第9話 クリスマスも案外悪くない?

そしてクリスマス当日

タンスの奥から引っ張り出した小綺麗なワンピースを着て、母にもらったネックレスを首につける。

テレビを見ても遊園地に行くだとか彼氏とクリスマスディナーに行くだとかとにかく世の中全体が浮かれまくっている今日

私の気分はかぎりなくブルーだ。

(クリスマスなんてなくなればいいのに…)

「玲香ー!じゃあお母さん達行くからね。失礼のないようにしなさいよ!」

階段の下から声が聞こえる。

両親は二人でクリスマスディナーに行くというのだ。

羨ましい限りだ。

私は今日友達の家でクリスマスパーティーをするということになっている。

(本当のこと知ったら泡ふいて倒れちゃうだろうな)

「ちょっと玲香!!早く降りてきて!!!」

なぜか母はかなり興奮ぎみだ。

(…?どうしたんだろ)

はーいと返事をし下に降り、玄関を出ると黒塗りの高級外車が玄関の前に止まっていた

「…げ!なにこれ」

「おはよう。迎えに来たんだ。今日はよろしく」

今日の先輩は白のスーツに白の靴

まるで王子さまのような出で立ちだった。

「ちょっと!玲香!お友達って彼のことなの!?」

「うん。まっまぁね。」

「…娘はやらん。」

(お父さん…いきなりすぎるよ)

「玲香さんのご両親ですか?はじめまして。木戸孝一と申します。今日一日お嬢様をお預かりさせていただきます。」

深々とお辞儀をする。

さすが御曹司。

美しいお辞儀だ。

「まぁ…!こんな娘でよかったら一日と言わず…!!」

「…娘は絶対やらんぞ。ううっ。」

父は今にも泣きそうだ。

相変わらず涙もろい。

そんな父に呆れていると母に肘でつつかれた

(「ちょっと、玲香!シュミット様に似たイケメンの彼氏がいるなんて聞いてないわよ!!)」

母もさすがの乙女ゲーム脳である。

まぁ確かに似ているかもしれない。

彼氏ではないが。

「お話し中すみません。

実はあまり時間がなくて。

玲香さん、お乗りいただけますか?」

運転手の人が中からさっと出てきてドアを開けてくれる。

まるでドラマの世界だ。

車に乗ると母が大きく手をふって見送ってくれた。

父はずっと目頭をおさえたままだったけど。

「素敵なご両親だね。」

「うーん。…そうなんですかね。」

あまり感じたことはないが確かに家族仲はいいかもしれない。

「実は今日表向きはクリスマスパーティーだけど本当は僕の婚約発表の場なんだ。」

「えっ!?婚約発表!?」

「葉山議員って知ってるよね?彼の娘さんが僕の婚約者なんだ。会ったことはないんだけどね。」

(確か葉山議員って次期官房長官と言われている…)

「政略結婚ってやつだよ。僕の会社としても政界のパイプは欲しいからね。」

「でもそんなのって…」

「だから君に偽の婚約者をお願いしたんだ。この婚約を解消するためにね。」

私の顔をみてにっこりと微笑む。

なんだか嫌な予感がしてならない。


ホテルに着くと従業員の人が一列にずらっと並び頭を下げていた。

車が入り口に止まるとドアマンの人がすぐに開けてくれた。

「すっすごい…」

「そうかな?すぐに慣れるよ」

(さすが木戸先輩だ)

ホテルの部屋に通されると机の上に沢山の箱や包みが置かれていた。

(なっ…なにこれ)

「気に入るかわからないけど開けてみて」

それは鮮やかなロイヤルブルーのドレスや靴だった。

ドレスの胸元にはレースがあしらわれ控えめながらも繊細で美しいデザインだ。

「えっ!?これ私にですか!?」

「君以外に誰か着るの?」

「こここんなの着れません!」

「…僕の婚約者としてパーティに出席してもらうんだからこれくらい着てもらわないとね?まさかその格好で出るの?」

「そう言われると…。」

確かに私が今着ているワンピースではとてもじゃないけれど先輩の横に並べないだろう。

私はしぶしぶ頷きこのドレスを着ることにした。


「うっわぁ…すごい」

(あっあの人女優の…!あっちは歌手の…!)

次々と現れる有名人に目がきょろきょろとせわしなく動く。

本当に別世界だ…

「あれ?早乙女さんー?」

「早乙女…?」

声のする方向を見ると見慣れた二人組がこちらへ向かって歩いてきた。

「やっぱりー!一人だけこの場の雰囲気に合ってないなと思ったのー!」

(すみませんね。場違いで。)

ことは先輩の毒舌も今日はなんだか安心する

「早乙女…お前そのドレスは」

「木戸先輩に用意していただいたんですけど…

やっぱり似合ってないですよね。」

「いや、よく似合ってる。自信をもて」

「えっ…あっありがとうございます。」

思いがけない言葉に思わず焦ってしまった。

「ふーんこうちゃんがね。そのドレス皇室御用達ブランドだからきっとかなりの値段するねー!」

「え!?皇室御用達!?」

値段を想像しただけでも恐ろしい。

「さ、す、がこうちゃんだねー!」

「孝一が招待?…お前達いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

「ええっとこれには深い事情が…」

説明しようと思った矢先、肩をぐいっとつかまれ体を寄せられた。

「しん、嫉妬なんて醜いよ?」

(あぁ。また最悪なタイミングで)

