第9話 男と女の事件性
午前9:20
娘探しの依頼から2日目の朝、今日は午前10時から中見探偵事務所へ出勤だ。
今日の午前6:30に優一からメールが届いており内容は今日のスケジュール内容だった。午前中は事務所にてPCを使った調べ物、昼食を取った後でなんと前日の深夜に会う約束をした恵さんの友人と会うそうだ。恵さんのSNSを辿って調べたので恐らく大丈夫とのこと。
少ない人数で死ぬ気で頑張る、というのは本当のことらしい。これからが恐ろしくなってきた。
午前9:54 中見探偵事務所
「おはようございます」
「おはよう悟!いい朝だねっ」
「ずっと事務所にいたのか?」
「まあね〜、このやり取りの続きやっといてくんない?」
「何だ、どこかいくのか」
「シャワー浴びてくるっ覗いちゃダメだよ!」
「バカか」
どれどれ…PCの画面には平潟薫とのやりとり表示されており、薫さんの後輩の後輩です…?よくもまあこんな嘘をつけるもんだな。
この平潟薫が恵さんの友達で、深夜に約束を取り付けたという人だろう。今は時間指定をしている途中だったらしい。
適当に今日の15:00でいいか。
お、了解と来たな。背格好を教えてほしい?
そういえばこっちは二人で行くんだった。後輩の後輩として行くのに明らかに年の違う二人が一緒に行くのは無理があるだろう。
二つ結びで眼鏡、服は適当に黒のパーカーとスカートとかでいいだろう。
「悟〜時間どうなった?」
「今日の15:00に◯◯駅のコンビニの前」
「そこまで詳しく決まってたんだね、ありがとう」
「格好も一応黒パーカーとスカートって言っておいた」
「えっまじ?」
「まじ」
「やだ俺スカートとか持ってない制服しか持ってないよ」
「まじ?」
「まじ」
「買いに行くか…」
「パーカーも持ってないな。パーカーは悟の貸してよ臭いのは勘弁だけど」
「お前いい加減どつくぞ」
予定通り午前中は事務所でPCで一原恵さんの周りのSNSの確認、ここでわかったのが恵さんと交流のあったであろうアカウントも恵さんの写真が載らなくなっているというかそもそも恵さんに関する投稿が20日前から一つ足りともなかった。これは何かがあるに違いない。
そして昼食を食べた後、恵さんの投稿にあった店の看板から調べその店に聞き込みに行く。が、大して仲のいい友人でもない客の一人である恵さんを覚えている訳もなく有用な情報は殆ど得られなかった。
約束の時間でもある15:00が近づいていたので、近くの服屋でスカートを買って待ち合わせの場所で優一が待っている間に、僕は少し離れた場所から優一から連絡を受け取る、というスパイのようなことになった。
今日の午前の間に平潟薫の格好は黒いリュックに緑の服灰色の帽子八分丈のズボンだそうでなかなかパンチの効いた格好だ。
名前からして女性だと思っていたのだがどうやら男性らしい。後輩の後輩に連絡され翌日に会うような男だ、面倒な人間じゃないことが望ましい。
「君が後輩の後輩…の優ちゃん?」
「はい!薫先輩ですか?」
「そうだよ。よかった間違ってたらどうしようかと。」
「私も安心しました!薫先輩って生で見る方がカッコいいですね!」
どうやら平潟薫と会えたようだ。しかしあの後輩の後輩が男だと知ったら驚くだろうな。
ここから優一のプランでは最寄りのファミレスで恵さんについての情報を聞き出し、あわよくばその場に恵さんを呼び出してもらおうという手順だ。
「君さ、一体何のつもり?」
「え?」
優一からのメール?報告か?
「スパイ悟!ピンチ!ファミレス行けそうにない人気のないところにやばいとにかくなんか怒ってるなんでだろう??」
……………………………こんな時にふざける場合かよ!とにかく今は追いかけるしかないな。まさか嫌な予感はこれか?
