第6話 表の皮と再会

先程電話していた、三ヶ島警部の元へ行ってから母親が最後に会ったという歌舞伎町まで車で向かう。

車内では根久見さんと態度が激変した優一が、意外にも最近のテレビドラマの話で盛り上がっているようだった。



「でね!私、友達とも話ししたんだけど、あの男の人、組織の一員だと思うの!」


「いーや、あれは絶対ミスリードだね!怪しいと見せかけて実は主人公たちの味方なんだよ!」


「なんのドラマなんだ?それ」


「推理ドラマだよ。なかなか目新しいドラマでさ、主人公が」


「プロゴルファーなんだよね!」


「推理ドラマでゴルファー?よくわからんな」


「まあこのドラマの原案者がかなりやり手でね。ドラマでよくある推理ものと大人のコミュニケーションであるゴルフ、正直若者はあんまり見ないかもしれないけど」


「中年層を狙っているのか」


というかそんなものを見ているのかこの2人は


「そうなんです!あとこの間中高生の間で話題になった脚本家さんが書いてるから、色んな世代に人気なんですよ!」


「まあかなりゴルフの知識に偏ってる印象を受けるけどね。若い人たちがスマホで動画をたくさん見るもんだからテレビを見てそうな中年層をターゲットにするのは良い戦略だよね」


「そんな目線でドラマを見てるのか今の学生たちは…」


冷静にターゲットや戦略なんかを解析する10代の二人に少々尊敬と恐怖を覚える。僕が学生の頃なんかはそんなこと気にしてもいなかったぞ。見たいドラマだけ見て、かっこいい俳優の名言をモノマネしたりなんて何も考えてなかったな。


態度が激変した優一に吊られるように根久見さんもかなり明るくなっていた。本当はこんなに明るく喋るただの少女だとは。シングルマザーの元で育っても聡明で明るい人間なんだなと感じる。



「そろそろ着くぞ」


「三ヶ島警部怒ってないかなあ」


「どんな人なんだ?その三ヶ島さんって人は」


「イケメンだけど怒ると怖い!」


「イケメンなんだ〜!楽しみ〜!」


「食いつくところそこですか」



都内某所の警察署。警察署はほとんど来たことがないので緊張する。

根久見さんもあたりを見渡して緊張している様子だ。


「お久しぶりです、田中さん!三ヶ島警部います?」


「一ヶ月ぶりですね、中見さん。連絡とってみますね。」


「田中さんてば、いい加減優ちゃんって呼んでくださいよ〜〜」


「あの中見探偵のご子息ですから、そういうわけにもいきません。」


「相変わらずつれないなあ。あ、悟!この人、窓口の田中さん!」


「初めまして、室伏悟っていいます。」


「初めまして。田中冬美です。そちらのお嬢さんは?」


「あっ、はい!私根久見紅虎っていいます。」


「今回の依頼人なんだ〜」


「あら、随分と若いお客さんね。初めまして。三ヶ島さんから連絡来ましたよ、一時間後に隣のカフェに行く、だそうです。」


「了解ありがとう田中さん!今度お茶行こうね〜!」


「はいはい、たまには同年代の子と楽しくご飯でも行ってくださいね。」



田中さん、かなり大人の女性という感じだ。話を聞いた限りだと、優一の親が警察署の人間とかなり親しいようだった。もちろん、優一自身も親しくやっている。

一時間後に隣のカフェと聞いた僕達は数十分の間、警察署の近くのイオ◯モールで時間を潰すことにした。



「そういえば中見、なんで根久見さんにタメ口使ってるんだよ。敬意はどうした敬意は」


「あっ本当だごめんなさい根久見さん!なんか根久見さん話しやすくって…」


「全然!いいのいいの!その方が話しやすいし」


「えっ?本当〜??ありがとう〜じゃあこのままでいくね〜〜」



こいつ………わざとらしいにも程があるだろ

依頼人ということをちゃんとわかっていればいいんだが。


時間を潰すと言っても一時間もないのでゲームセンターで太鼓なんかを叩いていたらすぐに時間がたった。

この時間でわかったことは二人は同年代であるためかかなり気が合っているように見える。先ほどまでの探偵と依頼人という感じではなく仲が良い友人の方が自然というくらいに距離感が全く変わっていた。

