第3話 名も無き寂寞
「プロト774へのHGRV-A投与率60%を突破」
「昨年までの最大記録は?」
「プロト528の41%です」
「やはり680番台からウイルス耐性の向上が顕著に見られるな。この774も多量にHGRVを摂取しているにも関わらず、現状一切の異常を発していない」
「やはり
「アレが意識を……
…
……
………自分の体の震えで目が覚めた。
寒い。酷く寒い。私としたことが、また焚き火を見ている間にうたた寝をしてしまった様だ。
(いっ…いぜんは…こんな事無かったん…だ、だが…!)
心なしか、この頃寒さにも耐性が無くなってきている気がする。栄養を上手く取れていないからだろうか?
まぁ、今はそんな事考えている暇はない。一刻も早く暖まらなければ命に関わるだろう。
旧文明の店跡で見つけたマッチを擦ろうとするも、手が震えて上手く付かない。いや、それ以前に先ず燃える物を用意しなければ。
ひとしきり辺りを見渡して、私は背に腹は代えられないとリュックから乾かせておいた枝や薪、そしてオレンジ色の濁った液体を詰めたペットボトルを取り出した。
これは昨日そこらの廃車から汲み取ったガソリンだ。この世界においては超の付く貴重品であるため数も少なく、それなりに良い値が付く。街で売ろうと思っていた物だが仕方がない。
作業だが、ガソリンは揮発性の高い液体な為、本来であれば時間に留意して行動をすべきだ。しかし、今の地球は常時真冬であるためそこには猶予がある。今危険なのは静電気だ。寒さに対策がなされた服は非常に静電気が溜まりやすいのだ。
ペチペチとコンクリートの地面を触り、電気を逃がそうとする。効果があるのかは知らない。友人にもらった本に書いていたのを実践しているだけだ。
しっかりと静電気を逃がした(気持ち的にはそう感じている)後、置いた木にガソリンを少量撒いて、震えつつマッチを用いてなんとか火を付ける。
「うっ!」
少し気化していた様でボッ!とほんの小さな爆発があり、肝を潰した。気持ち悪い臭いが一気に鼻を付く。しかし薪は順調に燃えだした為、胸を撫で下ろす。
(上手くいってよかった。ガソリンの炎は好かないが…今は暖かい物がありがたい…!)
ひとしきりあたった後、さっきよりはマシになった手で片付けをし、火に背を向けて丸くなる。まだ夜なのだ。
(独り身は楽だが、こういう時は危ないな…)
こうしてぼうっとしていると、静寂と火の弾ける音がなんとも言えない心地よさと侘しさを醸し出す。……私は寂しいのだろうか。思えば、一人で旅に出てもう数年は経っている。
私は脳裏に一人の人間を思い浮かべていた。盟友と呼ぶべき人、「ペタ」を。
ペタと会ったのは、私がコロニーに保護された時だ。コロニーは『崩壊』を逃れた人間が集まって作った物の総称で、どうやら各地にそういうのがあるらしい。
ペタは崩壊後の第一世代であり、15歳の私と同年代である。天真爛漫な性格と聡明な探求心を持ち、生きることに疎かった私に様々な事を教えてくれた。
彼女と別れたのは3年前…、私が旅に出たときだ。
(…ペタ)
私は努めて人に心を開かない様にしている。この世界では生きるため、生命は常に出し抜き合いを余儀なくされるからだ。
しかし、彼女の事を思うと胸が締め付けられる様になるのは何故だろう。
(……会いたい)
体の震えが止まった頃、私の体は生命を保つ焚き火よりも、むしろ肌の暖かさを求めていた。
LAVE A GIRL 敬称略 @Keisyoryaku
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