第8話終わりよければすべて…よくない!

夏休みも終わり学校へ登校すると教室の空気は全く覇気がなくどんよりしていた

(はぁ…分かっていたけどやっぱりつらい。

カムバック!私の乙女ゲームライフ…)

すると夏休み明けの憂鬱さなど全く感じないであろう人がいつものように勢いよく入ってきた。

「今度の文化祭だかくじの結果俺らのクラスは模擬店をすることになったぞ!」

まばらに拍手がおきる。

坂口先生に慣れてきたのか誰一人疑問の声をあげない。

いやそれはだめだろう!と思わずつっこみそうになる気持ちをおさえ恐る恐る手をあげた

「おうなんだ?」

「今の説明だとわからないので文化祭のこともう少し詳しく教えてほしいんですけど。」

「あぁ!そうかそれは悪かったな。ついうっかりな!」

いつものことなのでうっかりではない。

「学園の文化祭は二日間行われ各クラスごとに模擬店、演劇、展示のいずれかを選ぶようになっている。

そうしてそれは担任のくじによって選ばれるのだが、俺はみごと模擬店を勝ち取ったということだな!」

皆からどっとした歓声と共に大きな拍手がおきる。

(確かにその中だと模擬店が一番いいかも)

「おぉ!皆嬉しいのか!よし!さっそくだが模擬店の中身を決めたいと思うぞ!なにか意見のあるやつはいるか?」

皆色々な意見を出した。

先生が1つ1つ黒板に書いていく。

(喫茶店に、たこ焼きに、やきそば…

どれも楽しそうだな。)

「これで全部か?…よし響きがいいから喫茶店にしよう!決まりだ!」

(いつもながら勝手だな)

「カフェか…ただのカフェじゃつまらないよな!なにかアイディアがあるやつはいるか?」

急にシーンとした空気が流れる。

確かにいきなりアイディアと言われても難しい。

「なんだ?皆さっきはあんなにやる気だったのに…」

そんな空気の中皐月がはいと手をあげた

「おぉ桐生!なにかアイディアがあるのか?」

「はい。和装喫茶というのはどうでしょうか?袴を着たり着物を着て接客するんです」

「袴かぁ!いいね!楽しそう」

「あぁありだな!」

どうやら好印象のようだ。

こうして私たちのクラスは満場一致で和装喫茶に決まった。


「さすが皐月。和装喫茶なんて良く思い付いたね!」

「えぇ。うちの母は茶道の家元で私も普段から着なれているからね。それに今これにハマってて…」

皐月が鞄から取り出したのはCDだ。

着物男子~デート編~?

「なにこれ?」

「なにってシチュエーションCDよ?これはもし着物男子たちとデートしたらという設定なの!初夜編とかお泊まり編なんかもあるのよ!」

「へっへぇ…」

(シチュエーションCDまで網羅してるのか)

友人ながらその守備範囲の広さに驚く。

「明日から準備期間よね!頑張りましょう!」

「うっ、うん。頑張ろうね」

(はぁまたゲームをする時間が減ってしまう…仕方ない。今日たくさんやろう。)


そうして次の日から各クラス文化祭の準備がはじまった。

当日のメニューの試作、店の内装、着物の着付け…などとにかくやることが多い。

毎日夜遅くまで学校に残り、家に帰ると制服のまま寝てしまうこともしばしばあった。

そしてついに文化祭当日を迎えた


一日目

「うん。これでよし!

私は皐月の特訓のお陰で一人で着物が着れるようになり、慣れた手つきでエプロンを着ると髪型もきっちりとまとめ皆で円陣を組みおー!と気合いをいれた。

こういうのは最初が肝心だ。

私にできる最高のスマイルを作り外に出る

「いらっしゃいませ。何名様ですか…って」

「あぁ二人で…あれお前玲香か?」

「……なんだ。太郎と日下部か。気合い入れて損した。」

「いやなんだってなんだよ。」

「というかいつの間にそんなに仲良くなったの?」

「…まぁこいつには演技指導をだな…」

(演技指導!?そういえば太郎のクラスって演劇だっけ)

