第11話:初撃

 建造物は白みがかったグレーベースの石材が円形状に積まれたもので、所々に天空ドラゴンやゴッドフェニックスといった“神獣”をモチーフにしたレプリカ石像が通路の端に等間隔に並べられている。“神獣”とは未開地や到達困難地域でも目撃情報はあるが、種族登録がなくそれらを見たものは、その地点で攻撃を受けるか、周囲の厳しい環境などで帰還不能になったなど、とにかく見たものはごく僅かであろう生物及び魔物の類をさす。彼らが石像として奉られるのは、そうした希少性・神秘性があってのことで、像オリジナルの原作者は彼らの目撃者であるという説が一般的であり、この激レア生物を新種登録したく冒険者に依頼するあ生物学者もいるとのことだ。




「……これって、転移魔法ってやつなのか?初体験だ……」


「びっくりしたわぁ~、転移魔法自体、本来複雑で長い詠唱が必要なのにそれを無詠唱で発動させるのだからね」


「とりあえず助かったようだな、サンクス」


「えっへへ……、これであなた達の足手まといにならないことがわかったと思いますですぅっ!」




 フレデリカは魔道士ではないが魔法に精通している。ただし彼女のようなタンク系のジョブの冒険者の場合、悠長に呪文詠唱していたら敵から見れば格好の的となる。そのため、魔法は使えても、その役割は後方支援役に委ねることが多い。




 タクヤとフレデリカは、それぞれ転移魔法について驚いた後、


「……しかしだ、ギガント・トロルは一体どこにいるんだ? 今俺達がいるこの神殿の中にいるっつっても、神殿のベースとなる砦や要塞の構造は部屋が多い。たぶんここにはいないだろうな」


「ツメが甘いわね、たっくん。念の為、この要塞の壁越しに“イビル・サーチ”かけるわよぉ!」


『スケスケ!超丸見えだぜ! 見え! 見え! 鬼見える!』


フレデリカのアーマーのアイシールドが数回ピロピロと赤色に点滅する。


「――! でかいわぁ……、あと人のシルエットが数人分……」


「既に戦いが始まっているのか!」


 フレデリカのメットの中からの視点では不完全ながら徐々に壁が透視され、何やら巨大なシルエットを捉えたようである。


「前から言おうと思ってたんだが、俺はその“技術”にどこか見覚えがあるんだが」


「あれ? たっくん? パワード・アーマー工学に興味あるの?」


「一応それ、魔法で動作してるから、魔法学校でざっと習ったりするもんなんだよ。自身が使うってより技術サポートによる後方支援の意味合いでな」


「でもこの“イビル・サーチ”はまだ他のパワード・アーマーには実装されてないそうなのぉ」


「お前やつがハイテクすぎるだけだろ?」




 そのシルエットの描画は、物体と空間の温度差と魔力の放出から割り出されたものだ……、と過去にフレデリカは意識高々に解説していたことをタクヤは少しだけ思い出していた。




