第3話 勧誘対欲望

疑問を抱えながらも自分の仕事に戻る。

今している仕事はの時給は平日で950円、休日で1000円。店長もいい人だしやめようなんて気はさらさらない。


「店長、今戻りました」


「仕事の話、受けなかったのかい?」


「…はい。此処よりいい勤め先なんてそんなにないですから。」


「掛け持ちしてもいいんだよ?」


「…意外ですね」


「はは、彼の両親と知り合いだったんだよ。あの子のことも実の子供のように可愛がっているからね。協力したくなるんだ。」


「そう…ですか。ちょっと考えてみます。」


店長の人の良さに負けそうになってしまう自分がこわい。

だがそれにしても時給は置いといて学生が雇用主だとするなら、ちゃんとした会社と呼べるのだろうか?労働法などはちゃんと守られているのか?

やはり疑問は尽きなかった。




___


バイトも終わりの時間になった。

ここからは深夜の人に交代だ。

バイトの疲れを酒か何かで吹き飛ばそう、誰を誘おうか。この時間に集まれる人間はいるかな、なんて考えていると店に一本の電話がかかってきていたようだ。店長が応対している。


「悟くん、君にだ。夕方の」


嫌な予感しかしなかった



「もしもーし!室伏悟くん? 今からご飯に行こうじゃないか!」


「学生は今から出歩いちゃダメだと思うけど」


「たまには夜遊びも必要なんだよ。じゃあ◯◯駅内のファミレスで待ってるから!」


「おい、なんでバイトの終わり時間知ってるんだ」


ガチャ


「……」


どうやら同年代の友人と楽しく酒盛りとはいかないようだ。

色々聞きたいこともあるし今日だけは酒を我慢して話を聞きに行くことにした。





ファミレスについたら、奥の席には夕方にあった姿とはまた違う姿の人間が待っていた。



「待ってたよ!勧誘を受ける気になったかな?」


「その前に聞きたいことが3つある」


できるだけ今まで浮かんだ疑問点を頭の中で要約しようと試みる。


「どうぞ」


「何故バイトの終わり時間を知ってた?」


「店長に聞いたんだよ。店長とは昔からの知り合いなんだ。」


「お前が雇用主でいいんだな?」


「うん。親は海外でガッポリ出稼ぎ中。お金の面は安心してよ。」


「じゃあ最後の質問、なんでその年で探偵なんてもんをやってる?」


「雇用契約を済ませてからのお楽しみ!」


「おい」


一番重要な質問を流されちゃたまったもんじゃないな。どうみても怪しいし今回は断るとしよう。いくら店長の後起きがあったとはいえ危なすぎる気がする。

僕は人を簡単には信用しない。そう簡単には。


「じゃあ今回の話はなしだ。店長は信用できてもお前は信用できない。」


「はい待った。今度は僕のターンだ。」


「ゲームじゃないんだぞ」


ドサッ


テーブルの上に置かれたのはやや厚みのある茶色い封筒。の、中にうっすら見えるお金の束…。



「これ1000000円ね」


目の前の自分より年下の人間に恐怖すら覚える行動だ。


「お前…」


「4年間」


「…」


「うちの事務所で働いてくれたら、このボーナスを支給しようと思う。」


「はあ……さっさとしまえ、そんなもの。」


「ははっ!じゃあ明日待っているよ、この住所のところに来て。合わせたい人がいる」


一枚の名刺をこちらに渡してくる。


「合わせたい人?」


「君の最後の質問の回答をそこでするよ。」



そう言って会計も済ませ早々に立ち去っていった。

名刺には

中見 優一

中見探偵事務所(TEL:◯◯◯-◯◯◯◯)

なんて情報が書いてあった。


優一という名前は店長も本人も言っていた通り性別は男性で間違い無いんだろう。

それにしても何故女子学生の格好なんてしているんだろうか。

感情豊かで一見わかりやすい人間のようにも感じるが、彼に関しては一生疑問が尽きないのではないかとさえ思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る