第3話彼と私といちごみるくパン
五月にはいり超大型連休ゴールデンウイークに突入すると世間は皆浮かれていた。学校ももちろん休みである。結局私と皐月は部活動には入らず帰宅部の道を選んだ。
「あー幸せ…ゴールデン最高!」
私はいつものごとくベットに寝転がりだらだらした休日を過ごしていた
~♪
携帯の着信音が鳴った
皐月からのようだ
「もしもし?休日なのにごめんね?いま話しても大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。今ゲームしてたところ」
私はゲーム画面の一時停止ボタンを押した
「…いきなりで申し訳ないんだけどこの後時間ある?実は今日レイヤーの友達と一緒に舞台観にいく予定だったんだけどその子が風邪引いちゃって…よければ一緒に行かない?」
「うん。いきたい!ところでなんの舞台?」
「レジェンドオブアイドル…って知ってる?」
レジェンドオブアイドルといえば少し前にやっていた深夜アニメのはずだ
たしかアプリ化もされていて訳ありの主人公がアイドルを目指す話だったような…
「うん。まぁ詳しくはしらないけどざっくりとは…」
「そう?よかった。今日の夕方3時から守岡文化ホールなんだけど…」
「3時ね!大丈夫だよ」
守岡までは電車で一時間ぐらいあれば行けるはずだ
「よかった!ありがとう!じゃあ現地でね」
時計をみると一時だった
(二時には家を出よう)
私はお出掛け用の花柄ワンピースに着替え軽くメークを整えると携帯でレジェンドオブアイドルと検索した
レジェンドオブアイドル(通称レジェアイ)日野森学園に通う高校生達がアイドルを目指すストーリーでゲーム化されたのち人気に火がつきアプリ化、そしてアニメ化した
五月にはさらに舞台も上演される
(へぇ…そんなに人気なんだ)
舞台のホームページをみてみるとキャラクターに扮した俳優達が笑顔でポーズをきめていた
(まっまぶしい…)
ネットニュースには大きく〈レジェアイついに舞台化!主演はあの元人気子役!〉とかかれている
(このセンターの人って元子役なんだ…えーと…渡邉翔太…そういえば何度か聞いたことあるかも)
私はスマホの画面を閉じ仕事でいない両親にLimeを送った
「これでよし…そろそろいこうかな。」
鞄にスマホとお財布、ハンカチをもって家を出た
会場につくと膝丈の白いレースワンピースに水色のパンプスという絵にかいたようなお嬢様スタイルの皐月が立っていた
周りの人は思わず二度見していた
「あっ!玲香!こっちこっち」
皐月がこちらにむかって笑顔で手を振っていた
一気に周りの人の視線がこちらに集まった
(うう…視線が…)
「おっお待たせ…相変わらず目立つね…」
「そう?あまり感じないけど」
(普段カメラで撮られてるから慣れてるのかな…)
「ん?その袋は?」
「あぁこれね!舞台のグッズよ!写真とあとパンフレット…」
「へぇ写真なんて売ってるんだ」
「ランダムだから誰が当たるかわからないんだけどね…今後のコスプレの参考のためになると思って」
(さすがプロだ…)
「あっそろそろ開演するから早く会場入りましょ?はいこれチケット」
「あっうん。…ありがとう」
座席は前から六列目とかなりいい席だった
「すごい!こんなに距離近いんだね…」
「そうでしょ?今日は千秋楽だからチケットとるのにちょっと苦労したけど…」
「…この舞台って話題になってるみたいだもんね。評判もいいみたいだし」
「そうね。人気のある作品だからというのもあるんだけど…なにより主演が渡邉翔太だからね。」
「確か元子役なんだよね?」
「えぇ。朝ドラとか結構色々出てたらしいわよ。けど急に活動休止したらしくて…今回がその復帰作なんですって。」
皐月はパンフレットをペラペラめくり渡邉翔太のページを見せてくれた
そこには彼の今作に対する思いが熱くかかれていた
「噂によると彼うちの生徒らしいわよ?しかも同じ学年」
「えっ!?そうなの?」
(でもそんな人が通っているとなるともっと騒がれているはずじゃ…)
「あくまで噂だけどね…あっほらはじまるわよ」
場内アナウンスが流れ開幕を告げるブザーがなり幕が開いた
すると音楽と共に制服を着た赤髪の少年がでてきた
「僕は高岡優馬!今日からこの日野森学園に通ってアイドル界の伝説になるんだ!新しい生活に新しい出会い…!今からワクワクがとまらないなぁ!」
(あれが渡邉翔太か…)
(顔小さい…足ながい…ほんとに同じ人間なのか…?)
