第18話:フレデリカ・ロンリー

 後輩に逃げられてしまったフレデリカは、ギルド酒場内の求人票を手当たり次第当たるため、ギルドの受付嬢に交渉をかける。


「お客様はお一人ですか?」


「ええ、お一人よぉ……」


「当ギルド酒場ではソロの求人は多くないのですが、一応今お渡した用紙に書かれておりますのが今日の全部です。大変申し訳ございません」


 いつものスキャッタさんではない、新人らしき受付嬢である。


 猫っ毛のミディアムショートヘアにリボン付きの鈴が付いたカチューシャが添えられている。


 制服はスキャッタと同じものであるが、彼女の控えめな胸元には初心者マークがつけられていて初心者マークのタグとセットでぶら下がっているタグには“アンジェリーナ”と記載されていた。


 そんな彼女は丁寧に優しい口調で、フレデリカに語りかけた。


「う~む、ふむふむ、ゴブリン討伐か……、最近彼らイキってるものね。これってホブ以上のやつも含まれるのぉ?」


 どうやらこの街の周辺のダンジョンや洞窟でゴブリンの活動が活発化しているらしい。普段は人里に降りてこないはずの彼らだが、数が増えすぎてしまったため、食料不足に陥り、家畜や人間も襲って殺して食料にしてしまうとのことだ。




 ここで、冒険者ランクというものがある。それにはポイント制度が存在し、単純に数多く弱い魔物を討伐していればランクを上げられると思いきや、強い魔物と弱い魔物のポイントの差は絶望的なまでに大きい。そのため、強い魔物を一匹でも倒すことはランクを上げる近道なのだ。




 通常のゴブリンに関しては一体一体はそれほど強くないため、冒険者ランク上げとして討伐を引き受けるのは効率が悪い。ホブやマジシャン以上のクラスとなると強さが段違いなので、フレデリカは、それらの有無を聞いたのだ。


「ホブゴブリンやゴブリン・マジシャン、ゴブリン・ナイトの討伐は、既に先客が引受決定となっておりまして、大変申し訳ございませんが、通常のゴブリンのみとなっております」


 新人らしき受付嬢のアンジェリーナは、新人に似つかわしくない事務的な態度でフレデリカを冷静にあしらう。


「え~、ボブいないのぉ~? 歯ごたえないじゃ~ん? まぁ、確かに通常のゴブリン叩いとけば、上級のゴブリンは発生しないわけだしぃ。でも、それ私ともあろうお方が雑魚プチプチ潰す雑用ってことぉ? 雑魚は他に任せるとして、もっと強い魔物はぁ……」


「このモス・ドラゴンってのは?」


「え~と、その魔物はですね、Fランクです……。 初心者冒険者向きの討伐案件となります……」


「ええーっ! ドラゴンなのに、雑魚だってぇ――!」


 フレデリカは頭を抱えて絶叫し、アンジェリーナはこのしつこい女ハーフエルフに動揺し始める。




「え〜と、他の案件はどれがオススメかしら? 受付嬢さん?」


「はい、ではこのメダルスライムの捕獲なんていかがでしょう? 貴重なメダルが手に入るチャンスな穴場クエストですよ?」


 先ほど紹介したクエストに不満があり断られたアンジェリーナは、これでもかと次のオススメクエストを紹介した。


「あのぅ、メダルスライムってあのメダルばっか食い荒らすやつ? すごくすばしっこいやつね」


「ええ、今ならクエスト受付料1000ギルに値下げしますよ。うふふ、どうでしょうか? 美しきエルフさん」


「あら、あなたわかってるじゃあない? もっと私を褒めていいんだよ? よしよぉ〜し、偉い子偉い子」


 フレデリカは美しいと言われ、調子に乗りながらアンジェリーナをものすごい勢いで撫で回す。




 サラサラの髪をさらさらと撫で回す。




「アッハハ、ひゃん!? くすぐったい! 出現率はは驚異の0.1パーセント! はっ!?うっかり喋ってしまいました」


「レアすぎて仕事になんないやん!? はい次!」


「チィッ! うう、それではこちらはいかがでしょう?」


先ほどの落ち着きはなくなり、慌てふためく新人受付嬢。ついでに舌打ちも。なでなで攻撃に弱いらしい。




「お客様? 先程ご一緒だった男性の冒険者はいかがしたのでしょう?」


「あの朴念仁は、サボって帰ったわよ? あの同居人の幼女にバブみに行ったんじゃあないかしら?」


「バブみ……? 左様でございますか……。では、近隣のギルド酒場に取り次いでみますのでお待ちいただけないでしょうか?」


 先程の取り乱し用から、テキパキデキる女モードに戻ったアンジェリーナは、臨機応変な対応をフレデリカに見せつけたが、




「あーっ、もういいわぁ! 今日は私もオフということにさせてもらうわぁっ! ヒャッハー! ワンカップ飲むぞー!」


「あ、ありがとうございましたー、またのご来店をー」


 アンジェリーナは、事務的に清楚な営業スマイルでフレデリカを送った。




 ――つもりだったが、




「キサマも一緒よぉ――! 未成年のようだから、キサマはジュースにしといてあげるけど」


「えっ!? ちょっと――!? きゃあああ!? た、たすけてぇ~! スキャッタ先輩いぃぃぃぃぃ! てかなぜ貴様呼ばわり!?」




 フレデリカに強引に腕を捕まれ、受付場から引きずり出されたアンジェリーナは、先輩に助けを求める。




 受付場の奥で休息をとっていた、スキャッタ先輩といえば、




「休憩終わったんで、その娘貸したげる、フレデリカちゃん?」


「ちょ、ちょっと――! 嫌、いやあああああああああああああ――!」


「フレデリカちゃん、のんべーだからね。今からでも大人の付き合いに慣れときなさい。研修ということにしとくから」


「こんなめんどくさそうな人の相手嫌よぉおおおおおお!」




 当のアンジェリーナは悲鳴を上げるが、この会話を見てた冒険者たちは、微笑ましく彼女らを見送った。

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