第二十四話 『優太は賭けた』
日曜日朝のグラウンド、集合の時間になると彼らは現れた。伊織と海斗である。2人の態度は正反対であった。
「ま、どうせ呼ばれると思ってたよ。おれがいないと試合にならんだろう?」
伊織はただでさえ空気の悪い中へ爆弾を投下する。
「おれは野球する気なんてないんだけど。なぁ荻野、どうせ今日だけやったって、気持ちは変わらんよ?」
こちらは不機嫌な様子の海斗である。どちらにせよやっかいな性格も持ち主のようだ。
「まぁとにかく、今日だけでいいから。今日はいきなりだけど昼から練習試合をします。相手は池川ボーイズです」
「はあっ!?」
一同がどよめく。何を隠そう、池川ボーイズは全国屈指の強豪クラブチームである。しかも中学生の、だ。
「おいおい、さすがに中学生と試合なんて手加減が難しいじゃねーかよ」
伊織が真っ先に反応を示した。大体のメンバーは彼と同意見だと言わんばかりの表情をしている。
「そう言わないでくれよ。出来たばかりのチームと練習試合も組んでくれる学校なんてなかったんだよ。今回の試合だって池川ボーイズOBの木下がいたから組めたんだ。感謝しないと」
そう言うと、部室の中から徐ろにA3サイズほどのホワイトボードを取り出した。そこにはメンバー表が書かれている。
「おれの独断と偏見で、一応のポジションと打順を組んでみた。今日はこれでいこうと思うから、名前を呼んだら返事をして」
少しメンバーの顔が引き締まる。
「1番センター木下。2番ライト山本。3番ショート田沢。4番ファースト大橋。5番キャッチャー堀川。6番セカンド荻野。7番レフト久米。8番サード森田。9番ピッチャー喜多。スコアラーは水野、おれが教えるから頼む」
ピッチャーの名前を呼んだ一瞬、明日香は優太を少し睨むように視線を送った。しかし優太はそれに気が付かない。何事もなかったように話は進んでいく。
優太は一通りの説明を終えると、心新たに、ふーっと深呼吸をした。バラバラのユニフォームだが、この時がチーム発足以来で初めて気持ちがひとつになった瞬間だと優太は感じていた。やはり相手がいて、同じ目標を目指した瞬間にチームはチームになるのだと、優太は確信した。
「よーし、そしたらアップいくぞー」
まだ9人しかいないグラウンドに、大きな掛け声が響いた。
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