第12話:予想外の強敵

「「「しゃべったああああああ――!」」」


 3人は驚きのあまり絶叫する。


 一般的にトロル族を始めとする魔人系種族は、生まれつき“魔導体内通信テレパス”が使えるため、人族、エルフ属、ドワーフ族のように高度な口答及び記述言語は用いないのが常識なのだが、どういうわけかこのギガント・トロルは流暢な人類語を話していた。




「よそ見をするもんじゃあ、ないのですな……」


 ベテラン剣士は刀剣の鞘をを持ち居合の構えを取る。


 すると周囲の空間が渦巻き、魔力も彼に集まってくる。


「あ、これ絶対すごいの出るぞ……。俺たちの出る幕ではないな。ふぅ、ここは早く鼻くその採取を済ませて帰還したいところだ」


「こういう状況なのに何もしないと逆にウズウズして来ますです、うう……」


「いいか? 後方支援はいざというときに魔力とっとけ! ま、俺みたいなサブタンクはたまに前でなきゃなんないからめんどくさいんだがな。後方の魔法使いが羨ましいわ」


「もう清々しくクズですね、タクヤ様は……」


 居合の構えを取るベテラン剣士の眼光がギラリと光り、




「喰らえ――! 斬空真空……」




 ボッ――




 突然ベテラン剣士の上半身を斜めに何かが猛烈なスピードで通過した。




「へっ……?」


 タクヤは口に加えてるポテチをぽろりと落とす、




 ベテラン剣士の上半身は消えてなくなっていた。




 べちゃっ!


 彼の上半身は斜めに吹き飛ばされ、神殿の壁にへばりついた。




「ん、ああああああ……、小さな人間どもめ、ちょこまかと鬱陶しいんだよぉ」




 うっぷ――!




 タクヤは吐き気を催し眉をひそめる。


 彼は危険なクエスト中に協力関係にあるギルドのメンバーが死亡してしまう場面は何度か目にしたことがあった。しかしながら、やはり慣れないものは慣れないな、と彼は思うのであった。




 ギガント・トロルは、切り落とされた右腕を拾い上げ、肩の切り口に押し付ける。




 すると傷口の周囲に直径1メートルほどの魔法陣が幾つも描画・点灯した。


 デュクシ、デュクシ、と接合部には血管が高速で張り巡らされ、切り口はあっという間に消え失せてしまった。




「な、ん、だと……。みるみる腕が再生されてるぞ! フレデリカ! 気をつけろォ!」




「こ、こいつはかなりの大物のようねぇ!」


「やはり長居はできんな! さっさと鼻くそこそぎ取ってずらかるぞっ! まずは足の動きを止めるっ。ルゥルゥ! 今から術をかけるから、前へ出る! サポートを頼む!」


「はいですぅー! タクヤ様ぁっ! フィジカル・アクセル!」


 ルゥルゥはタクヤに肉体的なバフを与えると、タクヤはスピードアップした。


「足を封じてやるっ! ロッキング・シール――」


「人間どもめ、うぜぇええええんだよぉおおおおおおお――! オラ、なにか悪いことでもしたのかあ――!? この角のことだって――! この目のことだって!すんごいすんごい痛かったんだぞ――!うおおおおおおおおおお――!」


「「「ぐっ!」」」 


ギガント・トロルは怒りに任せ雄叫びを上げ、冒険者たちをひるませる。タクヤも呪文詠唱をキャンセルした。




「ひゃはああああああ――! ビートよ! 空を切り裂けええええ――!」


 ギュルギュルギュイーン!


 メタルロック風の冒険者は音撃武器であるエレキギターをかき鳴らす。


 空気が超振動を起こし、標的であるギガント・トロルの皮膚に細かい傷が付き始める。


「るせえええええええええ――!」


 再生した右腕を用いて棍棒を振るう!




 振るう!




「ぐあああああああ――!? ゲフ……!」




 メタルロック風の冒険者は吹き飛ばされると神殿内の柱に叩きつけられ、そのまま失神する。


「きゃああああ――!? クロム!」


 回復術士ヒーラーなのだろうか。神官か巫女風の少女は絶叫するが、


「は、ははは、早く回復させないとっ! ホワイト・キュア!」


 回復術士の少女はおどおどはしているが、高位魔法であるホワイト・キュアを詠唱。


 ホワイト・キュアは白魔法の一種で病気や呪い、毒などの状態異常系にはあまり効果がないが、物理的破壊による傷には絶大な効果があり、傷を高速回復させることができる術である。


「うぐっ!はぁはぁ……、助かったあ~」


 攻撃を受けたメタルロック風の冒険者クロムは、完全ではないが、致命傷は免れ意識を取り戻す。




 様子がおかしい。




 トロル族は、生物的な特性上、好戦的な傾向があり、攻撃的になりやすい。よって人類にとって見れば、凶悪で粗暴なイメージを抱いているのだが、このギガントトロルは、別に好き好んでここにいる冒険者と戦っているようには見えなかった。




「……どういうことだ。目だと……?」


「タクヤ様ぁ! よく見ると左目の周りに薄っすらと傷痕がっ!」


「あ、ホントだ!……ということは……!」


 タクヤは懐から、携帯魔導端末マグホを取り出すと、声が届きにくい距離にいるフレデリカに通話する。




 ブイン、ブイン……


 フレデリカは通信魔導端末が振動しているので、応答した。


「たたた、たっくん! どうしたのよっ? こんな時に!?」


「お前の“サーチ”能力でギガントトロルの角を解析できるか?」


「角って……!? ……ええ、あのおでこから生えてるやつ? ――やってみるわよぉ! このくらいお安いご用よぉっ!」


『スケスケ!超丸見えだぜ!見え!見え!鬼見える!』


 ピピピピ……


 アーマー顔面のアイシールドが点滅し、青白く瞬く。


 フレデリカはイビル・サーチを発動させると、


「ふむ、ヒビの跡……。しかも、複数よぉ。どうやら、何回も誰かによって無理やりへし折られたんだわっ!」


 ギガント・トロルの傷跡を確認し、メットの中で冷や汗を隠し切れないフレデリカであったが、その表情はタクヤたちには映っていない。


「やっぱりな! ちょっと俺に考えがある」


「考えって、どういうことよ?」


「まあ、見てろって!」

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