第6話この出来事をデートとは呼びたくない

この状況を世間ではなんというのか

きっと傍目にみていたらダフルデートと呼ぶのであろうか

しかし私はこの日の出来事をデートと言う綺麗な言葉で片付けたくなかった

この日のことを語るには二週間前まで遡ることになる


~二週間前~

私は保健室を出た後皐月の車で近くの病院まで送ってもらった

幸いにもあまりひどい怪我ではないようだった

薬や湿布をもらいタクシーで家に戻ってくると私は服を脱ぎ少し落ち着いた

「はぁ…やっと家だ」

スマホの画面を見ると日下部からLimeがきていた

〈お疲れ。どうだった?〉

〈うん。日下部のおかげで上手くできたよ!ありがとう(^^)〉

〈…無事に終わってよかったな。それよりお前にお願いがあるんだ〉

(日下部がお願いなんて珍しいな)

〈なにお願いって〉

〈…再来週の日曜日13時、辻が浦駅に来てほしいんだ〉

(辻が浦…ちょっと遠いな)

〈うん。分かった…特に予定もないし大丈夫だよ。〉

〈あぁ…悪い。ちょっとややこしいことがあってな。事情はちゃんと説明するから。〉

〈わかった。ちょうどお礼もしたかったし良かった。じゃあ当日ね。〉

〈おう。またな。今日はゆっくり休めよ。おやすみ〉

(ややこしいことってなんだろう…まぁいいやとりあえず今日は疲れたし考えるのやめよう)

私はスマホの電源を切るとすぐにお風呂へとむかった


~日曜日~

辻が浦駅へ着くと沢山の人であふれていた

「うーん…電話してみようかな」

この中から日下部を見つけ出すのは至難の技だ

私はスマホを取り出し電話しようとするとこちらにむかって歩いてくる人がいた

「あっ日下部!」

「おう。今日は悪いな…」

「ううん。大丈夫。それより今日ここに来た事情って…」

「あっあぁそれは…」

日下部が何かいいかけると私達のほうへと歩いてくる二人組が見えた

(あれ…あのふたりってどこかで)

「あっいたいたー!日下部くんー!」

「おい…ことは。そう走るな。」

(えっ?もしかしてあの二人って…!)

「あっ早乙女さん!今日はよろしくねー」

「…よろしく頼む」

それは私がもう二度と会いたくないと思っていた慎之介先輩とことは先輩の二人だった

私は日下部のほうをぎろりとみると

日下部は申し訳なさそうな顔をした

「遅くなってごめんねー?意外と道混んでて…」

「…誠に申し訳ない。」

「いえ、大丈夫です。俺らも今来たところなんで」

「そうなんだー!良かったー今日は楽しもうね?」

ことは先輩はいつもの笑顔を私達にむけた

「…表で車を待たせてある。遊園地まですぐに到着できるだろう」

(え?遊園地??)

「そうそう!さ!はやくいこー?」

そういってことは先輩は日下部の腕を組みすたすたと歩いていった

「あっ!おい…」

(ちょっとまって理解が追い付かない…遊園地ってなに?)

私は思わず頭を抱えた

「…うちの妹が迷惑かけたな。」

先輩は私に優しく声をかけた

「…いえ迷惑なんてただちょっと混乱していて…」

「…日下部からなにも聞いていないのか?」

「…なにも聞いてないですけど」

「ことはは前から彼のファンらしくてな…一度でいいからデートがしたいと言って聞かなかったんだ。だか、日下部は二人きりではなくて何人かでならいいと言ったらしくてな。まぁそれで俺とお前がここにいるというわけだ。」

(え?そうだったんだ…そういえば日下部ってことは先輩が好きなレジェアイの舞台にも出てたもんね)

「あれ?そういえば日下部が渡邉翔太だってことご存知なんですね…」

「…そんなこと生徒会の権力をもってすれば造作もないことだ」

(生徒会…やっぱりおそろしい!!)

「さて、そろそろいくか…まぁ今日はなにかの縁だ。息抜きと思ってお互い楽しもう」

「あっはい…」

(正直とても息抜きとは思えないだろうけど…)

私はおとなしく先輩の後をついていった


車にのり十分ぐらいすると目的地の遊園地が見えてきた

車を降り園内へ入るとキャストの人以外誰一人見当たらなかった

「あれ?誰もいないんですか?」

「うん!ここは木戸グループが運営してるからね!こうちゃんに頼んで貸しきりにしてもらっちゃったのー!」

(かっ貸しきり!?そんなことできるの!?)