「たまたま練習してるの見てて…あまりに下手すぎるから仕方なく。」

「うっ。俺そんなに台詞ないんだぞ。だから別に…」

眼鏡ごしに太郎の方をにらんでいる。

やはり演技に関しては妥協できないのだろう。

「ところでなにやるの?」

「白雪姫…俺は小人その3だ。」

「こっ小人?!うわぁ似合わない」

想像しただけで笑えてきてしまう。

「背の小ささで選ばれたんだよ!悪いか!」

たしかにあまり気にしたことなかったが日下部と並んでみるとかなり小さい。

「楽しみ!絶対観に行くから!」

「いや…観に来ないでくれ。頼む。」

「ううん。絶対行くから!あっお二人様ご案内です!」

二人を真ん中のテーブルに通しメニューを差し出す

二人はメニューを見ながらあれこれと考えていた。

「ご注文は?」

「このさ限定お抹茶っていうのは?」

「あぁそれは裏で皐月とクラスの茶道部員の子が点ててるんだよ。」

「へぇ。今頼めるか?」

「うん。大丈夫。一つでいい?」

「…じゃあ俺ももらう。」

伝票にお抹茶二つと書き込む

「じゃあ、あとこの抹茶パフェで。日下部は?」

「…じゃあ同じで。」

(二人とも抹茶好きなんだな。)

意外な共通点が見つかった。

「かしこまりました。少々お待ちください」

注文したものが届くと二人はなにか話しながら美味しそうに食べている。

(仲良さそうでよかった。)

そんな二人の姿を横目で見つつ接客へと戻っていった。


お店はかなり繁盛し次から次へと人がやってきた。

私はようやく休憩時間となり文化祭のパンフレットを広げた

「どこからいこうかなぁ」

どのクラスも楽しそうなものばかりだ。

(へぇ…日下部のクラスはお化け屋敷か)

「であえ!であえー!」

その不思議な掛け声に驚いて後ろを振り向くとなぜか新撰組の格好をした三人の姿が見えた。

(三人組…嫌な予感がする)

逃げようとしたが一歩遅かった。

「あっ早乙女さーん!」

皆の視線が一気に私に集中する。

うん。あの先輩はいつもわざとやっているんだろうな。

「生徒会の皆さん。こんにちは…」

できれば会いたくなかったけれどと言いそうになったが必死におさえる。

「やぁ。早乙女さん。着物似合うね。」

「…ありがとうございます。実は母のなんです。」

「そうか。お前のクラスは着物喫茶だったか?」

「はい。そうです。…ところでなぜ新撰組の衣装なんですか?」

二人の先輩は目を見合わせて黙っていた。

「私のアイディアなんだよー!生徒会は文化祭の運営や見回りをやってるんだけどただ歩くだけじゃつまらないでしょ?だから目立つように新撰組の衣装にしたの!」

「はぁ…なるほど(?)」

いまいち納得できなかった。

まぁことは先輩のことだからきっと今新撰組のアニメにでもハマっているのだろ。

「すまない。俺たちはこの後も見回りを続けなければいけないんだ。

お前のクラスには明日必ず伺うから。」

「ふーん。慎之介と早乙女さんって仲いいんだね?」

木戸先輩は意味深な笑みを浮かべた。

なんだろう。このゲームのラスボスのような雰囲気は。

(だいたいこういう人って乙女ゲームでは腹黒キャラだったりするんだよね。)

「ちょっとー!二人ともー!いくよー!であえ!であえー!」

(ことは先輩その言葉だけはやめたほうがいいと思います…。)

三人の後ろ姿を見送りつつ再びパンフレットを広げる。

(そういえば百合先輩のクラスはなにやるんだろう…)

文化祭の冊子をパラパラとめくるとそこに先輩のクラスを見つけた。

(ん??なにこれ?えーと執事カフェ?!)

