第17話:無断欠勤

「はぁはぁ、……ヒィ、フレデリカは撒けたようだなっと!」


 念のため追ってきてないか周囲をキョロキョロと見回すタクヤ。


 タクヤ本来の通勤路を外れた、商店街に出た。


 昔からある魚屋、最近できたオサレカフェ、いろんなものが入り乱れる商店街だ。




 逃げるときは人ごみにという作戦で近くの商店街に飛び込んだタクヤであったが。




「昼間ってのにやけに人が少ないのか?いや、最近の商店街ってこんなんな?」




 異様に人が少ない、




 いや、




 いない!




 人払いの術か?




 タクヤは周囲の違和感から警戒を始めるが、




「いーしやーきいもー、やーきいもー」




「ふう、いるじゃあないか?人。考えすぎか?」




 タクヤはホッとする。




「やーきたて〜」


(な、なんだ、焼き芋屋が通っているじゃあないか?)




「お~、前、がぁ――! やきたてぇええええええ!」


「!!」


 ズドオオオオン――!


 タクヤの眼前で大爆発が起きた。






「ふんふ〜ふふん♪ タクヤ様がいない間に冷蔵庫を野菜だらけにしましたですぅ。野菜を食べないと強くなれないですから」




ルゥルゥはタクヤ宅にてお留守番だ。




――1時間前――


「いいか? お前は転送魔法があるから、いつでも俺らのところに駆けつけられるはずだ。というのも、実はワタクシ、通販頼んじまいまして、おなしゃす! ルゥルゥ! いや、ルー様!」


「はぅぅ、た、タクヤ様? 一体全体どうなさったのですか? 転送魔法で酒場に駆けつけることはできますが、その、突然ルー様ってかしこまってまで……」




 壁ドンよろしくな勢いで、幼女の両肩を掴んで頼み込む青年。




 側から見たら、事案である。




 銀髪ダークエルフ幼女は突然の頼まれごとにあたふた、あわわ、と動揺していた。


あまりに顔同士が近距離なため、頬には、ほんのり朱がさす。




 実は、ルゥルゥはタクヤの家に転がり込んでから、空き時間があり、つけたテレビで放送されている昼ドラに壁ドンや肩ドンのシーンがあったのでそれに影響されていたのだ。




「多々他、タクヤ様ぁ、ぷしゅーう、きゅーう」


 ルゥルゥは緊張のあまり、パンクした。


「おいっ、ルー様、しっかりしてくださいまし!」


「タクヤ様ぁ、言葉使い元に戻してくださいですぅ……」




――とそんなこんなで、今日はお留守番である、ルゥルゥ。






ピンポーン!




「はいっ! ですー!」


「ムサシ急便でーす、お届けものでーす!」


 インターホンが鳴った。




 このアパートはセキュリティロックはないのでドアまで直接配達員が来る。


 そのため、ルゥルゥはすぐに扉を開けた。




「……中身は見るなって言ってたんでしたっけ、タクヤ様」


 荷物を受けったルゥルゥは先程のタクヤの言いつけを思い出す。


「言いつけは守らないとですね!」


 ルゥルゥは受け取った荷物を持って、奥の居間に向かう。


「お部屋も綺麗、おトイレも綺麗、ご飯まで時間もたっぷりですぅ。そういえば、暇ならゲームでもやってろってタクヤ様はおっしゃてましたね」


 本棚に整理整頓されたゲームソフトの中から、キャラクターがカーレースをしているイラストのパッケージのものを取り出す。


「アリアカートEX……、これでもやってみますですぅ」


 アリアカートEX――


 テレビゲームに、スーパーアリアシスターズというものがあり、主人公アリアが姉、もうひとりのプレイアブルキャラクターがルイズで前者が赤い帽子、後者が緑の帽子をかぶった横スクロールアクションゲームを発祥としたシリーズである。その外伝作品でアリアカートシリーズというものがあり、スーパーアリアシリーズのボスキャラのグッハ大魔王や攫われキャラのメロン王子、同メーカーのゲームキャラであるヤンキーウータンなども参戦しているレーシングゲームのシリーズである。タイトル名につくEXは、プレイドリームEXというゲーム機のEXからとったもので、本作でシリーズ5作目となる。


「さて、プレイドリームEXの使い方が初めてですから、どこに、ソフトのチップをセットするのやら……、ここですね、よいしょっと、ですぅ。スイッチ・オン!」


テレビ画面にゲームのタイトル映り、ゲームの準備を進めていく。




「あ、この”ヨッピー”可愛いのですぅ。これにしますですぅ」


 ヨッピーとはシャンタク鳥モチーフののキャラクターでスーパーアリアシリーズに登場する、主人公アリアのパ^トナーにして乗り物なキャラである。なぜか舌を伸ばし、敵を飲み込む能力を持っているのが特徴である。アリアカートシリーズでもおなじみのキャラクターで、軽量・高加速が売りであるため、ゲーム初心者でも扱いやすい。


「スタートしましたですぅ。あ、赤い鱗ですぅ! これどうやって使えば……!」


赤い鱗とは、前方のドライバーに向かって投げつけるとある程度自動追跡してくれる飛び道具アイテムなのだ。


「よくわからないので、えいっ! ですぅ!」




 ずぎゃあああん!




 前方のドライバーキャラ、”ノロノロ”という下っ端トカゲのキャラクターに命中、スピンして気絶した。


 そこをヨッピーが抜き去ると、アイテムボックスが目の前に現れたので、触れる。




「次のアイテムは、ニンニクですぅ、えいっ」




 ニンニクはスーパーアリアシリーズでおなじみのアイテムで、シスターズでは、プレイアブルキャラクターを大きくするアイテムで、アリアカートシリーズでは、急加速の効果を得られるアイテムである。




ゴールは目の前。




 ヨッピーはニンニクを用いて加速すると、前方のトップのワルイーズというルイズの悪いバージョンみたいで紫の帽子をかぶっているキャラクターに追いつくと、ワルイーズの後方にピタリと付けた。




「いっけぇ――! ああっ! ですぅっ!」




 ワルイーズを抜き去ろうとした瞬間、アイテムボックス型の爆弾をヨッピーの目の前に置かれ、ドカーン、と激突しヨッピーのカートが跳ね上がった。


 そのスキに他のコンピューターのキャラクターが続々とゴール、5位でゴールテープを切ったのだった。


「こ、これってやり直しなのでしょうか、ですぅ……。も、もう一回ですぅ!」


 アリアカートでは5位以下だと次のステージに行けない仕様なので、リトライボタンを押し、同じコースをやり直すことにしたルゥルゥ。




 ピンポーン!




「は、は~い、ですぅ!」


「サガラ運輸です! お届け物です―!」


「タクヤ様は一体いくつ通販されているのでしょうか? 無駄遣いが多すぎるような気がするのですぅ」


 ルゥルゥはむくれ顔になりながらゲームをポーズ画面に切り替え、コントローラーを床に丁寧に置き、玄関に置く。




「はーい、ただいま行きますですぅ!」


「こんにちは―! ではこちらにサインを――」


「!!」




 サガラ運輸の制服を着た男は、サインを求めながら扉の端っこを鷲掴みにし――


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