第7話色気より食い気より乙女ゲームがほしい

相変わらず日下部からの連絡がないまま夏休みに突入し気づけば残り二週間をきろうとしていた

特に夏らしいこともしないまま私は学校の夏期講習に向かう準備をはじめた

テストの点数が思いの外よくなかったため母に半ば脅され受けることになったのだ

(はぁ…せっかくの夏休みなのになんでこんな…まぁ最終日だし頑張ろう)

私はなけなしの気合いをいれ学校へと向かった


(あーようやく終わった…)

チャイムがなり先生の挨拶が終わると軽く背伸びをした

(家に帰ってゲームしよ…)

そう思い校門に向かってあるいていると前から剣道着姿の慎之介先輩が歩いてきた

「あっ慎之介先輩。遊園地の時はありがとうございました」

「あぁ。いや、あの時は妹が迷惑かけてすまなかったな」

「いえ…迷惑なんて。楽しかったです。先輩は今から部活ですか?」

「あぁ…今年で最後だからな…できるだけ悔いのないようにしたいんだ」

「最後…そうか来年受験ですもんね」

「…早乙女。もし時間あるなら今から見に来ないか?」

「えっでも…お邪魔じゃないですか?」

「気にするな。ぜひ見に来てくれ」

「じゃあちょっとだけ。ありがとうございます。」

私は先輩のあとをついていき体育館へとむかった



体育館

「はっ…!」「めーん!」「どーう!」

体育館では部員たちが素振りや稽古を行っていた

部員達はあざやかに面や小手を決めている

(すごい…動きの一つ一つが美しい)

「ん?あれ…早乙女か?どうしてここにいるんだ?」

そう声をかけられたのは一年の綾瀬健だった

綾瀬は太郎の友達でなんどか話したことがあった

「あれ?綾瀬って剣道部なんだ」

「あぁ。最近入部して…もしかしてお前も入部希望か!?いやぁ部員少ないから助かるわ。ささここにサインを…」

「おい。綾瀬。」

綾瀬はびくっと方を震わせた

「お前そんなとこで油売ってないでさっさと練習しろ。」

「だって部長入部希望者が…」

「…早乙女は入部希望者ではない。俺が呼んだんだ」

先輩がそういうとよほど驚いたのか口を大きくあけパクパクとうごかしていた

「…えっ?あの部長が!?もしかして先輩のかの…」

「違う。綾瀬お前は素振り五十回追加だ。」

「なっ…!!先輩の鬼!!!悪魔!!」

「なんとでも言え。俺は安藤と対戦してくる」

そういうと先輩は颯爽と歩いていった

「相変わらず部長は冗談通じないなぁ…」

「先輩と仲いいんだね」

「まぁああ見えて部長は偉ぶらないし面倒見もいいからなぁ。すごい努力家だし。俺も先輩に憧れて入部したんだ」

(そうなんだ…先輩って慕われてるんだな…)

「…あっそうだ。早乙女明日ひまか?よければ剣道部の皆と坂川神社の夏祭り行くんだが一緒に行かないか?」

「へぇ夏祭りかぁ…」

頭にふっと日下部とのことがよぎった

(…またあんな風になるのは嫌だな)

「うーんせっかくだけど私は遠慮しとく…」

「そうか残念だな…まぁ来たくなったらいつでも来いよ…きっ桐生とかも誘ってさ…」

「…うん。ありがとう。皐月には声かけておくね」

「おい…綾瀬!」

「やべ…じゃあな!」

先輩の声が聞こえると綾瀬は素早く駆けていった

(私もそろそろ行こうかな)

立ち上がった瞬間対戦を終えた先輩がこちらに歩いてきた

「はぁ…悪かったな。あいつには後で強く言っておくから許してくれ。」

「いえ!ただ夏祭りの話をしていただけなので…」

先輩は顔をしかめた

「夏祭り…?あぁお前も行くのか?」

「いえ…私は…」

「…なにか予定があるのか?」

「いっいえ…そういうわけではないんですけど」

「なら、一緒に行かないか?俺もこうして遊べるのも最後だからな。皆と楽しい思い出を作りたいんだ」

(どっどうしよう…そんなこと言われたら断れない…)

「は…はい…行きます…」

私は先輩の言葉負けうなずいてしまった

「…そうか!明日六時に坂川駅の前で待ち合わせてるのだがそれで大丈夫か?」

はいといい私はもう一度頷いた

「…では明日六時にな。楽しみにしている。あっ悪い。時間大丈夫か?思いの外引っ張ってしまって悪かったな」

「…いえ、大丈夫です。皆すごく素敵でした」

「そうか…剣道部は人数は少ないが皆一生懸命やってくれている…俺の自慢の後輩たちばかりなんだ。お前にも見てもらえてよかった」

先輩はとても誇らしそうに部員たちをながめた

「…今日はありがとうございました。明日楽しみにしてます」

私は軽くお辞儀をすると体育館をあとにした


私は家に帰った後皐月にLimeを送りしばらくすると快い返信が返ってきた

せっかくなら浴衣を来ていこうとの提案にOKとかいたスタンプを送った

(浴衣か…たしか昔お母さんか着てたのがあったはず)

私は母に夏祭りの話をし浴衣を着せてもらう約束をした


当日駅に着くともうすでに皆集まっていた

慣れない下駄のせいかいつも以上に上手く走れなかった

「遅くなってすみません!」

「あっ玲香!こっちこっち!」

皐月は髪をアップにしいつもよりも大人っぽい印象だった

そこにはなぜか太郎もいた

「あれ?どうしてここに太郎が?」

「俺が誘ったんだ!」

そういうと綾瀬は私にピースサインをした

「…いやいたら悪いのかよ。それより玲香浴衣悪くないんじゃ…」

「早乙女似合うな。今日は楽しもう」

太郎の声をさえぎり先輩は私に声をかけた

「こりゃ部長のほうが一枚上手だな…」

「ふふっそうね。」

私たちはそんな会話をしながら神社にむかって歩いた

神社には人があふれ沢山の屋台が出ていた

「うわぁ…りんご飴にやきそばにたこ焼き…まずは何から食べようかな」

私はいろいろな屋台に目移りしなやんでいた

「お前は色気より食い気かよ…」

太郎はあきれた様子でため息をついた

「りんご飴にたこ焼き…どれも食べたことないものばかりだ…」

先輩は目をきらきらと輝かせいた

「さすが部長…」

綾瀬はあっと声をだしなにか思い付いたような口ぶりで言った

「部長!俺たち色々買ってくるんで部長と早乙女はここで待っててください!」

綾瀬は皆にウインクをしなにかを訴えかけているようだった

「…は?お前急に何いって」

「(…おい!太郎!空気よめ!いいからいくぞ!)」

「じゃあ玲香また後でね?」

「あっおい!引っ張るなって…」

そういうと綾瀬は太郎の腕を引っ張り皆をつれて行ってしまった

先輩と私は二人きりになった

「…綾瀬は急にどうしたんだ?」

「さぁ…」

「まぁ…ただ待っているだけもつまらないしあれでもやらないか?」

そういって先輩が指差したのは金魚すくいだった

「金魚すくいですか?」

「あぁ…やってみたいのだか…いいだろうか」

私は快くうなずき金魚すくいへとむかった

「これですくうのか…難しそうだな」

「破けないように少しずつすくうのがコツですよほら、こんな風に」

そういうと私は金魚をはしに寄せ一匹すくってみせた

「おぉ…上手いな…よしやってみる」

そういうと先輩は金魚をすくおうとしたがすぐにポイが破けてしまった

「あぁ…やっぱり難しいな。よしもう一回やろう」

そういって先輩は何回もチャレンジしていたが今のところ成果はあげられていない

「先輩…私の金魚あげましょうか?」

「いや、これは己との勝負なんだ…!絶対にすくってみせる!」

そういうと先輩は再びポイをしずめ一匹の金魚をすくいあげた

「あっ!やりましたね!!!」

「あぁ!!やったぞ!金魚すくいとはこんなにうれしいものなんだな…!」

店員さんも安堵の表情を浮かべ拍手をしていた

そして先輩は嬉しそうに金魚のはいった袋を眺めていた

「良かったですね?」

「あぁ…早乙女ありがとう。お前がコツを教えてくれたおかげだ。」

「いえ、私はそんな…あっあれって…」

私は射的の景品に目が釘づけになった

(あれって幻の乙女ゲームじゃ…なんでここに!?)

そこにあったのは発売されたものの制作会社の不祥事により発売中止になってしまった乙女ゲームだった。

ファンの間では幻の泣きゲーとして今でも人気が高く再販の声も多い

「早乙女?どうかしたのか?」

「…先輩はここで待っててください。私は今から負けられない戦いがあるので…」

そういうと私はお金をはらい銃をかまえ狙いを定めた

何回かコルクは当たるがなかなか倒れない

(よしもう一回…)

狙いを定めていたそのとき、勢いよくコルクが当たり狙っていた景品がぽろっと落ちた

「え?嘘…あんな簡単に」

「早乙女あれが欲しかったんだろ?ほら」

そういって先輩は私にゲームを渡してくれた

「…あっありがとうございます!うれしいです!これ絶対欲しくて!!!」

私は天にも昇る気持ちだった。

(家に帰ったら早速やらなくては)

