第8話 滑り出しの良い沼
根久見さんの依頼が終わってから三日、早速自分の雇用主である優一からメールが届いていた。
「お疲れ様。室伏悟くん。早速今日夕方から出勤してね新しい依頼客くるよろぴろりん。
ps:君のところの店長には俺から話つけといたよん。」
正直バックれようとも思ったが仕事なのでそんな訳にもいかない。にしてもこいつふざけてるな。
あのあと根久見さんにメールアドレスを交換し、根久見さんのお母さんである絢子さんの病状の報告を受けていた。絢子さんは無事に城島さんと会って根久見さんからのメールと一緒に添付された写真には嬉し泣き?をする絢子さんとどうしたらいいかわからないと言わんばかりの城島さんが写っていた。
病気はまだ治るかはわからないが、以前とは違って明るくなったらしいので、体調の方も大丈夫だろう。
時間になったので店長に挨拶をしてから仕事場である中見探偵事務所へ向かう。
ちなみに通勤は中見探偵事務所の車を使っている。ダサいけどバス等使うよりかはましだ。ダサいけど。
車を運転すること20分、中見探偵事務所の車庫に車を入れ、階段を上がり扉を開けると優一は誰かと電話をしているようだった。
「だからねおっちゃん、俺最近空手習って強くなってるから裏情報っていうやつを、あ、ねえおっちゃん!………切られた」
「お疲れ様です、中見探偵。何やってんだ。城島さんか?今の」
「お疲れ!そうだよ。この間の裏世界の裏情報教えてもらいたくてね、交渉してていたんだけどダメだった。」
そりゃそうだろ。お前みたいな子供を危険なことに巻き込めるはずがない。そもそも空手習い始めたからってなんなんだ。裏の世界の住人なんてのは、非合法の銃とか持っている人間達だ。
「依頼は?」
「今回は僕達が依頼人の家に行くよ。」
「どこまで?」
「◯◯区」
「車だな」
「よろしく悟くん!」
車を出して依頼人の家まで向かう。
依頼の電話はまたもや昨日の電話。
内容としては家出した娘を探して欲しいということで、
「また人探し〜。飽きた。」
「飽きたとか言うな。」
ただ優一は若者を探すのには自信があるらしく、SNSを駆使していればいつかは見つかるらしい。そんなに簡単か?
ただ何故夕方に家まで向かって依頼を受けに行くのかというと子供を探して欲しい夫婦が共働きで今週末の休日は空いていないため急遽向かうそうだ。
車を数十分走らせ、目的の住所までたどり着いた。家は住宅街の中にある一軒家で小さな庭があった。
玄関まで中見が行ってインターホンを鳴らす。しばらくすると女の人、恐らくこの家の奥さんが出てきて車を停めさせて貰った。
家のネームプレートには一原と書いてあった。
家に上がらせてもらうと、そこにはおそらくこの家の主人であろう人物が座っていた。
「こんにちは!中見探偵事務所の中見です。初めまして。で、こっちが」
「従業員の室伏です。よろしくお願いします。」
「いやいや驚いた。まさか本当に学生だとは、こんな遅くにすみませんね。こちらこそよろしくお願いします。僕は一原正志です。」
「妻の一原紗枝です。」
さあこちらへ、と案内され椅子に腰掛けて話を聞く。
探して欲しい娘さんの名前は恵さん。一ヶ月ほど家に帰ってきておらず、ただ恵さんからは連絡は来ているが居場所だけは絶対に言わないと。連絡は付いているので警察に相談する前に探偵を雇って探してもらおうという考えだ。
「事情はわかりました。悟」
「ああ。この依頼書に名前、電話番号と住所をお願いします。」
「わかりました。」
「奥さん、恵さんは何か仕事をやっているんですか?」
「ええ。街の方のショップ店員のアルバイトと居酒屋のアルバイトをやっています。」
フリーターか。僕と同じだな。
「仕事には顔を出しているんですか?」
「ええ、おそらく。真面目な子でしたので…」
「でした?何か変わったことでも?」
「一年前から夜遊びが多くなって…」
「友人か恋人かの影響でしょうね。お子さんの出身学校教えて貰っても大丈夫ですか?」
「いいですけど…何かに使うんですか?」
