第9,5話 お正月は寝ていたい。



テレビの前でカウントダウンを見つつ年越しそばを食べる。

3、2、1

ゴーンという除夜の鐘の音を聞き

あぁようやく年があけたんだなと

感慨深げに思った。

去年は本当に色々ありすぎた。


来年こそは平和な高校生活を送れますように

そう願いつつ蕎麦をすすりながら

テレビを見ていた。


布団から出たくない。

ずっと寝ていたい。

けれど普段絶対にできないことが許されるのがこの冬休みだ。

(昼頃には起きてゲームをしよう。)

はぁ冬休み最高。


そう思っていたのにお母さんの

「ほら、玲香!太郎くんがきてくれたわよ」

という一言で一気に現実へと戻された


「えー…。寒いし外出たくないんだけど…」


「…玲香?」


母の無言の圧力がかかる。




「あーはいはい…。分かりましたよ…。」

仕方なくしぶしぶ布団から出て

パジャマの上から羽織りを着て

玄関へとむかった。


「よっあけおめ。」


扉を開けるとそこには水色のダウンジャケットとマフラーをつけた完全防備の

太郎の姿があった。


「あーうん。おめでとう。でどうしたの?」


「いや、なにって毎年行ってるだろう。

初詣だよ。初詣。」


「えっ?高校生になっても行くの?」

「当たり前だろ!」

この寒さと人混みの中、出歩こうという正直気持ちが分からない

こういう日こそ家でゲームに限るのに

確かに小さい頃からずっと続けてきたことではあるのだが、さすがに高校生になったら

やめてもいいのではないだろうか。


「うーんと今日はやめない?

ほっほら寒いし…ね?」


「そういうと思って。ほらこれ。」

今年の干支がらのポチ袋を目の前に出される。

わっ!ありがとう!といって受け取ろうとするとあと少しいうところでひょいっと手を上にあげられた。

ぶーぶーと抗議の声をあげると

「行くよな?」

とただ一言。

あぁこう言われたら行かざるを得ない…

「…行きます。」

私はしぶしぶダウンジャケットを羽織った




案の定近くの神社は参拝客でごったがえしていた

「うわぁ…」

「毎年の事ながらすごい人だな。」

「そうだね。」

「ほら」

「なにその手。」

「なにってはぐれたら困るだろ。」

「えぇ…小さい子じゃないし大丈夫だよ。」

そんな私の声も聞かず私の手を取り歩きだした。

心なしか耳が赤くなっている気がする

「こうしてると思い出すよな。」

「?なにを」

「幼い頃さ、ここの神社のお祭りで迷子になった時お前が一番に見つけてくれたんだよな。」

「そうだっけ。」

よく覚えてるなぁそんなこと…。

「半べそかいてる俺の手を引っ張ってさ

私がいるから大丈夫だよって言ってくれたんだ。」

あぁ確かにそんなこともあったかも知れない

混みを掻き分けながら進むと

ようやくたどりついた

五円玉をお賽銭箱の中に入れパンパンと二回手を叩いた

(今年こそは平和な学園生活が送れますように)

目を開け一礼すると太郎は真剣な顔をして

ずいぶんと長い間お祈りをしていた

「よし。」

「やたらと真剣にお祈りしてたよね。

なんてお願いごとしたの?」

「それ言ったら叶わないだろ。」

「まぁ確かに。」


「なぁおみくじ引かないか?」

「確かに醍醐味だよね。」

おみくじを引くと


「お!大吉だ。今年はいい一年になるな

で玲香は…」

「…大凶。」

何度も確認するがここまで大きな文字で書かれいては間違いようがない。

「あーうん。まぁほらたかがおみくじだからさ。」

全国的に大凶の数というのは少なめにつくられているところが多いそうだ。

そんな数少ない大凶を引くなんてある意味ラッキーかもしれない!

とは思えないよね。普通。

(あぁ今年も終わったな…)

太郎は私の紙を取り、自分の紙に重ねると

高いところに結びつけた

「これでチャラだからあんま気にすんな。」

なんだか今日は様子がおかしい。

普段はこんなキザなことするようなやつではないのに。

「どうしたの?熱でもある?」

「いや別にないけど。」

「…じゃあなんか悪いもんでも食べた?

じゃないと説明がつかないよ。

普段絶対そんなことしないのに。」

「お前な…別に普段からしてるから。

お前が知らないだけだろ。」


「じゃあ俺行くわ。今年もよろしく。」

「うん。また学校でね。」


「あのさ、」

「なに?」

「俺今年から本気で変わるから。」

「は?なに急に。変わるってなに?」

「まぁ見とけって。」


大きく手を降るとくるっと後ろを向き駆け出していった。

さすが陸上部。フォームがきれいだ。


もうすぐ二年生か…

うーんあんまり実感ないなぁ

うううぅ寒。

さっさと家にはいろ。

そうしてさっきもらったポチ袋を鞄にしまい

そそくさと家へ戻っていったのだった。

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