第二十三話 『男子トーク』

「練習日程とメニューを組んでみたんだけど、どうだろう」

優太は悠大へメモ帳を手渡す。練習が終わり薄暗くなる中、2人だけが部室棟に残っていた。他でもなく今後の話をするためだ。


「いいとは思うけど……。少しくらいは練習試合を組みたいところだよなあ。うーん」


土日の欄を指さしながら悠大は唸った。確かに人数の問題さえクリアすれば、仮にチームとしての完成度が低かろうと試合を組むメリットは多い。


「あと2人かあ。助っ人でも呼べたらなあ」

悠大はボヤきに、優太の脳裏に何かが引っかかった。


「助っ人……。それだ!練習試合なんだから入部の意志がない人だっていいんだ!」


「ん?誰か心当たりでもあるのか?」


「伊織と大橋を呼ぶ」


そう言うと、悠大は苦虫を噛み潰したような顔をした。もちろん優太も苦渋の策であることは承知である。


「伊織が戻ってくるかだよな。色々とチームからの反対もありそうだし。あと大橋って誰だよ」


「今度連れてくるからその時に紹介するよ。明日にでも声かけてみるよ」


そう言うと、優太はさっさと荷物をまとめてエナメルバッグを肩にかけた。彼は少し目線を逸らしたかと思うと、すぐに悠大の方を見直した。


「色々ありがとうな。相談、 乗ってくれて」


「むしろ頼ってくれて嬉しいぞ。おれそういうの得意だし」


白い歯を剥き出しにして笑った。その屈託のない笑顔には少し照れた様子が伺える。


「もうひとつ、相談いい?」


優太は肩にかけたバッグをまた地面へ下ろすと、座っていた悠大の目線に合わせた。


「キャプテンしてくれない?」


優太は軽い口調で尋ねる。


「だめ」


悠大は即答した。優太にとっては思いがけない返答だった。悠大は少し間を置くと、話し始めた。


「何のためにとか、誰のために、とか。野球をやる理由とか考えたことあるか?」


悠大は優太のはるか遠くを見つめながら言った。


「あんまり考えたことないなぁ。気がついたら始めてて、なんとなく続いてるって感じかな」


なぜか悠大はやれやれといった様子で、小さな声で呟いた。


「自覚なしか……。」


「何か言った?」


「喜多さんだろ?少なくとも、高校で新たにチームを作ってまで野球を続けてる理由は」


悠大はさらっと言ってのけた。優太はあからさまに慌てふためいた。彼は上手く隠していたつもりだったのだ。


「まぁ、つまりだ。そんな相手からキャプテンに任命されたんなら、最後までやり通せよ」


「あ、はい。でも好きとかそんなんじゃないからね?そこは否定させて」


悠大は盛大に笑った。


「めちゃくちゃ意識してんじゃねーか!これはもう答え出てるだろ!」


「あぁーもう!わかりました!さっきの相談はなしで!とりあえず明日メンバー揃えてくるから、じゃあ」


顔一面真っ赤な優太は勢いよくバッグを拾い上げ部室棟から走り去っていった。


一人残された悠大は静まり返った部室の片付けをしながら、自分の言葉を噛み締めていた。


「野球をする理由、か……。よく他人に言えるよな。『したい』のか『しなくちゃならない』のか、自分でもわかんねぇよ……。」


帰り支度を済ませると重い腰を上げた。鍵を取り出そうと漁るバッグには、手製のお守りが付けられていた。

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