから、あと10秒ってとこか。 ……3、2、1、ふぅ……、かはっ! ハアハア……」”
“赤い液体”の効果は消え、反動で激しい息切れを引き起こした。
タクヤは、周囲の安全を確認すると、3階へ上り、ギイバタンと自宅の扉を開けた。
「おかえりなさいませ、タクヤ様!」
「ハァハァ……、ただいまだ……」
「ど、どどど、どうされたのでしょうかですぅ? ボロボロですぅっ!」
「……ルゥルゥ、ここは危険だ、今すぐ転送魔法で避難できないか?」
スライムの攻撃を受け、傷だらけだったタクヤはルゥルゥに、退避を進言する。
「わっ、わかりましたですぅ! 荷物を取りに行くので、少々待っててくださいですぅ」
ルゥルゥは荷造りのため、玄関から一端踵を返し、奥の広間へ向かった。
タクヤはルゥルゥの無事を確認しほっとしたのもつかの間、
どさっ!
ルゥルゥはその場に倒れ込み、息を荒げだした。
「ルゥルゥ!」
「やっぱり……、隠し切れませんでしたですぅ……、ハァハァ……」
くそっ、まさかスライムの攻撃を受けてるんじゃあないだろうな?
血の気が引き、冷や汗を垂れ流すルゥルゥを見て、スライムが張り付いていないか探ってみる。
「くっ……、今なんとかすっから、じっとしてろよ……!」
が、スライムは飛び出してこない。
くそっ、
原因がわからない!
多分だが、魔物絡みの可能性がある!
不用意に救急魔導団呼んでも、戦闘系は対処が聞くかどうかわからん!
回復魔法のスキルを持たないタクヤは、手詰まりになり取り乱す。
(さっき、外から連絡取れなかったから、こっからせめてフレデリカに連絡かけられるのだろうか……! ワイズは完全シカトだろう。一かばちかだ! あいつなら魔法に無駄に詳しいからなんとかなるはずだ……!)
タクヤは魔導通信端末マグホを懐から取り出し、フレデリカに通話を試みる。
ぷるるるるる、ぷるるるるる、
「あらあん? らっくぅん~!? ひっくっ! ろしたのぉ~?」
「つながった! 緊急なんだっ! お前、白魔法に詳しいだろ?」
「あ~ら~し~を誰だと~おおおおおお~、思ってるのぉおお? 天下のぉ~、女神のぉ~、フレデリカ様ろよぉ~、ウリウリぃ~」
「きゃああっ!? ぐうっ、力強っ! 酒くさっ! は、話してくださいっ! このぉ! テメェ、人の話が来こないのかぁああああっ! このゲロ以下クソ女があああああ――! いた、あいたたたた!」
連絡先のフレデリカから聞き慣れない女性、いや、少女かと思われる声が聞こえてくるが、タクヤはそのことについては突っ込む余裕がなく、
「もちろんのようだな、俺の住所は知ってるよなっ? 今すぐ俺んちに来てくれないか? ルゥルゥが――!」
あまりにも切迫したタクヤの声に、
「う~ん、ま、正直に言えばぁ~、白魔法“も”使えるって感じ、ひっくっ! なんらけろなぁ~。もちろ~ん、いくわよぉ~」
タクヤ側は緊迫した状況ではあるが、連絡先のフレデリカは泥酔のためろれつが回らない。
「ああ、恩に着るっ」
ピッ
――ふう、ダメ元はうまくいったようだが……
(さっきのスライムを倒したら、通信妨害もなくなった? 普通スライムにそんな能力は備えてないはず……! つまり、意図的にこのスライムたちに何らかの術でも仕込んだのか……)
タクヤは先程の通信障害の件の原因を探る。
「ハァハァ……、タクヤ様ぁ、わ、私、死ぬんでしょうかですぅ……」
「今、フレデリカ呼んだからなっ! あいつ、普段はああだけど、結構何でもできるんだぜ?」
「そ、それは助かります……、です……」
ぐったりとしたルゥルゥは、途切れ途切れにタクヤにそう言った。
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