「あっこうちゃーん!今日は招待してくれてありがとー!」

「いいえ。今日は先生も来られてるのかな?」

「あぁ父上ならあそこに。それよりどうして早乙女がここに…」

「もちろん僕が招待したんだ。ゲストとしてね?」

「大切…か。」

二人の間に微妙な空気が流れる。

お願いだからそういうのは私抜きでやって下さい。

「はーい。二人ともそこまでー!せっかくのクリスマスパーティーなんだから楽しみましょ?」

ことは先輩のその一言で場が少し和んだ。

今日頼りになるのはことは先輩だけかもしれない。

「あっ!しんちゃーん!あれ俳優の浜岡優一だよ!私サインもらってくる!」

「おっおいことは!」

前言撤回。

ことは先輩はやっぱり相変わらずだ。


「あれ?孝一さん?こちらにいらっしゃったの?」

向こうから歩いてきたのはまるでモデルのようなスタイルの美女だった。

真っ赤なドレスもさらっと着こなしている。

かなりのハイヒールなのに歩く姿も美しい

歩くたびにその美しい髪が風になびいた。

(こんなに美しい人がこの世にいたなんて)

「あぁ。真梨さん。紹介するよ。」

「いえ、私からご挨拶させていただきます。モデルの真梨です。よろしくお願いいたします。」

(やっやっぱりモデルだったんだ。)

木戸先輩と並んでもなんら遜色ない。

「こっこちらこそよろしくお願いします…」

「真梨さん。ご両親はもう来られてる?」

「ええ。あちらに。」

「そう。じゃあ僕挨拶してくるよ」


「玲香さん…とおっしゃったかしら?」

「はっはい!」

「素敵な名前ね。私と孝一さんのことはもう聞いてるかしら?」

「…えっともしかして、真梨さんが」

「そう。婚約者よ。まぁ親が決めたものだけど。」

(お似合いすぎる…!)

次期官房長官の娘と次期木戸グループの社長

すごい組み合わせだ。

「…今日発表するんですよね?」

「ええ。そのつもりよ。」

「こんなこと言うのもなんですけど本当にいいんですか?だって結婚って一生に一度のものですし。」

「いいもなにもないわよ。だってどうしようもないじゃない。」

彼女の表情は心なしか暗い。

「…もしかして好きな人でもいるんですか?」

彼女の肩がビクッとふるえる

どうやら当たったようだ。

あたりを何度も見回し軽く手招きされると私の耳元に唇を近づけ耳打ちをされた。

「ねぇあなた少し協力してくれるかしら」


「それでは皆様ご着席ください。

これより木戸グループ社長木戸創様よりご挨拶をいただきます。」

「えー皆様。本日はお越しいただきありがとうございます。

私がさきほどご紹介にあずかりました

木戸グループ社長木戸創です。」

盛大な拍手が送られる。

あまり木戸先輩には似ていないように思えた。

「それでは乾杯…といきたいところですが本日はこの場をお借りして皆様にご報告したいことがあります。それではあちらをご覧ください。」

社長がそう言った瞬間いきなり会場が真っ暗になってしまった。

しかしこれは演出ではない。

「急になんだ!電気はどうしたんだ!」

「そっそれが原因がなんだかわからず…」

しばらくするとパッと電気がつき会場が明るくなった。

すると本来木戸先輩と真梨さんが座るはずだった椅子に真梨さんと見知らぬ男性が座っていた。

「なっ!?なんで…」

真梨さんがマイクを持ち一礼をする。

「皆様。今日はこの場をお借りしてご報告がしたいことがございます。

私葉山真梨はこちらにいらっしゃる山本司さんと婚約いたします。」

会場中が割れんばかりの歓声と拍手につつまれる。

それもそうだ。

彼は現職の厚生労働大臣の息子なのだから。

さすがの木戸社長もなにも言えないだろう。

「おい!真梨!どういうことだ。説明しなさい。」

葉山大臣がものすごい剣幕でステージに上がる。

「お父様すみません。私は司さんが好きなの。」

「ご挨拶が遅くなりすみません。お父様。」

深々と頭を下げる。

「おい、君!いきなり来て何を」

「葉山議員。」

「…これは山本厚生労働大臣。」

「私もさきほど聞いたところでね。しかしめでたいではないか。」

「はっ…そっそれは…」

「お父様。認めてください…」

「僕からもお願いします。」

さすがにこの雰囲気の中では葉山議員もノーとは言えないのだろう。

…あとで二人とも挨拶に来なさい。とその一言だけで終わった。


私はその様子をステージの袖からひっそりと見ていた。

「彼女けっこうやるね。」

孝一先輩が私のもとへと歩いてくる

「君がやたらと話しかけてくるからなにかあるのかと思ったんだけど、そういうことだったんだね。」

「すみません。真梨さんに引き止めるよう頼まれて。」

「真梨さんも見た目によらず結構大胆なんだね。」

「先輩。」

「ん?なんだい。」

「聞きましたアメリカ留学の話。」

「…真梨さんからか。」

「諦めるんですか?先輩の夢なんですよね

そんなに簡単に諦められるものなんですか?」

「諦められるか…

まさか君にそんなこと言われるなんてね」

先輩の両肩を軽く押す。

今ならきっと。

「ほら、早く行ってきてください!

