第11話 洞穴の中のカエルの後ろには蛇がいた

恵さんと待ち合わせをしているファミレスへ向かう車内にて。


「はいこれ、昨日借りたパーカー返すよ」


「おう、そのまま置いといてくれ」


「臭かったから洗濯しておいたよ」


「蹴飛ばすぞ」



「煙草、吸ってるんでしょ?姉ちゃん実は煙草の匂い好きじゃないんだよねえ〜」


「…あー…あーわかったわかった禁煙する」


そこで一羽さんを出してくるのは卑怯だろ。

一羽さん元気にしてるかな、そういえば初めて会ったっきり会ってないな。


「悟」


「ん?」


「次会いに行く時一緒に来る?」


「………………ああ」


くそ、ちょっとニヤニヤしてるのがムカつく。こいつは好きな奴とかいないのか?

学校は通信制の学校に通っているという話を前にしてたから生徒同士の交流とかはあまりない感じなんだろうか?行ったことないからわからないな。


そろそろあのファミレスに着く。


ファミレスに着いて駐車場に車を停め、店の中に入ると恵さんは既に奥の方の席に座ってスマホを触っていながら待っていた。



「お待たせしました、恵さん。」


「はい、えーと室伏君と…昨日の女の子は?」


「俺です。あの後薫から聞いてなかった?」


「薫から…?いや、何も」


「そう…まあ訳あって女装して探偵の仕事をしているだけです。」


訳がありすぎるだろ。昨日平潟薫に男であることがバレたから今日は開き直って男の姿で来たがまさか恵さんに伝えていなかったとはな。


「それで、今日は何で私一人で呼んだの?」


「元々薫さんは俺たちへの依頼に何も関係ないですからね。今日は恵さんの話を聞きに来たんですよ。」


「私の?」


「はい、そうです!ところで恵さん会った時から煙草の匂いがしますけど煙草吸ってます?」


「うん、吸ってるけど。ほらコレ」


あ、俺と同じ種類の煙草だ。


「あ、これ悟と同じのじゃない?」


「何で知ってるんだよ怖えな」


「本当、同じだ。」


「煙草はいつから?」


「煙草は一年前からかな」


最初の煙草トークから話は段々と恵さんの夜遊びが多くなった一年前に何があったかという話に変わっていた。

恵さんは、一年前に同級生の友人に連れられて行ったバーで知り合った男性、その方が所謂遊び人というやつでその男性から付き合ってほしいと告白を受け承諾した。結局付き合いは2.3ヶ月程で後腐れもなく終わったのだがその間に出会った友人達とずっと付き合っているうちに夜遊びが多くなった。バイトもちゃんとしていたし、親に迷惑をかけるようなこともなかったので親からは特に何も言われなかったみたいだ。


そして数ヶ月後平潟薫と出会い、病気が感染し。その影響で家に帰れなくなった。

平潟薫と二人で話し合い、お互いの病状の為にも真剣に話した結果、結婚する、という話に落ち着いたらしい。随分突飛な話だ。


「災難だったね、恵さん」


「そうでもないよ…自分が調子に乗って遊んだ結果だからね」


「何か似てるなぁ」


「優一君と私が?」


「うん。」


「実は俺、性同一性障害なんだ」


…………………は?