気になった私は早速先輩のクラスへとむかった。

なっなにこれ…

そこには、かなりの行列ができていた

ちらっと時計を見る。

この時間ではお店に入れないかも知れない

諦めよう。そう思ったときだった。

「えーと、次の…あれ?早乙女?」

(先輩…なんてタイミングが悪い。)

壊れたおもちゃのようにぎこちなく振り返った。

その瞬間皆の視線が突き刺さった。

(うわぁ…視線が痛い。)

しかしその視線を全く気にもせず先輩は私のほうへむかって走ってきた。

「着物着てるからいまいち自信がなかったが背格好がお前に似ててな。もしかして来てくれたのか?」

「いえ、たまたま通りかかっただけで…」

先輩は黒のスーツに銀の眼鏡、首には黒の細いリボンをつけている。

「似合いますね。先輩。」

「そうか?お前のほうが似合ってるぞ。着物はやっぱりいいな!」

「ありがとうございます。」

(さらっとこういうことが言えるからモテるんだろうな…)

「斎藤!」

「悪い。呼ばれたから戻るわ。またな。」

先輩が戻ると女子達の悲鳴にも似た歓声が聞こえる。

もうすぐ休憩時間も終わるからそろそろ戻ろう。

こうして私の一日目は終わった。

二日目

私たちのクラスは一日目と変わらず全く客足が途絶えず常に満席状態だった。

猫の手も借りたいくらいの忙しさだ

皆の士気もだんだんと上がっていき、全体の雰囲気も明るい。

(私も頑張らなきゃ)

「いらっしゃいま…」

その姿をみて思わずハッとする。

私の目に飛びこんできたのはまぎれもなく生徒会の三人だった。

慎之介先輩に至っては黒髪ポニーテールのウイッグまで着けている

(昨日よりバージョンアップしてる…)

「あぁっ!あれは!」

皐月の目はハートになっていた。

「もしかして恋する新撰組の土方歳三様!?」

「えっ…なにそれ」

「知らないの!?最近リリースされた携帯アプリゲーム恋する新撰組よ!」

「へぇアプリゲーム…。」

(なるほど。やっぱりことは先輩の趣味か)

慎之介先輩の姿をうっとりした目で見つめている。

「早乙女。約束通り馳せ参じた。」

「ひゅー!しんちゃんかっこいい!」

(あぁ口調まで…)

ことは先輩の影響力はかなり大きいようだ。

「いっいらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。」

(平常心…平常心)

「早乙女さん。三人だけどいいかな?」

「しんちゃんがどうしてもって来ちゃったのー!」

店内がざわつき始める。

それもそうだ。ここに生徒会三人がいるだけではなく、私のために生徒会長の慎之介先輩が来てくれたのだから。

周りではひそひそ声が聞こえる。

(あぁ…もう気にしないようにしよう。)

「ご案内いたします…。」

できるだけ隅の席に案内したのだが、隣のテーブルの女子生徒たちはそそくさと席を立っていった。

(はぁ…やっぱり生徒会恐るべし)

テーブルにメニューを置き注文をとると素早く裏へ入っていった。

思わずため息を一つ漏らす

(はぁ…せっかく皆の士気が上がってたのに)

店内では張りつめた空気が流れている。

もし生徒会の人達に気に入ってもらえなかったら…。

やめよう。考えただけで恐ろしい。

「お待たせしました。」

注文通りの品を先輩達の前に並べる。

先輩達はどうやらお気に召したらしく完食してくれた。

(あぁ良かった…。)

ほっと胸を撫で下ろす。

どうにかやり過ごせたようだ。

「早乙女さーん!意外と美味しかったー!」(いっ意外とって…)

「ありがとうございます。」

「美味であった。さしてあのみたらし団子は…」

「あぁ。あれは学校近くの和菓子やさんに頼んで作ってもらったんですよ。」

「そうであったか…しかしやはりお前は着物が似合うな。そうしているとまるで…」

私の顔をどこか懐かしむような目で見ている。

だれかに似ているのだろうか。

「慎之介。行くよ。早乙女さんごちそうさま。近いうちにまた…ね?」

「あぁ。かたじけない。ではな。」

(先輩なに言おうとしたんだろう…

というか所々口調がおかしいと感じる私の気のせい?)

「早乙女さーん。こっちのテーブルの片付けお願ーい。」

「ごめん。今行くね!」

先輩達が帰った後、考える暇もなくまた忙しくなった。


そして休憩時間。私は講堂へとむかった。

見たところかなりの人が集まっているようだ。

適当に空いているところに座ると、隣いいですか?と声をかけられた。

「どうぞって…あれ?日下部?もしかして観にきたの?」

「まぁ…一応指導者としてな。」

(やっぱり優しいんだな。)

「まもなく一年四組の白雪姫がはじまります

携帯電話の電源はマナーモードに設定の上」

開演を知らせるアナウンスが鳴る

もうすぐはじまるようだ。

ブーというブサーと共に幕が開いた。

話はどんどん進んでいき、やがて舞台の暗転と共にハイホーの曲にあわせて小人たちが出てきた

小人たちは髭を生やし色とりどりの帽子を被っている

(…かわいい)

「まぁなんと美しい娘でしょう」

(え?今の声って)

確認の為日下部に小声で尋ねる。

「ねぇもしかしてあのやたらと棒読みなのって。」

「…あれでもましになったほうなんだ。」

軽く舌打ちをし、あとで呼び出しだなとイラつきながら言っていた。

その後も太郎の棒読み具合がひっかかりながらもどうにか舞台は終了した。

「…無事に終わってよかったね。」

「…俺今すぐあいつんとこ行ってくるわ」

鬼の形相で走り去っていった。

きっと言いたいことが沢山あるのだろう。

(…頑張れ太郎。)

心のなかでエールを送りつつ講堂を後にした。


「つっ疲れた…」

ずっと立ちっぱなしだったせいかふくらはぎが悲鳴をあげている。

「いやぁー!皆よく頑張ったな!先生たちも褒めてたぞ!そしてこれは先生から差し入れだー!!」

先生はそういうと両手に持ったビニール袋の中から大量のアイスクリームを取り出した。

生徒達からは拍手と歓声があがった。

(色々会ったけど終わりよければすべてよしだなぁ…)

「皆さーん!文化祭お疲れ様でしたー!」

私たちがアイスを食べていると校内アナウンスが聞こえた。

(これはことは先輩の声だ。)

「それでは今から模擬店の売上一位のクラスを発表しますー!」

「一位は…2年3組!執事カフェでーす」

皆から落胆の声が聞こえる

執事カフェといえば先輩のクラスだ。

(すごい人気だとは思っていたけどまさか一位なんて)

「一位のクラスには…じゃーん!なんと学食無料券が与えられまーす!おめでとー!」

(がっ…学食無料券…!なんてうらやましい)

その瞬間私の携帯のスマホが鳴った。

どうやらメールのようだ。

「お疲れ様。木戸です。いきなりで驚いた?一位じゃなくて残念だったね?でも実に惜しかった。君達のクラスは二位だったんだよ。

ということで頑張った君に僕からささやかなプレゼントをあげよう。

放課後生徒会室に来てね。」

(えっなんで木戸先輩が…というか私のメールアドレスまで…)

「追伸。僕はこの学園のことなら何でも知ってるんだ。

だから君の個人情報くらいなんてことないのさ。」

(…やっぱりこの人が一番怖い。)

アイスのせいなのか木戸先輩のせいなのかはわからないが一気に体が冷えしまった。


そして放課後、生徒会室を尋ねた

「やぁ。来てくれたんだね。」

お手本のような笑顔でにっこりと笑う。

底知れない何かを感じる。

「えっとところでささやかなプレゼントってなんでしょうか…」

先輩ははいっといい私に白封筒を渡す。

封筒にはとくに何も書いていない。

中を開けると、ホテルのチケットが入っていた。

木戸グループクリスマスパーティー…?

「これって…」

先輩は微笑んだまま一切表情を変えない。

なにかとてつもない嫌な予感がする。

「君には僕の偽の婚約者としてそのパーティに出席してほしいんだ。」

「…はい!?」

先輩から無言の圧力が感じられる。

きっと拒否権はないのだろう。

「どうして私なんですか?」

「んー確かに君じゃなくてもいいんだけど。興味があるんだ。君に…ね?」

顔をぐいっと近づけられる。

目鼻立ちがはっきりし整った顔立ちだ。

思わずコクリと頷いてしまう。

どこがプレゼントなのだろう。

「良かった。君ならきっと引き受けてくれると思ったよ。」

よろしくねといい手を差し出した。

恐る恐る握りかえす。

(やっと平和な日々が送れると思ったのに

一難去ってまた一難だ…)

運命のクリスマスまであと2ヶ月。


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