第13話:作戦
タクヤは懐からごそごそと何かを取り出す。
パタパタ……
「そ、それは“しろはた”なのでしょうか……!?」
タクヤの傍らに立つルゥルゥは思わず固唾を飲む。
「うん、ただの白旗、そしてこう使うっ!」
タクヤはその場でアクロバティックに宙返りを決めると、着地と同時になんと土下座のポーズをとった。
少し間を置き、手に持つ白旗をパタパタと。
「――!? なんのつもりだァ? 人間?」
「いや~、別に僕らさっきから暴れてるあいつらと違ってあなたを殺すつもりなど毛頭ないんです。でも、こんなホコリ臭いところにいちゃあ、鼻もゴソゴソガビガビでしょうに。あなた様の鼻を掃除して差し上げますので、どうか私めをお見逃しくださいませんかね~?」
「あ、あのう……。た、タクヤ様……、私めっておっしゃいましたですよね? せめて仲間である私やフレデリカさんは入ってないんでしょうか……? 自分だけ助かろうと……、人として最低ですぅ、タクヤ様……」
(シーッ! 忘れたのか!? あくまで俺たちのミッションはあいつの鼻くその採取だ! この方法なら完璧なんだ! 我ながら!)
(せめて味方もかばってくださいませ、タクヤ様……)
ルゥルゥは命の恩人と思っていたタクマに幻滅していた。
タクヤは小声でルゥルゥに理由を説明する。
その小声に同じく小声で返答するルゥルゥ。
どうやらタクヤはぐギガント・トロル鼻の中を清掃するついでに鼻くそを採取する算段だろう。
彼は自信たっぷりげであった。
「たっくんっ! ななな、何言ってんのよぉ~! あいつ討ち取って首持ち帰ったらSSランク冒険者に昇格することは確実なのにぃ~!」
ぐぬぬ、と苛立たしげな表情を浮かべるフレデリカだが、
――ひゅううううううん――
フレデリカのイビル・アームズの眼光が突然消灯し、破裂するようにアーマーの装着が解除された。
崩壊したアーマーの残骸に関しては、錬金魔法で構成されてるもので、魔力を用いて強制的に物質を擬似構築したものなのでそれらは塵となって消えていったことになる。
変身が解けたフレデリカは、
「あれ、もう終わりなのぉ? あともうちょいで弱点わかったかもしれないのにぃ……」
ギガントトロルの前で素顔が顕になり、
「――って、うわあああああ――! わ、わわわ私、今かなりヤバイ? これ大ピンチ?」
タクヤとルゥルゥはコクコクと無言で頷く。
無防備なフレデリカは現在自分の状況がいかに危険であることは一瞬で理解した。
ぎぎぎ、と彼女は首を頭上のギガント・トロルの顔に向ける。
ついでに周囲をキョロキョロと確認を始めたが他のギルドは被害甚大なのか足早に撤退を決めていて、人気はなくなっていた。
「た、たたたたたた……たっくん……、どうすんのよぉこれ?」
「悪いが、オマエは囮になってもらおう……、さらばだ! ま、お前ほどの生命力ならどうとでもなるだろう……、行くぞ、ルゥルゥ」
「ああんっ! まってよぉおおおお~!たっくん――! この独り者のワタシを置いてかないでえええええええ――!」
「流石です、タクヤ様……。えげつなさという点では、さすがとしか言いようもありませんのですぅ」
さすタク、とでも略すべきだろうか。
ダークエルフの幼女はギガント・トロルの強さに圧倒されてたので、タクヤを人としてこれはどうかと思いつつ彼を追ってこの場を後にしようとした。
――が――
ギャン泣きするフレデリカはぐおっ、とギガント・トロルに頭で詰め寄られる。
(は、息がくっさいわぁ~。歯、磨きなさいよぉ~。ま、トロルが歯を磨くところなんて見たこともないけどね)
ギガント・トロルの吐息、鼻息が変身の解けたフレデリカにかかる。
ふんが、ふんが……
だが、その吐息は荒い。
フレデリカは正面のギガント・トロルの異変に気づく。
「あ、あのう……。わ、この私になにか……?」
フレデリカは青ざめた表情で、恐る恐るギガント・トロルに尋ねた。
(ちょっと、待てよ? 様子が変だ……)
(タクヤ様の行動のほうがよっぽど変ですぅっ!)
(だまらっしゃいっ! ガキィ!)