「SNSで検索にかけるんです。その学校に在籍しているひと、していた人で恵さんと接触がある可能性がありますから」
「まあ、私たちスマートフォンのことよくわからないからあれですけど、恵のことよろしくお願いしますね。」
一通りの話を終え車に乗り事務所まで戻る、筈だったのだがどうやら優一が一原恵のSNSのアカウントを見つけたというのだ。
そしてそのSNSアカウントでの最新投稿が2日前で今夜は◯◯のバーで飲む、という投稿があった。
夜になる時間だが、ちょうどバーも開く頃だろうと、そのバーへ聞き込みへ向かう。
優一はいつもの制服姿では当然行けないので車に積んだ私服へと着替えてバーへと2人で入った。
「来てない?この写真の女の子だよ?」
「来てないってばていうか僕子供はバーに来たらダメだよ?」
「誰が子供だ一応仕事だっつの。」
「◯◯のバーっていうのはここでまちがいないですよね?」
「ああ間違いないよ。」
「そのバーで飲むという投稿が2日前にあるんです。覚えてませんか?」
「どうだろうな〜面と向かって話した客は忘れねえから写真見たら思い出す筈なんだが。流石にそんな子は来てねえよ。」
何度聞いても答えは同じだった。
だったらこの投稿は嘘だったのか?アカウント自体が一原さんのアカウントではないのか?
車の中で考えていると隣で優一が神妙な顔をしてスマホ画面を見ていた。
「どうした?」
「う〜んおかしい点があってさあ」
「何?」
「このアカウント20日前くらいまでは自撮りとかショートムービーの投稿が頻繁にあるんだけどここ最近パッタリないんだよね」
「それは…妙だな。アカウントを乗っ取られたとか」
「う〜ん…投稿の行動パターンは酷似しているし乗っ取るメリットがなさそう…」
「もう行動を追うよりメッセージを送って会う約束の交渉をしたらどうだ?」
「それだ〜!!悟天才かよ!」
「アカウント見つけた時点でそうしろよ」
「先にさっきのバーの店員に一番最後の写真見せに行こう!なんかピンク色のメッシュとか入れてるし親御さんから貰った写真とはかなり風貌が違うや」
「それもそうだな。僕が行ってくるから車の中で返信待ってろ」
「あいあいさ〜」
こうして駐車場からまた階段を上がって二階のバーへ急ぐ。20日も写真を撮っていないとなると…散髪で相当な失敗をしたとかなのか?…それはないか。
「何度もすみません。」
「お、さっきの兄ちゃん。子供は一緒じゃねえのか?」
「ええ。それでちょっと聞きたいことが。さっき見せた子と同一人物なんですが、この子に見覚えは?」
「ん?んん…同じような髪型の奴見たことあるぞ」
「本当ですか!ご存知ですか?」
「いやでも、男だったしなあ…」
「男…?」
「まあいいか」
いやよくない。
「同じ髪型の奴の連れなら連絡取れるぜ。ここの常連で知り合いだからな。」
「えっとじゃあ…まだ本人という確証がないのでもしこの子がきたら僕の番号渡しとくので連絡をお願いします」
「おう、了解了解。彼氏募集中の女の子にでも渡しとくわ」
「本当にやめてください」
「冗談だよ〜」
「ありがとうございました、今度飲みにきますね。」
同じ髪型の男…?とは一体どういう関係なんだろう。優一が友人か恋人かの影響かもしれない、と言っていたからもしかしたら恵さんの恋人の可能性が大きいかもしれない。これは大きな進歩ではないだろうか。
とりあえず今日は遅いから帰らなきゃな。
「優一、メッセージの返信は来たか?」
「ありがたいけど今は諸事情で会えない、また今度飲もうねっだってさ」
「上手くかわされたな」
「んね〜とりあえず今日は帰ろっか」
依頼を受けてすぐアカウントを見つけたところまでは好調だったものの、突然の20日前から突然写真付きの投稿がなくなり、投稿に書いてあったバーでは同じ髪型の男性しか見つからなかった。
少し嫌な予感がするのは自分だけなのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます