第2話爽やか先輩には秘密がある
入学式から二週間がたち、私は学校生活にもようやく少しずつ慣れはじめていた。
「…授業進むの異常にはやいよね…テスト範囲がほんと恐ろしい」
「そうよね…ほんとついていくので精一杯…あっ玲香後で日本史のノートみせてくれる?」
皐月と学食でご飯を食べながらこうやって話をするのも定番になりつつあった
ここの学食はかなり安くて美味しく毎日食べてても飽きない。もちろん栄養士さんもいるので栄養バランスもバッチリだ
特に450円で食べられるステーキ丼は人気ナンバーワンでチャイムがなり終わるのと同時に大勢の生徒が駆け込むらしい
皐月はコスプレをする体型を維持するために毎日お弁当箱にささみやサラダチキンなどといった高たんぱくな食事を取り入れていた
「あっそういえば皐月は部活どうする?」
坂川学院は勉強はもちろん、部活動にも力をいれていて特にバスケ部や野球部は甲子園や国体にいくほどの実力だ
部活動に参加する生徒も全体の八割を占めている
「実はまだ決めてないの。イベントが近づいてくるとほとんど参加できなくなっちゃうから…玲香は?」
「私もまだ決めてないんだ…今度いくつか見に行こうかなとは思ってるんだけどね」
「たしか明日からよね、仮入部期間って…よければ明日いくつか見に行かない?」
「うん。明日は特に予定ないから大丈夫たよ。」
「…あっそういえば鈴木くんって何か部活動入るの?」
「あぁ太郎は陸上部なの中距離の選手で」
「へぇ…鈴木くんって陸上部なんだ少し意外ね」
「そう?大会とかにもよく出てるし中学のときはスカウトも来てたよ?」
皐月は「ふーんそうなんだ…」と呟くと意味ありげに微笑み小声でなにか呟いた
「?どうしたの」
「ううん。なんでもない…幼なじみっていいなって思っただけよ」
「…そう?ただの腐れ縁ってだけだけどね」
「いいじゃない、素敵よそういうのって。皆が皆いるわけじゃないもの」
皐月は器用に箸を使いささみを口にはこんだ
(食べている仕草だけでも絵になるなぁ…)
「それで話は戻るけど…」
「あっあぁ!部活ね!!皐月は気になっている部活とかないの?」
(思わず皐月に見とれてしまった!)
顔が赤くなりそうになるのを必死におさえる
「うーんそうね…バスケ部と卓球部は有名だけど。特にバスケ部は今斎藤先輩のおかげで人気があるしね」
「斎藤先輩???有名人なの?」
「玲香知らないの?二年にしてバスケ部のエースおまけに顔もイケメンで爽やかだからファンクラブまであるって噂よ?ネットでもかなり騒がれてるし」
そういって皐月はスマホの画面を見せてくれた
そこにはシュートを打っている姿や休憩中にスポーツドリンクを飲んでいる姿までたくさんの写真が載っていた
ネットの記事にはバスケ界注目の爽やかエースとかかれている
「はぁ…この人が斉藤先輩??」(まぁ確かに爽やかではあるかも…)
「そうよ。興味あるなら明日見に行ってみる?」
「うーん…申し訳ないけど興味はないかな…バスケ全然できないし」
昔から勉強はそれなりにできたが運動だけはなにをやってもからっきしダメだった
「そう?実際に会ったらきっと違うんじゃない?私は見たことあるけど写真より実物のほうがいいと思ったわよ?」
「…皐月ってこういう人がタイプなの?」
驚いたのかいつもの1.5倍目を見開け、食べていたささみを喉につまらせて咳こんだ
私はすばやくお茶を差し出し背中をさすった
「…そんなわけないじゃない!!ただいつも話を聞くから一度みてみたいとは思うけどね。」
気管にはいったらしく苦しそうだった
「私は坂口先生のほうがずっと素敵だと思うわ。」
あまりの衝撃発言に思わず自分の耳を疑った
「えっ?今なんて…」
「だから坂口先生のほうがずっと素敵だって言ったのよ。」
いつもと変わらない様子で皐月はさらっと言ってまた箸をうごかした
学校で皐月はかなりの有名人だ。美人で頭もよく誰にでも優しいしスタイルはいいし…非の打ち所がない
きっと皐月が望めばどんな男の人だろうと落ちない人はいないのに…
よりにもよって坂口先生?あのキャラが濃くてやたら声の大きい?
「…え?なんで坂口先生?確かに顔は悪くないと思うけど…キャラは濃いし変だし声は大きいし…皐月にはもっとイケメンで素敵な人が…」
すると箸を置き真剣な表情で「…顔じゃないのよ。私にとって坂口先生は特別な人なの。」といった。
そういうと一瞬乙女ゲームのヒロインのような微笑みを私にむけた
「えっ?それってどういう…」
「はいもうこの話はおしまい。主題もずれてちゃったしね。じゃあ明日バスケ部見学にいくってことでいいかしら?」
「えっ?うっうんまぁ皐月が見たいなら…それより」
再び話をしようとすると皐月が人差し指を自分の口元にあてた
「これ以上は…ね?」
そして手を合わせてごちそうさまでしたといいお弁当箱を片付けはじめた。そのすぐ後、タイミングを見計らったかのようにチャイムがなりお昼休憩が終わった
(先生が皐月にとって特別な存在…)
先生と皐月が腕を組み歩いている姿が思い浮かんだが、すぐ首をふりその姿を消した
(いや!ないない!… まさかね…うん)
しかしその後皐月の言葉が気になり次の授業に全く集中できなかった
次の日の放課後私たちは教室から少し離れた場所にある体育館へとむかった
そこには大きな字でバスケ部部員募集!!!とかかれたポスターが貼ってあった
「今日は斉藤先輩いるかしら?」
「いるんじゃない?すでに何人かの女の子がキラキラした目で 練習見てるし」
噂通り斎藤先輩人気はすごいらしくバスケ部は見学者(おもに女子)でいっぱいだった
今はチーム内でミニゲームをしているらしく斎藤先輩がシュートを決めるたび黄色い歓声があがっていた
「これじゃあ見えないわね」
「…諦めよう。他の部活も見たいし」
「そうね…そうしましょう」
そういって体育館から出ようとした瞬間危ない!!という声が聞こえ思わず振り返ると体のすぐ脇をバスケットボールが通過した。
「悪い!!大丈夫だったか?」
声の方向に目をやるとそこには写真で見た以上の爽やかイケメン斎藤先輩がいた。
「いやぁ悪い!大丈夫か?…怪我とかはしてないよな?」
「だっ大丈夫です…」
「リボンの色からして一年生だよな?もしかして部活見学者か?女子バスケットボールは奥のコートでやってるからよかったら見ていってくれ。」
どうしたらいいかわからなくなりとりあえずバスケットボールを取りに行き斎藤先輩に手渡した
「あの…これ」
「おっサンキュ!怪我がなくてよかったよじゃあまたな」
体育館から斎藤!という声が聞こえ斎藤先輩はにこやかに走りさっていった
「あれ斎藤先輩よ。声かけてもらえるなんてラッキーね」
「ほんと爽やかだね…なんだか先輩が現れた瞬間風が吹いた気がする…」
「会ってみてよかったでしょ?」
「うん。ほんと噂以上の人だね…時間もあるし他の部活も見てみる?」
「そうね。そうしましょう。」
そうして皐月と一緒に色々な部活をみてまわった。皐月はやはりかなり目立つらしく沢山の部活から勧誘を受けたが特に入りたいと思えるような部活はみつからなかった
「どう?入りたいと思える部活見つかった?」
「特になかったかな…皐月は?」
「私も特には…コスプレイベントがあると週末参加するのは難しくなってくるからね」
「うーん…そうなってくるとやっぱり部活は厳しいよね」
「そうね…今日活動日じゃない部活もあるしまた日を改めて見に行きましょう?
あっごめんね。この後ちょっと予定があって校門で車を待たせてるの…」
時計をみるともうすぐ五時半になろうとしているところだった
「ごめん!もっとはやく言ってくれたらよかったのに」
「ううん全然間に合うから大丈夫。私こそごめんね?気を使わせちゃって…また明日ね?」
「うん。また明日」
皐月と別れ一人で駅に向かう途中ふと現代文の時間に話題になった小説を思い出した
(せっかくだし本屋さんによって帰ろうかな
ついでに新作のゲームでもみよう)
学校から自宅までの間に本屋は数件あるがゲームを扱っているお店となるとそう数はなかった
(ここからだと四つ先にショッピングモールがあるな…そこならゲームもあるだろうし)
わりと小さなショッピングモールだか品揃えは悪くなく学校からも少し遠いので同級生にあう心配は少ないだろうと思った
まずレンタルビデオ店にいくと新作ゲームの棚に直行した
(あーこのゲーム会社の乙女ゲーム面白いんだよね…システムとかも凝ってるし…あっそっかこれ今日発売だっけ…でもファンディスクだからもうちょっと待ってもいいかな…)
色々ほしいものはあったが生憎持ち合わせがなくしぶしぶ諦めた
そして目的地である本屋さんに行くといち番目立つコーナーにお目当ての本があった
(やっぱり人気あるんだなぁ)
本を買うことは滅多になかったが現代文の先生の話が面白くどんな本か気になったのだ
(さて帰ろうかな)
スマホの画面をみるとちょうど七時になったところだった
レジに向かう途中見覚えのある人の姿が目にはいった
(あれって…斎藤先輩?)
さっきみたときの爽やかな先輩とは違い注意深くあたりをきょろきょろと見回していて明らかに不自然だった
そして雑誌のようなものをすばやく二冊手に取り表紙を隠すように両腕にもち歩いていた
(雑誌を買うだけであんなにきょろきょろするものなのかな…まさか万引き!?)
声をかけるべきなのか迷ったがあまりに不自然なその態度に違和感を覚え先輩の方へと歩みよった
「斎藤先輩?」
先輩はうわぁ!と大きく情けない声をだしその後まるでお化けでもみたかのように私をみた
「もしかしてさっきの一年か…?まさか同じ学校のやつに見られるなんて…」
「声かけようか悩んだんですけど先輩の行動が怪しすぎて声をかけました。先輩…万引きは絶対だめです!!!」
先輩は拍子抜けしたようには?という声を出した
「学校の制服着て万引きなんてするわけないだろ…」
「じゃあどうして…」
はぁとため息をついて先輩は手に持っていた雑誌を私に見せた
その表紙には胸を強調させるポーズをとったグラビアモデルの女性が二人うつっていて
大きくとじ込み付録つきとかいてある
「わかるだろ?俺だってこういうの買うときは恥ずかしいんだ」
しかし先輩の左手は背中にまわされていてもうひとつなにかを隠していた
「先輩、左手にもなにかもってますよね?」
先輩は動揺したのかあきらかに目が泳いでいた
「な?なんのことだ?俺は一冊しか持ってないぞ…」
「とぼけないでください…さすがに無理ありますよ」
「…死んでも見せないからな!ひとには誰だって秘密にしたいことの一つや二つ…」
そこまで言われると見たくなるのが人の性というものだ
「見せてください」
「いやだ」
「見せてください!」
「いやだといったらいやだ!!!」
そんな攻防をしている間に先輩の後ろからどさっというおとがした
「「あっ」」
先輩は即座に拾ったが私は見てしまった
その雑誌には大きな字で月刊ユリビヨリ。と書いてあった
「先輩、ユリビ…」
「それ以上言ったらどうなるかわかるよな?」
爽やかな笑顔をむけられて私はそれ以上何も言わなかった
ひと悶着あったあと私は先輩の分のユリビ…ではなく雑誌と自分の小説を買い先輩にお釣りを渡した
「いいんですか?私の分まで…」
「まぁ口止め料とそれ買ってきてもらったお礼というか…とにかく気にすんな。」
「…ありがとうございます。でもそんな恥ずかしがることないと思いますよ?別に百合好きなんて…」
「…まぁ好きでも恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよなかなか堂々とは言えないだろ。」
「まぁ…堂々とは言えないですね。先輩有名人ですし。」
「別に有名人じゃないけどな…ただ皆が勝手に好き勝手言ってるだけだ。」
先輩はそういうと駅の方へと向かって歩き独り言のように呟いた
「はぁ…まさか今までだれにもバレたことなかったのに…よりにもよって今日はじめて会ったやつにバレるなんてな。」
「先輩!私絶対誰にも言わないから大丈夫ですよ。口は堅いほうなので。」
私は自分の口元をかたくむすび人差し指と中指でチャックを作り口の端から端までスライドさせた
「聞いてたのかよ。…うんまぁよろしく頼むわ…」
先輩は苦笑いを浮かべぽりぽりと頭をかいた
(確かこの間やった君と僕との夏物語に似たようなシチュエーションがあったな…たしかあのときは…)
「…どんな先輩だって先輩は先輩ですからね。」
(たしかこんな台詞だったような…)
先輩は立ち止まり私をみると急に笑いだした「ははっ!もしかして励ましてくれたのか?お前って面白いやつだな。」
「でもま、サンキュ。ちょっと元気出たわ。またな。」
はじめに出会った時のように爽やかな笑顔で先輩は駅のホームへと入っていった
「爽やかだ…」
(君と僕との夏物語またやろうかな…たしかストーリーは…)
そんなことを考えている向かいのホームに電車が通り強い風が吹いた
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