ちなみに僕は最年長なのでゲームする二人を見守っていた。


そしてイオ◯モールを出て田中さんが言ってた警察署の隣のファミレスへ向かった。



「あ、いた!三ヶ島警部久しぶり〜」



優一が話しかけたのはスーツを着た男性。

これは優一がイケメンというのも頷ける。



「久しぶり、今日は一人じゃないんだな」


「ちょっと、寂しい子みたいに言わないでよ!」


「初めまして、中見探偵事務所のバイトの室伏悟です」


「ね、根久見紅虎です!依頼人です!」


「これはまたお若い方たちが、初めまして、警視庁の三ヶ島崇人です。」



三ヶ島さんは優一の両親と親交があり、優一が生まれた時からの付き合いらしい。

さっきの田中さんの言い方からもやはり優一の両親はすごい人間だったんだろう、何故そんな人間が日本に子供を置き去りにしたのかますます気になってしまう。



昼ごはんを注文して少し話してから、今回の本題へと入ろうとした時三ヶ島さんの口から衝撃の言葉が出た。


「城島 羅楽という人のことだな。その話なんだが、警視庁内に城島羅楽と知り合いの人間がいたんだ。」



なんでもその人は2、30年ほど前、優一と同じく探偵業をしていたというのだ。その時に会ったことある人によれば、今連絡する手段は持ってはいないが何の仕事をしているのかは知っているのだという。



「たっ…畳屋?」


「随分と落ち着いた職に就いたもんだね」


「その畳屋の住所がこのメモに書いてある所だ。ここから車で30分もあればつく所だ。じゃあ、俺は仕事があるから行くからな。何かあったらまた連絡してくれ。」


「ありがとう三ヶ島警部〜!東京バナナは家に送ることにするよ〜!」


「必要ない、じゃあな。依頼人に失礼のないようにな。」


「あ、ありがとうございました!」



そうして根久見さんがお礼を言うと、お礼なんていいんですよと言って三ヶ島さんは店から出て行った。テーブルの上を確認してみるとなんと伝票がなくなっていた。この四人分の食事を何も言わずに払ってくれたらしい。イケメンすぎる。



「いつもこんなに早く見つかるもんなのか?」


「まさか、今回は奇跡だよ。根久見ちゃん!食べ終わったらすぐ行こっか!」


「うん、優ちゃん女の子なのに食べるの早いね!」



三ヶ島さんの依頼人に失礼のないようにという言葉は泡のように優一の頭の中に消えたようだった。


根久見さんが食べ終わってから、車を走らせメモに記された住所まで向かう。

30分ほど経ったころ、 着いたところは少し古びた商店街だった。近くの駐車場に車を停めて、例の畳屋へと歩く。



「こんにちは〜城島羅楽さんはいますか〜?」


「城島なら…今材料の仕入れに行ってる…」


店に入って最初にいたのはおそらく少女。

どうやら城島羅楽さんがここにいるのは間違いないようだ。


「店員さん?」


「うん…この畳屋の主人の養子。貴方達城島の…知り合い?」


「根久見ちゃん!」


「うん!私、城島羅楽さんの娘です。お母さんの名前は根久見絢子って言います。」


「城島の…娘…?そういえば子供いるって言ってた…。上がって」


「ありがとうございます!」


「後30分もしない内に帰ってくると思う…」



そう言ってくれた少女の言葉に甘えて、僕たち3人は畳屋の奥の客間へと案内された。

少女の格好は和服のようなでも女性物の着物でもない、中華服のようなものを中に着ている中々不思議な格好だった。


「ねえ悟、あの子…私と同じ匂いがする。怪しいよ。」


「?どういう意味だよ」


「こっち…お茶持ってくるから待ってて…師匠、城島の娘さん」


「娘?そりゃあたまげたもんだなお嬢ちゃんか?まだ学生なのに大変だなあ」


この人が、この畳屋の主人のようだ


「いえ、私ではなくこっちの子です!」


「ああ、すまんな。じゃあお嬢ちゃんはなんだ?付き添いか?」


「私は中見探偵事務所の中見って言います!これ、名刺です。こっちが、従業員の室伏です。」


「どうも」


「探偵?雇ったのか?」



ここまで来た経緯を畳屋の主人に話す。最初は半信半疑だが、根久見さんの母親の名前を聞いて納得した。

主人の名前は加賀次郎さん。もともとこの畳屋の生まれで家業を継ぐようになった後結婚したのだが奥さんとの間に子が出来ず養子をとったらしい。



城島羅楽さんは、ここの畳屋の加賀さんとは同級生で15年程前から勤めているとのこと。

丁度その時に奥さんとの話を聞いた城島さんの紹介で児童養護施設にいる子を引き取ったのだという。その子が出迎えてくれた加賀楽理さんだった。


加賀さんの話や城島さんの話を聞いていると店のドアが開く音が聞こえてきた。



「城島…帰ってきたみたい」


「お父さん…」


生まれてから一度も見たことのない父親に会うというのはどういう心情なのだろうか、それは根久見さんにしかわからない特別な感情があるんだろう。

その親子に立ち会う感情もまた、自分にとっては新鮮な感情だった。

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