「日下部くんは有名人だから騒がれたら楽しめないし、並ぶのも嫌だしねー」

「…ご配慮いただきありがとうございます」

日下部の顔は無表情だった

「あっまずはあれのろー!」

そういうとまた日下部の腕を組みコーヒーカップへとむかっていった

「おい!ちょっとまっ…」

私と慎之介先輩は急いで二人のあとをついていった

それから私たちはジェットコースターやコーヒーカップなどたくさんの乗り物にのり遊園地を満喫していた。

「次はーあれ!」

ことは先輩が指差した先にはお化け屋敷とかいてあった

(お化け屋敷か…)

「じゃあお先にー!」

そういうと二人はお化け屋敷のなかに入っていった

「…入りますか?」

「…あっあぁ」

先輩の足はかすかに震えていた

「無理しなくてもいいんですよ?」

「いや大丈夫だ…これしきのことで…」

先輩は一人でぶつぶつ何かを唱えていた

「よし…いくぞ」

そういって私と先輩はお化け屋敷に入っていった

お化け屋敷は病院のようになっていてやたらと暗く寒かった

(なかなか良くできてるな…)

私は何度かホラーゲームをやったことがあるためかあまりこわさは感じなかった

「だっ大丈夫か早乙女…」

先輩は男らしく私の前を歩いていたが完全に足がすくんでいた

その時助けてくれ…というお化けの声に先輩はうわぁぁ!と悲鳴をあげた

「先輩…私前歩きましょうか?」

「いや、男たるもの女性に前を歩かせるわけには…」

そういうと次の瞬間耳元で風がふうっとふき先輩は再び悲鳴をあげ尻餅をついた

「先輩ただの風ですよ…」

「わっ悪い…」

私は先輩に手を差し出し手を引っ張ると勢いがつきすぎてしまい私たちは倒れこんでしまった

「いたたた…」

「わっ悪い!大丈夫か」

私の上に先輩が乗っかる形になってしまった。先輩は顔を真っ赤にさせすぐに体をおこした

「…すまない!嫁入り前の大切な体に…」

「いえ…そんなただの事故なので気にしないでください…」

(どうしよう…恥ずかしくて先輩の顔見れない!)

その後私達は一切喋ることもなくお化け屋敷のゴールへとむかった

外へ出ると二人が待っていた

「遅かったねー?もしかして何かあったー?」

私達はお互い顔を真っ赤にさせ首を横にふった

「なっなにかあるわけないだろう…なぁ早乙女?」

「はっはい…なにもないです…」

「ふぅーん…まぁ二人とも楽しそうでよかったけど。それより日下部くん!さっきの話の続きだけど…」

ことは先輩はにこにこしながら日下部に話しかけていたが、日下部は黙ったまま私のほうをみた

「あっ!喉乾きましたよね?私飲み物買ってきます!」

私はその場の空気に耐えきれず売店のほうへと走っていった

(はぁ…なんでこんなことになったんだろ…)

「お会計720円になります」

「あっはい…」

そういって財布を取り出そうとすると誰かが横から千円札を出した

「はい。お釣りはいらないからねー?」

はっと横を見るとそこにはことは先輩がいた

「一人じゃ持てないでしょ?それに早乙女さんと話したいこともあったからねー」

「私と話したいことですか…?」

そういうと先輩と私は四人分のジュースをテーブルにおき売店近くの椅子に腰かけた

「あれ…二人は」

「二人はお手洗いだって。あっ大丈夫!ここにいることは伝えてあるからー」

ことは先輩はジュースにストローを指し一口飲んだ

「ねぇ早乙女さんって、日下部くんのこと好きなのー?」

思いがけない質問に私は目を見開いた

「えっ…ええっと日下部には普段色々助けてもらったりしていますけど…」

「質問の意味分かってる?好きか嫌いかで聞いてるんだけど」

「嫌いじゃないです…けど…」

「…その答え聞いて安心した。私ほしいものは絶対に手にいれる主義なの…意味分かるわよね…?」

「……」

「私あなたみたいな人って大嫌い。たいした努力もしないのに困ったときはいつも誰かが助けてくれる…なのにあなたは色んなことから逃げてばかり。」

「そんなこと…」

「本当にないって言えるの?」

先輩はみたことがないような冷たい目で私をみた

「だから…私の邪魔だけはしないでねー?」

先輩はいつもの笑顔でふふふと笑った

私は先輩の顔見た瞬間全身が石になってしまったかのように動けなかった

もう帰りますと言いたかったのに思うように声がでない

「悪いちょっと迷って…待ったか?」

タイミングよく日下部と慎之介先輩が帰ってきた

「ううん!ぜーんぜん待ってないよー」

ことは先輩はさっきの話などなかったかのように日下部のもとへ走っていった

私はただ黙ってジュースを飲んでいた

四人でジュースを飲んでいると閉園時間を告げるアナウンスが聞こえてきた

「えーもう閉館なんだ…つまんないー!」

「おい…ことは子供みたいなこと言うな」

「だって…あっ!そうだじゃあ最後にあれのろー!」

ことは先輩が指差したのは大きな観覧車だった

「ここの観覧車は日本一大きくて有名なんだよー」

「観覧車か…たしかに幼い頃以来だな」

「そうでしょ!そうでしょ!私も久しぶりに乗ってみたかったのー!」

私たちは先輩の言葉に同意し観覧車へとむかった

前には私と慎之介先輩、そして後ろにはことは先輩と日下部が並んだ

「楽しみだな…」

慎之介先輩は目を輝かせていた

「そうですね。私も幼い頃両親とのったことあるくらいで…」

「そうか…俺も昔家族で来て…」

先輩と他愛もない話をしていると私達の前にゴンドラがやってきた。私たちが乗ろうとした瞬間後ろから日下部が私の手を引っ張りゴンドラに入った

「えっ?」

「なっ…日下部お前…!!」

そのまま扉ががしゃんとしまりそのまま観覧車は空の旅へと出発した

下をみると二人が唖然とした様子で私たちをみている

「ちょっ…ちょっと!なんで急に」

「うるさい…こっちは我慢の限界だったんだよ」

日下部はそういうと私の正面に座り私の顔をじっとみてため息をついた

「…あいつらの父親が俺の事務所の顧問弁護士でさ。どうしても断れなかったんだ。さすがに二人は嫌だからな。色々理由つけて何人かならと了承したんだ」

「…そうだったんだ」

「お前には悪いと思ったんだが…まぁお前となら遊園地も悪くねぇかなって」

そういうとすでに先輩たちの姿が見えなくなっていた

「…それでさっき慎之介先輩から聞いたんだけどお前足怪我したんだって?」

「…うん。体育祭の日にひねっちゃって」

「お前馬鹿だよな…なんで当日にそんなことになるんだよ」

「…すみませんね。運動音痴で」

そういうと日下部はふっと優しい笑みをうかべた

「でも頑張ったな…足怪我してんのに踊りきるんだもんな。えらいよ」

思いがけない優しい言葉をかけられ私は泣きそうになるのを必死で押さえた

観覧車の窓からは夕日の光が差している

「…お前泣いてんのか?」

「違う!泣いてないよ!」

「…まさに鬼の目にも涙だな」

「誰が鬼なのよ…それよりせっかくなんだから窓の外の景色でもみたら?」

私と日下部は窓の外をみた

もうすぐ観覧車は頂上へたどり着こうとしていた

「…また来ような」

「…え?うっうん…そうだね。今度は皐月と太郎も誘って…」

「まぁそれもいいが…」

日下部は真面目な表情でこちらをみていた

(えっこの空気感はなに…)

私はその瞬間急にことは先輩の言葉を思い出した

―なのにあなたはいろんなことから逃げてばかり。

「あのさ…」

日下部が何かをいいかけたとき私は思わず心にもないことを言ってしまった

「日下部ってことは先輩のことどう思ってるの…!?」

「は?お前何いって」

「頭もいいし!なによりかわいいし…私お似合いだと思ってたの」

(ちがう…どうしてこんな)

頭のなかではやめようとしても止まらなかった

「おい、待て」

「いっそのことつっ付き合っちゃえばいいんじゃない?先輩だって日下部のこと…」

「それ以上言うんじゃねぇ!…その言葉お前の口からは絶対聞きたくなかったわ」

日下部は怒っているのか悲しんでいるのかわからない顔をしていた

「くっ日下部ごめ…」

「…お前慎之介先輩といいかんじだったよな?お前らのほうこそ付き合っちゃえば?」

「えっ…」

その瞬間扉ががしゃりと開き先輩たちの顔が再び見えた

係員の人の声も聞かず日下部は素早く無言で観覧車を降りた

ことは先輩はこちらをにらんた後日下部のほうへと駆け足で歩いていった

(私…どうしてあんなこといっちゃったんだろう)

「…なにかあったのか」

慎之介先輩が優しく声をかけてくれた

「いえ…なにもないんです…なにも」

「…そうか。」

先輩は一言そういうと何も聞かずただ私の横を同じ速度で歩いてくれた

その先輩の優しさが今の私にはとても有り難かった

その後日下部は先輩たちの車で自宅の最寄り駅まで送ってもらうことになった

私も声をかけてもらったが丁重にお断りし最寄りの駅まで歩いていった

自宅につくとスマホを開きLimeを確認した

日下部あてのメッセージは全て既読にはなっていたが返信はない

(なにやってんだろ…私)

逃げてばかり…か

先輩の言葉が頭のなかを駆け巡った

そうかもしれない。あの瞬間私は恐かった…あの時の日下部の表情が。言葉が。空気が。まるで今までの彼は違う人のようだった。たとえ傷つけても今のままの日下部でいてほしかった。変わらないでいてほしかった。

(最悪だ…それって結局…)

「自分のことしか考えてないだけだ…」





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