さすが元子役というだけあり堂々としていて思わず引き込まれる演技だ
もちろん他のキャストもすごいのだが彼はそこいるだけで華があった
ストーリーはどんどん進んでいきやがて翔太がアイドルを目指したきっかけの話へとなった
「僕は昔子役として芸能活動をしていた。けれど事務所から子役としてのキャラクターを押し付けられ、いつの間にか心のそこから笑えなくなっていた…誰一人だって僕自身をみてくれない。皆がみていたのはいつだって子役である僕なんだ」
(この台詞って)
迫真の演技に客席からは鼻をすする音や涙声が聞こえた
「そんなときだった。テレビでデビューをしたばかりのアイドルたちが映ったんだ。正直ダンスや歌は決上手くはなかったけれど楽しそうに歌う姿に気づけば涙が溢れていた。僕には彼らがとても眩しかった…僕もあんな風に心から楽しいと思いたい…そう思ったんだ」
そういうとまるでなにか憑き物でも落ちたかのように彼は歌を歌い始めた
「僕はうたうことが好き!ダンスが好き!そしてアイドルが大好きなんだ!もう偽らない僕の本当の気持ちを…」
歌をうたう姿は本当に輝いていてそれはまさに彼が憧れていたアイドルの姿だった
そして物語は終盤になり仲間たちと共に笑顔で歌を歌う彼の姿がとても印象的だった
「「僕たちはいつかかならず伝説のアイドルになる!」」
その後大きな拍手と共に幕が閉まった
「素敵だったわね…シナリオも演出も最高だったわ…」
「うん。舞台ってはじめてみたけどすごく良かった…」
私も皐月も興奮がなかなかおさまらなかった
「決めた!私次はレジェアイのコスプレするわ!…家に帰ったらさっそく研究しなきゃ」
皐月は買ったばかりの写真をじっと眺め始めぶつぶつと独り言を言っていた
(あの台詞…やっぱりちょっときになるな)
あの台詞だけはかなり力がこもってたような…
「じゃあ玲香また学校でね?今日はありがとう」
「うん!わたしこそありがとう!またね」
楽しかったゴールデンウィークも終わり教室内はどんよりとした空気が流れていた
(分かってはいたけどやっぱりしんどいよね…)
しかしそんなどんよりした空気を吹き飛ばすかのような勢いで坂口先生が入ってきた
起立!礼!という声のあとに覇気のない挨拶の声が響いた
「おはよう!諸君!ゴールデンウイークは楽しめたかな?ちなみに先生はお馬さんを応援してたぞ!全部負けたがな!」
(負けたんですね…)
「それじゃ一時間めの準備しろよ!休みあけだがシャキッといこうな!」
先生はそういうとはっはっはっ!という声をあげながら台風のように去っていった
「はぁあと一個だ…」
三時限目の授業が終わり私は机に突っ伏した
「やっぱり連休あけはしんどいわね…先生たちも気だるげだったし」
「授業進むスピードはいつもと全く変わらなかったけどね」
「えぇ…まぁそうね。」
皐月は思わず苦笑いをうかべた
「でも今日はいちごみるくパン発売の日!」
「あれ?今日だっけ?でも今日って…」
「ふふふ…皐月私の情報網をなめたらダメだよ」
坂川学院では月に三度(一日、五日、十五日)にいちごみるくパンという限定パンが発売される
パンにドライイチゴが練り込んでありいちごみるくの味のクリームがはさまっているコッペパンなのだかこれが絶妙にマッチしていてとても美味しいらしい(まだ食べたことはない)
四時限目が終わると皆一斉にスタートダッシュを切り学食へ直行するが手に入れられるのは選ばれたほんの一握りだけ…
「今日は絶対に勝つ!」
「うっうん…がんばってね」
私はメラメラと闘志をもやしつつ四時限目の授業に集中した
先生のあいさつと同時に私は立ち上がり全力で学食へとむかった。全力といっても足が遅い私は普通の人のジョギングレベルだ
(はぁ…運動神経の悪さを呪いたい)
だが皆は知らないのだ…五日が販売できなかったかわりに今日発売されるということを…(学食のおばちゃん情報)
(今日はいける!)
学食へつくとパンのもとへと一直線に走った。
わずかだかいちごみるくパンらしき袋が見えた
あとちょっと…と思った次の瞬間忍者のように誰かがぬるりと通り袋をとった
「あぁぁぁ!!!」
「なにか?」
「ちょっ…ちょっと…横からとるなんて卑怯よ!」
その男はワイシャツのボタンをひとつあけ大きな眼鏡をかけマスクをしていた
「俺の方がはやかったので…じゃ」
素早くお金をはらい彼はすたすたと歩いていった
すると後ろから皐月の声が聞こえた
「はぁ…はぁ…どう買えた?」
「ゆるせない…」
「??」
「あとちょっとだったのに忍者みたいな人が横からきて私のパンをとっていったの!」
「忍者?」
「大きな眼鏡をしてマスクつけた…」
「大きな眼鏡にマスク…あぁもしかしてそれって五組の
「日下部青空…体育館裏ね!とりあえず一言言ってくる」
皐月の静止する声も聞かずわたしは体育館裏へと駆けていった
「いた…」
「は?あっさっきの」
体育館裏にいくとマスクを外し、彼はいちごみるくパンを口にいれてパックコーヒーを飲んでいた
「一言文句言わないと腹の虫がおさまらないのよ!って…ん????」
「…なんだ?」
私は日下部に近づくとまじまじと顔をみた
どこかでみたことあるような
「なにか?」
「…もしかして渡邉翔太?」
「…なっおまっなんで」
「目のほくろの位置と…あとは勘?」
「…ほくろと勘ねぇそんなんでばれるなんてな…お前探偵かよ」
渡邉翔太もとい日下部青空はにっこり笑って
眼鏡をとった
(やっぱり同じだ…)
「すごいなお前。先生と親以外誰も知らねぇのに」
「いや、まぁこの間舞台観に行ったので…」
「…どうだった?」
「え?」
「だから感想!お世辞はなしだ」
急に真剣な眼差しをむけられ私はすこしたじろいだ
「え?あっあぁ…とても素敵でした…」
「はっ…薄っぺらい感想だな…もっとなんかないのかよ」
日下部は不機嫌そうな顔をしてコーヒーパックを口に含んだ
(というか舞台の時とキャラが違いすぎるような…)
「あっそうだ。そういえばひとつ聞きたいことがあって…」
「は?なんだ?」
「あのアイドルになるきっかけを話すシーン…あれって脚本じゃないよね?なんというかあれは日下部自身の言葉のような」
しばらく黙ったまま彼は私の顔をじっとみた。
「…さぁな。それは観てくれた人の解釈だ。お前がそう思ったんならそうなんじゃねえの?」
最後のパンを口に放り込むと日下部は立ち上がり大きく伸びをした
「んーふぅ…お前名前は?」
「え?早乙女玲香だけど…」
「早乙女ね…ま、お前は俺の正体を誰かに話すやつでもなさそうだな。」
「え?わかるの?」
「当たり前だろ?これでも一応芸能人なんだぜ?いいやつもいやなやつもごまんとみてきたからな」
そう言っていた表情はすこし悲しそうだった
そうしてポケットから一枚の紙を取り出して渡してくれた
「それ俺の名刺。また舞台あるときには観に来いよ。お前のこと結構気に入った…まぁいちごみるくパンは渡さないけどな」
そういうとニカッと笑って再び眼鏡とマスクをしてすたすたと歩いていった
「…え?なにこの展開」
私は日下部の後ろ姿を呆然と見ながらその場にたちすくしていたが、次第に完全に考える力がなくなりその場にしゃがみこんでしまった
(まるで乙女ゲーム…)
そうしてその後無事に皐月に保護?された
がその時私はいちごみるくパン…と何度も呟いていたらしい
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