第16話:高額クエスト
タクヤはいつもどおり、ギルド酒場へ出勤。
ぎぃ……、カランカラン
ギルド酒場スカイフィッシュの扉を開け、中に入る。
通常通り店内はガヤガヤと騒がしいのだが、どこか雰囲気が違う。
周囲の様子がどこか不安げ一色なのである。
「おいっ? なんか様子がいつもと違うから、どうかしたのか?」
タクヤは適当に店内にいるどこぞの誰かわからないゴツめの冒険者に話しかけた。
「ああ? いつもここいらで見かける兄ちゃんか? あれみろよ?」
“あれ”と言われ、タクヤは冒険者が指差す方向へ向ける。クエスト依頼票だ。
どれどれ……
「“最近この付近でキメラ化した人間が騒ぎを起こしている”か。でもキメラ関係の案件って、本来警察や騎士団の仕事じゃあないのか?」
「だがよぉ、それがあちこちで同時多発的に騒いでいるらしくて。ポリナイト側も人手が足りなくなったんだそうな」
「なるほど、でも何でこの酒場がざわついてるのさ?」
タクヤは腕を組み首を傾げた。
「ガッハッハ! おいおい、兄ちゃんよ!? おめぇの目は、節穴か?よ~く見ろよ?」
冒険者は、タクヤを小馬鹿にした態度を取った。
「むむっ……、えっ!? 達成報酬100万ギルだって――!? ……でもキメラ絡みの案件って物騒だから嫌なん――」
「あ~らぁ、たっくんにしては珍しく慎重じゃない? 高額報酬を目の前にしてぇ?」
げっ!
見るから面倒くさそうななクエストから手を引こうとしたら、面倒くさい女が現れた!
「……な~によぉ、魔物から逃げ出すときのような目でこっち見ないでよぉ?」
しかし、周りに囲まれた!
フレデリカはタクヤの退路をうまく断ったのだ。
ピンクがかった茶髪のロングヘアをさらりとかき揚げ、ニンマリとこっちを見つめる。
「な、なんだよ? 俺は別件の用事がある、そこをどけぇ! ぐっ、うわぁっ! いーてててててっ!」
「50万ギルの案件なんて、達成したらランクアップの匂いしかしないわぁ! さぁ! 今すぐ、クエストを受理するのよぉ! これは先輩命令だからね? 最近のたっくん私を同僚のつもりで接してるけど、一応たっくんの先輩だからねぇっ!」
みしみし!
逃げようとするタクヤの顔面を手のひらで捉えたフレデリカは、怪力アイアンクローを決めた。
見事に決まりすぎだ。
「うぎゃああああああ――!?ぎぶっ、ギーブ!」
タクヤはフレデリカの体の一部を手のひらでパンパンと叩き降参を申し出る。
「あら? 今日は聞き分けがいいじゃあないのよぉ、たっくん?」
こんの糞女! パワハラギルド協会に訴えてギルド”ブレイブキャラバン”潰そうか? うん、潰してもいいよな?
タクヤは、心の中でブツブツと垂れていると、
「うおっ!? 100万ギルだってっ? これはやるっきゃないっしょ、急げ!」
傍らでは、他ギルドの冒険者が、高額報酬に飛びつこうとしていた。
「ああっ! 早くしないと、受付人数がいっぱいになっちゃうわよぉ~」
フレデリカはタクヤをごみでも捨てるようにアイアンクローからぺっ、と開放する。
ちなみに、クエストにもよるが、ほとんどのクエストは、ソロでのクエスト参加というのは実際のところあまりなく、チームでの参加が実質原則となっているのだ。
この案件に関してもその例に漏れることはなく、申請の際は証明のため2人以上での申請が義務付けられている。
「おいっ、フレデリカ、向こうの席に座ってる冒険者、男前だなぁ~」
「えっ!? どこどこっ? イケメン君はどこ――!?」
「かかったな、アホがっ!? スキあり! ひゅっ! 有給消化残ってるから、今日は休みま~すっ! さらばたっ!ふはははははは、だーっはっはっはっ!」
「ああっ!? たっくんっ!? ちょ、ま、て、よっ! いかないでえええええっ!?」
うまくスキを突き、危なっかしいフレデリカからダッシュに成功したタクヤなのであった。
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