第10話バレンタインなんていらない。
「ようやく終わったぁ!!これで
遊んで暮らせるー!!」
正直三月にも学年末テストがあるけど
成績にはたいして影響しないし
勝ったも同然!
今日はなにをしようかな。
やっぱりこの間発売されたlover×loverかな
んーでも積みゲーを消化するのもありだな
そんな楽しいことを考えていた私に
皐月はいきなり玲香バレンタインは
どうするの?と訪ねてきた。
「バレンタイン?????特になにもしないよ。何で?」
「じゃあ一緒に作りましょうか。」
「え?話聞いてた?なにもしないって…」
「い・っ・し・ょ・に・つ・く・り・ま
し・ょ・う・か🖤」
皐月からのものすごい圧に負け
気づいたらコクりとうなずいていた。
はぁ…なにが悲しくて休日に
お菓子作りをしなければならないのだろう。
そして日曜日。
キッチンにはエプロン姿の私と皐月の姿があった。
「よし材料も本も完璧ね」
「で何作るの?」
「うん。やっぱりガトーショコラが
いいんじゃないかなって思って!」
付箋のついたレシピ本のページをバッとあけ
嬉しそうに私の目の前に出した。
(また難易度の高そうなものを…)
もっとチョコを溶かして形につめるだけとか
簡単なものを想像していた私は
肩をがっくりと落としつつも
レシピ本に視線を落とした。
「えーとまずは薄力粉を」
薄力粉ね!わかったわ!
「ちょっ!ストップ!」
なぜか皐月は袋の封をあけるとボウルに
そのまま粉を入れはじめた。
「ちょっ!ちょっとまって!ちゃんと計らないとダメだよ!!」
そういえば、すっかり忘れていたが皐月はお嬢様だった。
いけない。いけない。
とりあえず皐月の持っていたボールを取り上げはかりにボウルを置いた。
序盤からこんな調子でほんとにちゃんと
できるだろうかと気が重くなったが
なんとか無事ガトーショコラが
出来上がりうわぁと歓喜の声をあげた。
「うん、美味しい…!さすが玲香!」
「これなら大丈夫だね。冷めたら
ラッピングしよう。」
「ところで玲香は明日だれにあげるの?」
「ん?そうだなぁ…この際太郎と
日下部、あとゆ…斎藤先輩、
せっかくなら生徒会の先輩達にもあげたいけど受験生だから会えるか分からないなぁ。」
「たくさんいるのね。」
「まぁせっかくたくさん作ったからね。」
なんだか嬉しそうにふふっ皆大変ね?と
笑う皐月に首を傾げる。
「なにが大変なの?」
「ううん。別に?」
「んんー?気になるな」
そうして出来上がったばかりのガトーショコラをラッピングし終わると
ふーと額の汗をぬぐった。
「できた!あとは明日を待つだけだね。」
「えぇ。ありがとう玲香。私一人だったら
絶対に完成しなかったわ。」
「ううん。私も楽しかったし。ところで
皐月はだれにあげるの?」
…それは内緒、よと
少し恥ずかしそうに照れ笑いしている皐月に
なんだか私まで恥ずかしくなってなり
しばらく無言のまま後片付けをしていた。
~バレンタイン当日~
「よっ!玲香おはよ。
今日はいい天気だなぁー。」
太郎はなぜたか妙にそわそわして
曇っている空をみて晴れているという
おかしなことを言い出した。
「?どうしたのなんかいつにもまして
変だけど。」
「いや、その言い方だといつも変みたいじゃん俺。」
「んーまぁいいや。はいこれ。」
昨日作ったガトーショコラを渡すと
なぜか大きく目を見開き私もガトーショコラを交互に見ている。
なんだか本当に今日はおかしい。
変なの。
「は!?これもしかして手作りか?
きゅっ急にどうしたんだよ!
お前毎年チロ●チョコしかくれなかった
じゃん!」
「別に皐月に誘われて作っただけだから。
いらないなら返して。」
「いやいや、ありがたくいただきます!」
太郎はそれから
学校につくまでスキップをし
今日はいい日だなぁ、
最高だ!なんて調子のいいことをずっと私に言っていた。
「おはよう玲香。昨日はありがとう。
これ少しだけど。」
皐月は私にかわいいぬいぐるみつきのチョコレートをくれた。
「えー。かわいい!ありがとう。
なんか申し訳ないなぁ。」
「ううん。気持ちだから。
それよりも今日はお互い頑張りましょうね?」
意味深な笑みを浮かべながら
皐月はまたねと去っていった。
「日下部。やっぱりここにいた。」
いつもの場所で日下部はマスクを外して
パンをむしゃむしゃと頬張ってる。
「なんだ?メンチカツパンならやらないぞ」
「そうじゃなくて。はいこれ。」
「これ…」
「うん。今日バレンタインだから。」
「お前から貰えるなんて嬉しいな。
いや、こんなに嬉しいのか。
良いもんだな。バレンタインは。」
左腕で口許を覆いなかなか私と顔をあわせようとしない。
日下部なら私からじゃなくてもたくさんもらえるはずなのになんでそんなに照れてるんだろう?なんて考えてたら
いきなり髪をぐしゃぐしゃにされる。
「ちょっ急になにするの!?」
もー!と髪を直しているとん。と
胸になにか押し付けられた。
「これやる。」
「!!これ新作のメロンクリームパン!」
「まぁお礼ってことで。
ちゃんとしたのはホワイトデーにやるから
楽しみにしてろ。」
(あとは百合先輩だけど…ってうわぁ!)