一応逃げると宣言したタクヤたちは後ろを振り返っていたので、彼女らの異変に気づき、美しい彫刻が掘られた柱に隠れて、様子をうかがうことにしていた。
「おまえぇ……」
「なっ、なによぉ~?」
なぜかギガント・トロルはフレデリカにさらにずずいと。
「お、オラはおめえに一目ぼれだぁ――! オラの鼻の掃除やっておくれ――!」
「「なっ、なんだって――っ!!」」
柱に隠れていたタクヤとルゥルゥは衝撃のあまり、思わず大声を出しその場でずっこけてしまった。
「うわああああ――!?」
「きゃああああ――!? タクヤ様ぁ、押さないでくださいですぅ――!」
タクヤがルゥルゥを押し出す形で転倒すると、ギガント・トロルの視界に入る位置に出てしまったが、
「い、いいいいいい、いやよぉ――!他人の鼻の掃除をするなんて、イケメンじゃなきゃ嫌なのォ――!イケメン専門なのよぉ――!」
鼻の掃除はするの前提なのかよっ!
そういや、こいつイケメン専門、略してイケ専だったな。
イケ専、……デブ専みたいな言い回しだな、とタクマは面白おかしく考えるのであった。
「いけせん、てどういう意味でしょうか?タクマ様?」
「お前、いちいち無詠唱魔法で人の心覗くのやめれ」
キョトンとした表情でタクヤに質問を投げかけるルゥルゥ。
フレデリカは踵を返し、その場から逃げ出そうとするが、
「待っておくれよぉおおおおおおおっ! オラの嫁ぇええええええっ!」
「ぎゃああああああああ――! たたた、たっくん! そこどきなさい! 邪魔よぉ!」
「おい、ちょっと待て! こっち来んな――! 危ねえ!」
「きゃああああああ――!」
「ぎゃああああああああああっ!」
三人は激突しその場に倒れた。
その様子をギガント・トロルに見られてしまい、
「お、お前ら! まだここにおいたのかぁ! でも、まあいい。このエルフの娘にさえ、鼻の掃除をしてもらえば。お前らも、そのために手伝え!」
「いっててててて……、へ? はっはは――!御衣ィ!」
「うう、何がなんだか……、滅茶苦茶です……。ところでぎょいってどんな意味でしょうか?」
「きゃあああ!? 何すんのよぉ!? たっくん!私をどこへ連れて行く気なのぉ――! 嫌よ!いやあああああああ!」
タクヤはアーマーの変身が解け弱っていたフレデリカを力づくで羽交い締めにすると、そのまま、彼女をギガント・トロルへ差し出した。
「さあ、お前ら! これを持て!」
ギガント・トロルは3人に神殿内にあるデッキブラシを渡した。
「あのう……、トロル様? 結局これ3人でやるのでしょうか……?」
「わ、私もやるのですか? さ、流石に魔物の鼻に入るのは、ちょっと……」
「左様だ!」
「誰か助けてええええええ!」
ビシ!と自身の鼻を指差し、作業を仰ぐギガント・トロル。
逃げるつもりであったタクヤとルゥルゥはもちろんフレデリカも全然乗り気ではない。
が、ここで引いてしまってはギガント・トロルの機嫌を損ね、暴れられて全滅してしまうだろう、と。
「やるんだ……、たっくん……」
「ああ、仕方ないことだ」
「うう、き、汚いですぅ……」
3人はでデッキブラシを持ち、ギガント・トロルの鼻に向かう。
ゴシゴシ、ゴシゴシ、ゴシゴシと……、丹念に。
まるで風呂掃除のように。
「ああんっ!鼻毛が絡まって、ころんだわぁ!」
「さあっ、もっときれいにするんだ! フレデリカ! ついでにルゥルゥ!」
「タクヤ様~。手が止まってますよ~。一人現場監督のつもりでサボってるのでしょうが」
「ああ~んっ! こないだ新調したばかりの服が――! たっくん? これ、弁償じゃあないかしらぁ?」
ルゥルゥとフレデリカは、状況が状況だったのでタクヤの提案を受け入れたが、正直ノリ気ではなく、両者ともタクヤにブーイングを浴びせる。
「んアッー! 気持ちいいのだー! ふがふが。お姉さん、もっと奥もきれいにしてくださいな!」
「こっちはちっとも気持ちよくないわよぉ……。なんで寄りにも寄って、私を指名なのぉ……?」
「良かったな! お前モテたかったんだろっ?」
「すんごくコレジャナイんですがぁ~! うっえええええ~、鼻息がくっさ~い!」
「うう、それは我慢しろ。鼻くそは回収できるだけ回収だ!」
「タクヤ様! フレデリカさん! 私は力はないのでサポートに回りますねです! フィジカルアクセル! ……ついでに、ヒール・エフォート!」
ルゥルゥはタクマとフレデリカにバフ魔法“フィジカル・アクセル”、リジェネ魔法“ヒール・エフォート”を詠唱した。
タクヤはマジックポケットから出した小瓶に次々とギガント・トロルの鼻くそを詰めていく。この作業が終わったらクエスト達成だ!
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