「優一、お前」


「悟にも言ってなかったね。」


いやいやいやいや、おかしいだろ。お前この間女装して探偵するのは女だと愛想良くしとけばいいからとか言ってたじゃねえか。


「そう…なんだ、あ、それで昨日」


「そう。もう薫にバレたからいいかなって思ってたんだけどまさか言ってないとは…やっぱり同じような悩みを持つ人同士何かあったのかな」


…まさか本当にそうなのか?知らなかった、いや知らなかったよまさか優一が…。



「俺が気づいたのは中学生入ってからだったんだ。自分は女だと思ってたのに段々周りにバカにされてることに気づいてきて…」


「ねえ、」


「ん?」


「それ、お父さんとかお母さんに言ったの?」


「俺は言ったよ。」


「何で?」


「こんな悩み、一人で抱えるには大きすぎることだしそれに何よりも親のことを信頼してるから。」


「…!」


恵さんの表情が変わった。似たような悩みを持っていた優一が、自分と違う行動を取ったということに驚いている様子だ。


「信じた結果、親はちゃんとわかってくれたよ。」


「そっか…うん、そうだよね。お母さんとお父さんだもん…。」


「恵さん」


「室伏君、初めて聞いたんだね」


「はい、俺にはきっと信頼してくれたから言ってくれたんだと思います。でも恵さんには違うんです」


「違う…?」


「はい、似たような悩みでも話すことで何かが変わるかもしれないと思って言ったんです。親は絶対に突き放したりしません。

今から、親御さんの元へ行きませんか?」


「…………………」


「もちろん、自由に決めていいよ。行かなくたって俺は何も言わないから」


「いや、行くよ。私。全部話す。」


「恵さん…」


「そう、なら今すぐにでも行こう。両親は恵さんを待ってる。」


「うん」



こうして恵さんとの話を終え、三人で両親の待っている家へと向かい恵さんは今まで起きたことの全てを話した。

もちろん最初は驚きを隠せないようだった。


それでも最終的には信じて、これからのことを三人で真剣に話し合うとのことで優しい両親で何よりだった。


だが、その両親の意向で平潟薫に会いたいということだったので平潟薫に連絡したところ返事が全くなかった。SNSの更新もされておらず、その件は後日改めてということになった。




依頼を終えた僕と優一はいつもの通り車で帰路につく。


「いやぁ、二つ目の依頼、見事完了したね!」


「そうだな。そういえば」


「ん?」


「本当に聞いていなかったぞ。性同一性障害のこと。」


「まあ嘘だからね」




「はああああ!?!???」


「うわっびっくりしたぁどうしたの」


「お前…それはないだろそれは」


「でもうまくいったから良くない?結果オーライじゃない」


「良くない。これからそんな嘘を吐くのは絶対にやめろ。お前に人の心があるのならな。」


「失礼な。こっちだってちゃんと考えてやってるんだよ」


「はん?言ってみろ」


「女性は共感した方がより相手の話を聞くようになるよ。男もそうかもしれないけどね」


「とにかくあの嘘はダメだ。」


「考えておきます〜」


「反省してないだろ全く…」


もうこれは驚きを通り越して呆れの感情だ。あの時の同情を返して欲しいくらいだ。

本当に信じていたんだからな。


何はともあれ依頼は終わった。これが終わったなら次の仕事がまだまだ待っていることだろう。

休みはしてられないな、全く探偵の仕事というのはこんなに大変なものなのか?


この日は優一を送った後家に帰り、疲れたので、すぐにベッドで寝た。




数日経ったとある日の朝、何故か着信に恵さんの名前があった、依頼の件のことで何かあったのだろうか?と思って掛け直そうとしていると、優一から電話がかかってきた。



「もしもし、さっき恵さんから着信が」


「それ俺にも来てた。悟、かなりまずいかも。」


「どうした?もしかして同じ要件か?」


「うん、心して聞いてね」


「何だよ」


「薫と一切連絡がつかない」


「は?」


「で、今動画を送るからそれを見て欲しいんだ」


「一旦切る。」



優一から送られてきた動画をみれば、それは東京のテレビ局のnewsだった。


その内容が、なんと平潟薫の行方不明の情報だった。数日前から姿を消しており連絡もつかない状態で不審に思った親が警察に相談したところ仕事にも顔を出していないらしく、最後に見つかったのはコンビニの防犯カメラに写っている様子だけだった。

事態が急すぎて頭に何も入ってこなかった。


しばらくするとまた優一から電話がかかってきていた。


「もしもし、見た?」


「ああ、もちろん…」


「薫のことも探したいけど、いなくなる数日前にあった人物ってことで俺達に警察からの電話がくるかもしれない」


「そう…だな。恵さんにもそれは話したのか?」


「もちろん。折り返しは大丈夫だから、今からするべきことをするから事務所に来て。急だけど店長には事情を話したから。」


「了解、すぐに行く。」



まさかこんな事態になるとは。平潟薫の身に一体何があったのか?

あの一原さんから受けた依頼は既に終わったものだと思っていたがまだ終わっていなかった。

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