第十六話 『はじめてのミーティング』

グラウンドに着いたのは優太たちが最初だった。広いグラウンドの手前側にテニスコートが6面、入って左側が新部室棟、そして右側最奥が野球部の使用するグラウンドだ。

放課後と呼ぶには少し寂しい様子のグラウンドは全面貸切状態だ。優太たちはまず部室棟へと歩いていく。部室棟とは言っても2階建ての8部屋しかない小さな建物だ。優太は右ポケットから鍵を取り出し、1階左側の南京錠を開いた。まだ何も無い空間は、高校生活3年間の始まりを予感させる。


「とりあえず色々と必要なものが多いなぁ」

優太はポツリと呟く。

「バット!ボール!キャッチャーのプロテクター!ベースとバッティングゲージ!あとはヘルメットも!ていうかそもそもユニフォームなくね?」

雅也が怒濤の如く野球用品の名を挙げていく。確かにこれらは必需品だ。つくづく野球はお金がかかるスポーツである。

「ソファーと冷蔵庫も欲しいなーあとシャワーも!それに女子更衣室ってないのかな?さすがにあるよね?」

明日香は女子らしく候補を挙げていく。見る限り女子更衣室はない。部室が空いていればそこを使う形になるのだろうか。

「私は流し台ほしいなー。あと炊飯器も!おにぎりくらい作らせてよね。野球部マネージャーの定番でしょ?」

杏菜が続く。各々の意見を聞いていた優太は頭を抱えた。

「部費っていくらぐらい貰えるんだろう?」

横目で明日香の方を見る。

「うーん、新設の部活だしその辺りは心配しなくていいんじゃない?この学校、元お嬢様学校だけあってお金には困らないと思うよ?」

優太は毎日明日香と関わっていることで忘れていたが、ここは元お嬢様学校だったのだ。優太はもう一度明日香の方を見る。明日香がお嬢様か、と。今度はまじまじと見つめている。

「こいつがお嬢様?みたいな顔してるよね」

明日香が不機嫌そうな表情をする。

「心を読むな」

「否定しろー!こら!」

明日香と冗談を言い合うのが優太の楽しみの1つだった。明日香も笑っている。優太が冗談を言っているのを理解しているようだ。

「取り敢えず、他のメンバー来るまで必要な物を整理していこう」

優太は鞄からメモ帳を取り出すと、エナメルバッグの上でみんなから見えるように開いた。

「まずはボール、バット、ヘルメット、プロテクター。この辺りは必須だな。ユニフォームは公式戦までに間に合えばいいから後回しってとこか」

優太はスラスラとメモ帳に書いていく。

「さすがに部室に直に座るのはアレだし、椅子かソファーぐらい買わない?」

明日香が提案する。

「予算次第だなー。最悪使われてないパイプ椅子でも借りてくるしかないかも」

優太は少し行を空けてメモ帳に書き加えていく。

「うちのソファー使う?」

杏菜が挙手をする。

「丁度新しいソファーを買ったから、古いのは捨てようかって話になってて」

「おお!いいじゃん!あーちゃんちのソファーかぁ」

雅也が変な笑顔を浮かべる。女子2人はかなり引いている。さすがにやめてほしい。

「まぁその方向で行こうか。ティーバッティング用のネットとかもほしいところではあるけど、細かいところはみんな揃ってからにしようか」

優太は一旦メモ帳を閉じると、部室の扉を開いて外を確認する。丁度テニスコートを過ぎたところに5人がまとまって歩いているのが見える。5人は優太らのことに気づくと少し足を早めながら到着し、改めて野球部員が揃うこととなった。


「全員集まってー」

優太のだらしのない掛け声に一同が円状に集まる。あまりに抜けた声だったからか、明日香は周囲からバレないように優太のお尻を小突いた。

「全員集合!」

今度は強く張った声で叫ぶ。

「もう集まってるから!」

またも明日香は優太のお尻を小突いた。どうやら今回は全員にバレたようだ。大きな笑いへと変わる。

気を取り直して優太は正面を向いた。


「よし、じゃあ始めますか!」

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