私は嬉しさのあまり小躍りしていた

「そうか。…そんなに喜ぶなんてよっぽどほしかったんだな」

「ええもう!これはマニアの間では幻のゲームといって…」

私はこのゲームのことを先輩に語った

「…ははっお前やっぱり面白いな。」

先輩は声をあげ笑っていた

(そういえばこんな風に先輩の笑ってる顔はじめてみたかも)

「ところでお前、あの時日下部となにかあったのか?」

急に核心をつかれて思わず口ごもってしまった

「えっ…えっと…」

「まぁ言いたくないなら深くは聞かないが…その様子だとまだそのままなんだろ?」

先輩はそういうと私のほうをじっとみた

「…はい。してないです…このままではいけないと思ってるんですけど」

「…そうか。」

そういうと先輩はスマホをとりだし誰かに電話した

「…ほら、とりあえず話せ」

そういって先輩は私にスマホを渡してくれた

スマホを受け取り耳にあてると聞き覚えのある声が聞こえた

「よぉ…久しぶり」

「えっ!?日下部!?」

私は思わずスマホを落としそうになった

「…なかなか連絡できず悪かった。俺もなかなかきっかけがつかめなくてな。あの時はあんなこといって悪かった」

「私こそあんなこといってごめん…私日下部のことなんにも考えてなかった」

「…いや俺こそお前のこと考えてなかった。やっぱお前がいないと全然楽しくないな…まぁまた今まで通りってことでな」

「うん…ありがとう。またよろしくね」

(本当によかった…)

私はほっと胸を撫で下ろした

「あぁ…じゃあ仕事戻るわ。夏祭り楽しめよ」

そういうとぶつっと電話がきれた

「終わったか?」

「はい。先輩ありがとうございます…」

私はスマホを渡し頭を下げた

「良かったな。やはりお前は暗い顔より笑っているほうがいい。」

そういうと先輩は軽く微笑み私の頭に手をのせた

「 ことはも日下部も誤解されやすいところはあるが今まで通り仲良くしてやってくれ」

「…はい。」

(もしかして今日誘ってくれたのって…私が落ち込んでたから?)

「あっいたいた!もう探したんだから」

後ろを振り返ると皆がたこ焼きややきそばを持って走ってきた

「部長探しましたよ…」

「あぁ…悪い。それにしてもお前達買いすぎじゃないのか?」

「皆で食べれば大丈夫ですよ!ほら部長食べましょう!」

私たちは近くの椅子とテーブルに腰掛けやきそばやたこ焼きなどを食べた

「はぁ…食べた食べた」

「やっぱりお祭りで食べるのって格別よね?」

「たこ焼き…やきそば…こんなにものが世の中にあったんだな…」

先輩はしきりに頷き感動していた

「先輩そろそろ帰りませんか?もう時間も遅いし」

「あぁ…そうだな。よしここで解散とするか」

鶴の一声ならぬ先輩の一声で私たちは各自帰ることにした

「玲香…先輩とはゆっくり話せた?」

「うん話したけど…?」

「そう。ふふっそれならよかったわ…もう遅いし鈴木くんと一緒に帰ったら?」

「うん。そうだね。皐月は?」

「私は車で迎えに来てもらうから大丈夫よ」

「そっか。じゃあまたね。」

「ええ。またね?」

私は皐月と別れると太郎のもとへと駆け寄り一緒に帰ることにした

「部長ー!どうでした?早乙女とは上手くいきました?」

「…綾瀬上手くいくとはなんだ」

「…まさか気づいてないんですか?」

「気づく…???」

「まぁ部長らしいっちゃらしいか。」

「なんだ。言いたいことがあるならはっきりいえ」

「好きなんじゃないんですか?早乙女のこと」

「好き…か。まぁあいつをみてるとちょっとな。」

「ちょっと…なんですか?」

「お前には関係ないことだ…さっさと帰るぞ」

「えっ?待っててください!気になるんすけど!」


帰り道私は鼻歌混じりに歩いていた

「珍しいな…お前が鼻歌なんて」

「まぁ…ちょっとね」

「先輩となんかあったのか?」

「うん。これとってもらったの!」

そういうと私は太郎に幻のゲームを見せた

「なんだそれ?ゲームか?」

「ただのゲームじゃないんだよ…これは幻のゲームでね…」

私はそういうと太郎にこのゲームの価値について語った

「はぁ…お前は色気より食い気よりゲームなんだな…まぁお前らしくて安心したけど」

「ねぇ太郎聞いてるの?」

「あーはいはい。聞いてる聞いてる」

心地よい夜風がふきもうすぐ夏も終わるなと少し感慨深げに思うのだった

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