親子なんですから話せば分かってもらえますよ」

「全くやっぱり君には叶わないね。」


先輩はステージに向かって歩きだしていった。

「おい、孝一。これはどういうことだ!」

その声も聞かず先輩はスタンドマイクの前に立ち深々と一礼した。

「皆様。本日はお越しいただきありがとうございます。私は木戸創の息子の木戸孝一です。

真梨さん、司さんご婚約おめでとうございます。」

二人は立ち上がりそろってお辞儀をした。

「そして僕からも皆様に大切なお話があります。

僕は来年アメリカの大学を受験します。

そしてこの木戸グループをもっと大きなものにしていきます。

どうか皆様、今後とも変わらぬご支援をいただけますようによろしくお願いいたします」

会場からは拍手が鳴り響いた。

「孝一!そんな話聞いてないぞ!」

「…お父さん。いや、社長。

僕はこの木戸グループを今よりもっともっと大きくさせてみせる。

必ずお父さんを越えて見せるよ。」

宣戦布告ともとれるような強気な発言だ

普段の優しい先輩とは想像もつかない

「出来るものならやってみろ。いいか四年で帰ってこい。それ以上は認めん。」

木戸先輩の社長は早足でステージを後にし

私の横をすたすたと歩いていった。

その顔はどことなく嬉しそうだった。

「それでは、皆さんグラスをお持ちくださいメリークリスマス!」

「「メリークリスマス!!」」

カンというグラスの音が鳴り響く。

どうやら全て上手くいったようだ。

私はほっとひと安心して席に戻り美味しい料理に舌鼓をうった。

案外クリスマスも悪くないかもしれない。



「つっ疲れた…。」

普段ヒールを全く履かないせいか足が悲鳴をあげている。

「お疲れ様。下に車用意してあるから家まで送るよ。」

「ありがとうございます。あっこのドレスどうしたらいいですか?」

「あぁ。それは君へのクリスマスプレゼントだから気にしないで。」

「ええっ!?こんなに高いの戴けません!」

「それオーダーだから君しか着れないよ?

だから遠慮せず貰ってほしいな。」

「…でも私先輩にあげられるようなものなんて」

「もう貰ったよ。」

「え?」

「ほらいいから…いくよ。」

ほらと手を差し出される

私もおずおずと手を差しだすと先輩に手を掴まれそのまま歩きだされた。



帰りの車の中はとても静かだった。

先輩もきっと疲れているのだろう。

私も疲れているのか抗いきれないほどの眠気が襲ってきた

なんとか堪えようとして目を見開いてみるが効果は全くない。

(だっだめだ…もう…げんか…い。)


「ん?」

気がつくと僕の肩に彼女の頭の重みがあった

疲れていたのだろう。

いまはすやすやと寝息をたてている。

彼女の髪をそっとなでる。

女の子の髪はどうしてこんなに柔らかいのだろうか。

ふっと彼女の言葉を思い出す。

―諦めるんですか?先輩の夢なんですよね

そんなに簡単に諦められるものなんですか

(まさか彼女の言葉に背中を押されるなんてね)

「んん…北京ダック…もうひとつ…」

笑いそうになるのを必死でおさえる。

今笑えば彼女が起きてしまうかも知れない。

いっそ本当に婚約してしまえばよかったかも知れない。

…なんてね。

(あーあ。しん、もし君が今のままだったら僕も本気で動くからね。)


「くしゅん!」

「しんちゃん風邪ひいたの?」

「いや…そんなはずはないのだが。」

「ねぇしんちゃん。早乙女さんのことどう思ってるの。」

「どうって別にいいやつだとは思うが」

「私早乙女さん見てるとね、お母さんのこと思い出すの。」

「…ことは。」

「あーあ双子なのにぜーんぜん似てないね。私達。

まぁさすがに気持ちまでは似ないか。」

「そう…だな。」

「結局しんちゃんは逃げてるんだよ。

自分の思いからね。」

「逃げてるか…お前は昔から鋭いよな」

「ふふーん。まぁ双子ですから。しんちゃんのことはなーんでも分かるよ。」

「そろそろ帰るか。ほら。」

「しんちゃんと手を繋ぐなんて久しぶり!」

「あぁ。俺もお前のことならなんでも分かるからな。」

「ふふっ。しんちゃんだーいすき。」


こうしてそれぞれのクリスマスは終わった

しかし次の日から毎日のようにシュミット様に会いたいと言われるようになった。

やはり遺伝は恐ろしい。














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私の高校生活が乙女ゲームのようになりつつある件 石田夏目 @beerbeer

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