「で、でも周囲に扉は見かけないのですが、ですぅ……」


 ルゥルゥは延々と続く壁をたどっても扉は見当たらないことに戸惑っていた。




「多分ここは上層階なんだろうな?」


「私はアーマーのバッテリがもったいないから、たっくんがこれを壊すのよぉ!」


「へーへー、めんどくさ。……だがここで立ち止まっても埒が明かんようだな。マルチ・レイヤー・シェル! うおおおおおおおお――!」


 タクヤは自身の右拳に多層式の結界を発動させると、その拳の状態で石壁に向かって突進し、殴りつけた。




 結界魔法マルチ・レイヤー・シェルは反発弾性のある防御結界を多重展開することで威力を何倍にも引き上げることができるのだ。




 バッコーン! ガラガラガラ――――


 轟音とともに、石壁に大ヒビが入り、砕かれ、崩落する。


 辺り一帯は、石壁の粉塵が舞い上がった。




 見たところ、厚さ2.5メートルほどの厚みの石壁を、反発効果のある結界をぶつけることにより破壊した。


「やったわぁ! 先が見えたわよぉ!」


「いっててててて、反動は抑えたつもりなんだが、久々にこうして使うと痛えな……」


「けほっ、けほっ……! ホコリが舞って前が見えないですぅー!」


 ルゥルゥはこうしたタクヤたちの前線仕事を目の前で立ち会うことは恐らく初めてなのだろうか、なれない様子で粉塵を吸い込んでしまい、むせ返した。


 ――しばらくの時間がたち、粉塵がが収まると、先程タクヤがぶち抜いた石壁の向こう側の様子が伺える。




「――ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!」


「ふぉっふぉっふぉ、“彼奴”の腕を落としたのです、な……」


 ベテラン風の剣士は、悲鳴をあげる怪物――、恐らくギガントトロルの右腕を剣一本で落としたのだろう。彼はキンッ、と刀剣を収刀した。




 ドスンと落とされた腕には、彼の体躯ほどある巨大棍棒が握られていた。




「ひゃっはあああああ――! ついでに貴様の“角”も頂くぜええええ!」




「さっきの奴らだ! 鼻くそ採集するだけで良かったんじゃねーのか?」


「今、戦闘中の冒険者が“角”といってたわぁ! あいつら、このままやっつけちゃうつもりねっ!?手柄は私のものよぉ――!」


「おいっフレデリカ、待った!」


『超ウルトラ! 鬼速い!』


 タクヤの制止を無視、ドバっと、フレデリカは加速し、ギガント・トロルにめがけて直進。


 フレデリカのイビル・アームズ・システムの機能には飛行能力は備えてはいないが、イビル・ブーストが生む推進力は彼女を空高く舞い上げた。


「何枚におろそうかしらねぇ!」


『超切れてるぅ~! 鬼の刀!』


 フレデリカの手元から魔法陣が形成され、その魔法陣から反りのある長剣が柄、刀身の順にに抜かれた。




 シュパキンッ!


「!?」


 フレデリカは高速の剣技を放つがなにか手応えを感じず、バランスを崩し元いた場所の反対側の石壁に激突する。




「ぐぅ……っ!」


 ギガントトロルはフレデリカの突進を躱すように身体を後方へ回転、その際右手も後方へぱっと払い除け、フレデリカを送った。




「フレデリカ!」


「べ、別に大丈夫よぉ? 問題ないわぁ」


「タクヤ様!治癒魔法使いますか!?」


「いや、あいつが問題ないと言ってるのだから、問題ないだろう」


 タクヤはどこか悠長である。




 というのも先程予約式の結界魔法をかけていたが、フレデリカへのダメージが酷ければ、彼女に付与された結界は弾け飛んでいるはずだからだ。


「それに、あいつはエルフ系民族だが、何故かめちゃくちゃ頑丈なんだ。普通エルフって、人間族とそんなに体の強さ自体は変わらんのだがな……、ポリポリ……」


「何こっそりおやつたべてるのですっ? タクヤ様――!?」


 正直この危険なクエスト参加に乗り気ではないタクヤは小型バッグに隠し入れていたポテチを貪りながら、試合観戦をしていた。


 ルゥルゥはこの男のクズっぷりに思わず青ざめていた。


「それにしても。じ、柔術だと……! 裁かれてるぞ!」


「効いていなのですか?」


「ああ、完全に受け流されてる。」


「くっ、なかなかやるじゃない? ま、すぐに打ち取るけどねぇ」


 フレデリカはアーマーのおかげもあってか先程の転倒に関しては何事もなく復帰するのであった。


半身半立ちの構えを取る、ギガントトロルは口元をニヤつかせた。


「このオラを、そこら編のトロルと一緒にするんじゃあ、ない」




 へ……?




「しゃべったあああああああ――! ですぅ――!」


「しかも、ペラペラだ」

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