「ちょっと、薫先輩どこに行くんですか!」
「俺は君の先輩じゃないよ、優ちゃん。さ、吐いてもらおうか、嘘付いてまで俺に会いに来た理由を。」
「嘘って…嘘なんかついてないです。」
「はいまた嘘。正直になりな。高校の時俺は男じゃなかった。だけど君は俺を男の先輩だと思ってる。今のアカウントは男だ、が後輩には女として通ってる筈だよ。」
「あの…それ一体どういう話ですか?」
「君に話してやる義理はないな。さ、話して、俺に近づいた本当の理由を。」
いた、平潟薫と優一。一体どういう状況だ?平潟薫が優一を壁に押し付けている?ともかくまともな状態じゃないな、今すぐ助けださないと、
「中見!!!!!!!」
「悟!まだ来ないで!」
「仲間?彼氏?友達?なんでもいいけど質問に答えるまで離さないよ」
「騙したのは申し訳ないと思ってる!だが悪意があって近づいたわけじゃない、その子を離してくれ」
「質問は一つだよ、どうして近づいた?」
「君の友人の一原恵の情報を得るためにだ」
「恵の?何故?」
「離したら答える」
まさかこんな修羅場のような状況になるとはな。あまりにも想定外だ。
「…わかったよ」
よかった、とりあえず優一を離してくれたようだ。それにしても何故嘘だとわかったんだ?あのやり取りは優一が事前に周囲のアカウントを調べて辻褄を合わせて慎重にやり取りをしていた筈だったが。
「で、なんで恵の情報を欲しがってんのさ?」
「恵さんの両親からの依頼だよ。娘が一ヶ月以上家に帰ってないから探して欲しいっていう。」
「あー、もう一ヶ月になんのか…そりゃ家に帰んなきゃまずいよなぁ…どうすっかなぁ」
「何か知っているのか?」
「知っているも何も、原因が俺だから。」
「原因…?」
何が何だかわからない。とにかく、この平潟薫を説得か何かすれば恵さんを両親のもとへと送れるのか?
「ねえ、薫先輩?」
「だから先輩じゃないって言ってんだろ」
「さっきの男だ女だっていうのは、恵さんと関係あるの?」
「…おいあんた、名前は」
「室伏悟だけど」
「悟、何だこの子供は。彼女?妹?」
「彼女でも妹でもなくて、そこの室伏悟の雇用主、中見探偵事務所の中見だよ!」
「雇用主…?」
まあ、当然の反応だろうな。さっきまで先輩カッコいい〜とか言ってた自分より明らかに年下な女の子が、この成人男性の雇ってるなんて普通は思えない。
「言ってることは本当だ」
「ねえ、こんな路地裏でもなんだから近くのファミレスにでも行こうよ、薫先輩」
優一…壁に叩きつけられてたこと根に持ってやがる。わざわざ煽るようなことしなくてもいいってのに。
「…はいはいわかった付いていってやんよ、探偵さん」
平潟薫もイライラしているようだ。当然だな、騙された上に煽られたんだから。
修羅場を迎えた三人は近くのファミレスで落ち着いて話をすることにした。
気になることはいくらでもある。優一が聞いた男だった女だったという話や突然路地裏に引っ張って脅した理由そして恵さんの家出の原因という話。
「じゃあまず証拠見せてよ。本当に恵の両親から依頼が来た探偵の人間なの?」
「はあ?何でこっちが先なんだよいって!悟何すんの!」
「中見、目的忘れんな」
「はいはいはいどうぞこれが依頼書と私の身分証明書と名刺と悟の運転免許証ですよ」
「おい勝手に取るな」
「ふーん、本当だ恵から聞いてた名前と一緒。依頼っていうのは間違いないんだね。」
全く優一はこんなに喧嘩腰な人間だったか?そりゃ今まで喧嘩するような場面に出くわしたことはないがキレすぎだろ。
「で?貴方は恵さんのなんなのさ。」
「元セフレ」
「え」
「うわあ」
「うわあってなんだよ」
いやいや驚きはするだろ。友達恋人ならまだしもそんな、不純な関係。一応優一は子供だぞ、一応。というか優一うわあって、うわあってなんだよ。
「わかった、そんな関係から恋人になりたいって恵さんが言ったけどあんたがそんな気は無いってこっ酷く振ったんでしょ」
「そんなドロドロした話じゃないよ。俺達あっさりした関係だし。」
セフレにあっさりとした関係なんかあるのか?
「なんていうか、俺の持病?みたいな」
「もしかして、せいびょもごっ」
「中見、いい加減にしとけ」
「ん〜恵呼んだ方が早いかな、うん早いわ。恵にここに来るように電話してくる待ってて」
ん?恵さんをここに呼ぶ?これは依頼完了の兆しが見えてきた…のか?
「何かめんどくさいねえ。のっぺりした事情があるみたいだよ。」
「…らしいな。今回もサクサクいったと思ったんだがな。」
そして、店の外から平潟薫が戻ってきた。
「恵30分くらいで着くってさ。ところで子供探偵」
「その呼び方やめろなんかムカつく」
子供探偵…子供店長みたいな言い方でちょっと面白いな。今度僕も呼ぼう。
「身分証明、優一って書いてるけど本当は男?ていうか写真的に男だよね。」
優一…とんでもないミスを犯してしまったな。
「…………………女だよ」
「無理があるだろ」
「まあどっちでもいいけどさ。それが君の秘密って言うんならこっちにとっては都合がいいし。」
「都合がいい?」
「同じような秘密をそっちも抱えてるってことでしょ大方その病気のことだったり」
「正解。勘がいいね。」
この頭の中の読み合いのような都内のファミレスの片隅で繰り広げられている小さな意地の張り合いのバトルは僕にはあまり向いていないようだった。
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