なぜだか体育館にものすごい行列ができていた。
おそらくというかこれは間違いなく…
「先輩これバレンタインのチョコです!」
「おー。ありがとう。」
「昨日手作りしたんです!」
「おーうまそ。」
あぁやっぱり。
これに並ぶのはさすがに気が引けるし
仕方ない。諦めよう。そう思ったときだった。
「おー!早乙女ー!」
…何かの間違いだといってほしい。
振り返るのが躊躇われたが
仕方なく振り返りペコリとおじきを
してその場を去ろうとしたが
先輩は女子の視線もきにせず
ずんずんとこちらに向かってあるいてきた。
「久しぶり。もしかして俺に用か?」
「あーはいまぁ…。
これ一応チョコなんですけど」
「おおっ手作りか?サンキュー。
しかしお前もお菓子とか作るんだな。
正直意外だわ。」
「ええまぁ皐月に誘われて。」
その言葉を聞いた瞬間先輩の目の色が
キラリと変わる。
「なに?じゃあ二人で作ったのか?」
「そうですよ。私の家に集まって二人で…」
そういいかけたところでやめた。
なぜかって?
先輩が口許をおさえニヤニヤとしはじめたからだ。
きっとまたよからぬ妄想でもしてるのだろう。
「そうか!それは素晴らしい時間を過ごしたな!はっ!ということはこれは二人の
愛の結晶か!?」
「残念ながら先輩が望むような展開には
なってないですけどね。えぇ。」
ほんとあそこでにらんでいる女子全員に
今の先輩を見せたい。
「とりあえず私もういきますね。」
「おう。またな。」
そうして百合先輩と別れるとタイミングを
見計らったかのようにスマホのバイブがブーブーとなった。
画面をみると新着メッセージが一件あります。と表示されている。
「新着メッセージ?なんだろ?…げ。」
そのメッセージは木戸先輩からだった。
【木戸です。
この間のパーティーではありがとう。
僕は今日生徒会室の荷物を整理しに
来てるからもしなにか渡したいものがあるならおいで?】
これはお誘いではない。
最早来いよという脅迫メールである。
行かなかったら何を言われるかわからない。
仕方ないと半ば諦めモードで
生徒会室へとむかった。
「やぁ久しぶり。」
まるで作り物のように嘘くさく笑う
木戸先輩にオヒサシブリデス。と
まるでロボットのような片言になってしまった。
「緊張しなくてもいいのに。君と会うのは
あのパーティー以来だね。
でその後ろに隠しているものはなにかな?」
ギクッと肩を震わせ後ろに隠していた
紙袋からガトーショコラを取り出し手渡した。
「先輩のような方の口にあうかは
分からないんですけど。」
するとニッコリ微笑んでその場で
ラッピングを開け上品に一口食べてくれた。
「うん。美味しいよ。ありがとう。」
まさかその場で食べてくれるなんて
思っていなかった私は何も言えなくなった。
するとガラガラと扉があくと
そこには慎之介先輩の姿があった。
「遅かったねしん。」
慎之介先輩はよほど驚いたのか
口をあんぐりとあけたまま木戸先輩をみていた。
「じゃあ僕はここで失礼するよ。
あとは二人でごゆっくり。」
「えっちょっ木戸先輩。」
私の声も届かず早足で生徒会室を出ると
私は慎之介先輩と二人になった。
しばらく沈黙した時間が続いた後
その沈黙を破ったのは慎之介先輩だった。
「久しぶりだな。元気だったか?」
「はい。おかげさまで。
…あの慎之介先輩これ。」
「あぁそういえば今日はバレンタイン
だったな。大切に頂こう。」
まるで宝物でも手にしたかのように
大切にガトーショコラを包み込んでいる先輩になぜだか急にドキドキとしてしまい
じゃ、じゃあ私はこれでと生徒会室を
出ていこうとした。
しかし私は腕を掴まれてしまい動きを
制されまるで魔法にかけられたように
ピタリとも動かない。
私はどうしてしまったのだろう。
こんなのまるで乙女ゲームのような展開だ。
ゆっくりと振り返り先輩の顔をじっと見た
その顔は今までみたことがないくらい
真剣なものだった。
「俺はお前が好きだ。」
私の高校生活が乙女ゲームのようになりつつある件 石田夏目 @beerbeer
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。私の高校生活が乙女ゲームのようになりつつある件の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます