私の高校生活が乙女ゲームのようになりつつある件

石田夏目

第1話ときめき☆スクールライフ

「お前が好きなんだ…俺と付き合ってほしい」

「…私も好きでした。出会ったときからずっと」

そう言い終わると私たちはお互いに顔を見合わせ笑った

お互い意地っ張りでなかなか素直になれなかったけど最後はようやく本当の気持ちを伝えられた

これからすれ違うこともたくさんあるかもしれないけど少しずつ私たちらしく進んでいけたらって思う

だってやっぱり彼が好きだから…その思いは高校時代もそして今も変わらない…一度手放した幸せを今度は離さないように私は彼を強く抱き締めた

~END~

「はぁぁぁぁ…玲春尊い…やっぱりときめき☆スクールライフは神ゲーだな」

ヘアバンドで髪をあげベットに寝転がりながらゲームをする

この瞬間がたまらなく幸せである

私が今プレイしているこのゲームは私の人生を変えた一本でもあるときめき☆スクールライフ(通称ときスク)という乙女ゲームだ。あの日々をもう一度…あなたと。というコンセプトでOLの主人公が高校生の時にタイムスリップをして再び恋をするというストーリだ。かなり前に発売されたにもかかわらず今でもファンが多く続編を望む声も多い

私の母もこのゲームの大ファンで私の名前もこのゲームの主人公からきている

母はかなりのゲーマーで父と結婚した理由も「名前が乙女ゲームのキャラ名に似ていたから」というかなり特殊な理由である(父と母が出会ったのもゲームのオフ会だそうだ)

そんな両親の遺伝子を受け継いで私は幼い頃からありとあらゆるゲームをプレイしてきた

そんな時母から渡されたのがこのときめき☆スクールライフである

はじめは乙女ゲームなんてただかわいい女の子とイケメンなキャラが恋愛するだけでしょと思っていたがやりはじめると驚くほど夢中になり寝る間も惜しんでプレイした

丁寧な心理描写や緻密なストーリ

主人公を取り巻く個性的なキャラクター

ここぞというときに入るスチルや音楽

乙女ゲームとはまさに総合芸術だ

とくにときスクの主人公は一生懸命でかわいく一途でとても眩しく見えた

あぁわたしもこんな風な女の子になりたい…

わたしはそれからというもの乙女ゲームの世界にどっぷりはまり今や私の生活のすべてとなっていた

♪~

携帯の着信音がなり画面をみると見慣れた幼なじみの名前があった

「もしもし?」

「よっおはよ元気か?」

「あーうん。元気元気…相変わらず鈴木太郎ってモブキャラのテンプレートみたいな名前よね…でどうしたの?」

「 モブキャラって…いや、明日の入学式なんだけど何時に集合するか?」

「あーそういえば明日だっけ…」

カレンダーを確認すると日にちに丸印をして入学式と書いてあった

「お前まさか忘れてたのか?」

「えーと…うんほらいまゲームしてるから」

スマホをスピーカーモードにして両手で携帯ゲーム操作を続けた

「 忘れてたな完全に…というかまたゲームかよ…まぁいつものことだけど

…というかほんとそんなんでよく合格したよなぁ坂川ってこの辺りじゃ有名な進学校だぞ」

「それそっくりそのまま返すから

太郎の成績だとギリギリだったでしょ別に無理して坂川にしなくてもよかったんじゃないの?陸上の強豪校でもないし」

「まぁそうなんだけどさ…お前が坂川行くって言うし頑張って勉強してさ…

やっぱり一緒の学校に行きたいし…」

「あー!!!!!!!」

思わずゲームの会話画面を一時停止させた

「うるさ!急になんだよ」

「あんたのせいで選択肢間違えちゃったじゃない!!!もーこの選択肢間違うと好感度大幅に下がるんだから!」

「俺の好感度はどうでもいいのかよ…今俺が言ってたこと聞いてたのか?」

「うん聞いてたよ…えーとなんだっけ

まぁとりあえず合格してよかったよね」

ちょうどゲーム内で蓮との個別イベントがはじまり太郎の話をあまり聞いていた

「ほんとお前って人の話聞いているようで聞いてないよな…まぁじゃあ明日八時頃駅集合でいいか?」

「うん、分かった八時ね了解じゃあまた明日ね」

「おぅまたな」

太郎との電話が終わるとすぐさまイヤホンをし蓮との個別イベントに集中した


〈入学式当日〉

真っ白な新しいYシャツに袖を通しすこし大きいジャケット羽織ると今日からなんだという実感がわいた

(今日から高校生か…)

「おはよう」

「おはよう、朝ごはんできてるわよ。今日十時からよね」

「そうだよ」

「今日から玲香も高校生か…感慨深いな…」

昔から涙もろかった父は目頭をおさえ涙をこらえていた

「お父さん、式がはじまる前に泣かないでよ」

「いやぁ…悪い…坂川はお父さんの母校だから嬉しくてなぁ…」

(ときスクに出てくる学校に似てるから受験したなんて口が裂けても言えない!!!)

「いっいってきまーす…」

「いってらっしゃい!気を付けるのよ!」


「ふわぁぁぁ…」

(昨日ときスクやりすぎたなぁ…bixivずっと検索して見てたし…玲受けがほんと尊くて)

「おぅおはよ!朝からすごいあくびだな」

「おはよ…寝不足だわ…」

「またゲームだろ…入学式の前くらい控えればいいのにさ」

「私からゲーム取ったら何も残らないわよ…」

「女子高生が言う台詞じゃないだろそれ…

しかし坂川は遠いよな…噂には聞いてたけど本当坂ばっかだし…これが毎日かと思うと」

「結構きついよね…駅からも遠いし…」

「…はぁようやくついたな」大きな門構えの前には入学式という立て看板があり、大勢の人がその前で写真をとっていた。

「予想はしていたが結構多いな」

「そうだね…」

人を掻き分け進むと掲示板にクラス表が貼ってあった

「えーと俺は…あった一年四組だな

玲香は?」

「うーんと…あった一年二組」

「別々のクラスだな…とりあえず教室いくか」

ガラガラガラ

教室に入り指定された席につくとやっと一息ついた

(はぁ…長かった…)

「おはよう諸君!!!気持ちのいい朝だね!!」

扉が壊れそうになるほど勢いよく入ってきたその人は黒いスーツに茶髪、黒渕眼鏡、銀色のピアスがきらりと光っていて進学校にはまずいないであろうタイプだった

「まずは入学おめでとう!君たちの高校生活が素晴らしいものとなるように全力でサポートさせてもらうよ!!私は今日から君たちの担任になる坂口拓也だ!さかぐっちゃんと呼んでくれ!あっさかたくでもいいぞ!!!よろしくな!!」

(担任の先生キャラ濃いな…ゲームのキャラみたい)

「よし今から入学式のざっくりした流れを説明するぞ!」

そこからやたらと長い入学式の説明がはじまった

「…とまぁこんなとこだがなにか質問あるか?

まぁ詳しくは今から配るプリントをみてくれ!!」

( 今までの長い説明全部無駄じゃん!!!)

「おっ?そろそろ時間だなよし体育館へ移動するぞ諸君!!!」


入学式は順調に進み私たちはHRをするためふたたび教室へと戻ってきた

「さて今日から諸君は坂川学園の生徒となり私たちはファミリーになるわけだが…まずは親睦を深めるために自己紹介をしようじゃないか!」

「まずは私から!坂口拓也33才!好きなタイプは石川さとみ!ちなみに胸よりもお尻派だ!担当は日本史!皆よろしくな!」

(いらない情報が多すぎる…)

キャラの濃すぎる先生戸惑いながらも数人が拍手をした

「じゃあまず一番前の藍川からな!よろしく!」

教室に微妙な空気が漂いながらも自己紹介が進んでいくと鼻筋のすっととおった黒髪の美女が立ち上がった

「はじめまして桐生皐月です。櫻が丘中学から来ました。よろしくお願いします」

そういった途端クラス内がざわつきはじめた

櫻が丘中学といえば都内でも指折りのお嬢様校だ…

彼女がそう言い終わるとしばらく静かだったがやがて拍手を送った

(桐生さんって霧雨のコンチェルト(ファンタジー系乙女ゲーム)のチェルシーに似てる…顔小さくてお人形さんみたい…)

私の強い視線を感じたのか桐生さんと目があうとにっこりと微笑みかけてくれた

女性の私でも思わずどきっとしてしまう微笑みだった

私は精一杯の笑顔で微笑み返したがきっとまわりからみればとてもぎこちないものだったと思う

「さおとめ…早乙女!!!」

「はい!!?!」

「次お前の番だぞ!自己紹介」

「あっはい…早乙女玲香です。蔵本中学から来ました。よろしくお願いします」

すこし早口で言い終わり彼女の方をみるとこちらにむかって満面の笑みで拍手をしてくれた

自己紹介も終わり写真撮影のため校門に向かって集合写真を撮った後クラスごとに教科書を受け取り教室に戻った

(やっぱり量多いなぁ…とりあえず明日ある教科はロッカーに置いていこう…)

「よし!今日はこれで終わりだ!時間割りのプリントはとどいてるよな?明日から授業はじまるから忘れ物しないようにな!!!それじゃあ先生とはまた明日元気で会おう!」

先生の起立!礼!の合図でタイミングよくチャイムがなり私の高校生活一日目が終了した

「はぁ…終わった…」

「ふふっだいぶお疲れだね?」

頭の上から声がして思わず頭をあげると

桐生さんが目の前に立っていて思わずうわぁ!と女子高生らしくない声をあげてしまった

「ごめんなさい…いきなりビックリさせたよね?ちょっと話したいなって思って」

「いえ!こちらこそ…光栄です…」

「さっき自己紹介でもいったけど私桐生皐月

気軽に皐月って呼んでね」

「こちらこそよろしくお願いします…私は早乙女玲香です…」

「玲香かぁ…かわいい名前だよねよろしくね」

皐月が手を差し出し私たちは軽く握手をした

皐月の腕は力をいれたらおれそうなほど細く白かった

「あっそれ…!!」

鞄についていたキーホルダーはときスクの蓮のキーホルダーだった

「あっこれ?ときめき☆スクールライフの蓮

のキーホルダーなんだけど…知ってる?」

「勿論!!!皐月も好きなの?」

「うん、実は私コスプレしてるの。ときスクのキャラもやったことあるよ」

そういって皐月はスマホを取り出しコスプレの写真を見せてくれた

そこにはときスクの蓮や主人公の玲香、アニメのキャラや漫画のキャラなど沢山のキャラに完璧に扮した皐月が写っていた

「うわぁ…すごいこれ全部皐月?」

「うんさつき。って名前で活動してるの

「えぇ。そうよ…玲香かわいいしよかったら今度一緒にやりましょうよ楽しいわよ」

「ごめん私あんまりコスプレには興味なくて…」

皐月はビックリした表情で大きな目をぱちくりさせていた

「そう?まぁ気が向いたらいつでも言ってね。衣装もウィッグも沢山あるからね」

「うん、ありがとう。あっそうだ良かったら一緒に帰らない?」

「勿論。わたしもそう言おうとおもってたの」


皐月と話しながら歩いていると後ろからこちらにむかって走ってくる音と見知った声が聞こえてきた

「おっ玲香!お疲れ今から帰るのか?」

「あっ太郎。うんそうなのちょうど今終わったところで…あっそうだ紹介するね。同じクラスの皐月さっき仲良くなったの」

「はじめまして。桐生皐月です」

「鈴木です。どうも」

「太郎とは腐れ縁でね…幼稚園からの付き合いなの。両親同士も仲が良くて…」

「そうなのね。鈴木太郎ってモブキャラのテンプレートみたいな名前ね…はじめて会った気がしないわ」

「…うんお前らが仲良くなった理由が今分かったわ」

皐月はふーんと言いつつ太郎をみてにこっと笑った

「鈴木くん頑張ってね…じゃないと近いうちに後悔することになるから」

「なっ…」

皐月は見透かしたような目をして太郎をみてまるでなにかいたずらでも思いついたかのようにふふふと笑い、太郎は蛇ににらまれた蛙のように硬直していて動かなかった。

私はそんな二人の不思議な空気にただただ頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった

そんな私の手を軽く引っ張り皐月は「さぁ帰りましょう?」といった

「またね?鈴木くん…」

「あっ!太郎また明日ね」

太郎は足早に歩く私たちを黙ったまま見送った


その後皐月に太郎のことを聞いてみても笑顔でうまくはぐらかされるだけで結局なにも聞けないまま私たちは駅で別れた

「はぁ…今日一日長かったなぁ…」

部屋に戻った私はいつもの部屋着に着替えベットに体を投げ出した

(さっきの太郎はいつもと違うかんじだったなぁ…)

皐月の言葉をもう一度思い出すが結局なにもわからないままだった

「んーまぁいいや、やっぱり疲れているときはあれだよね…」

そう言って私は携帯ゲーム機の電源をいれた

画面にはときめき☆スクールライフとかかれている

「今日は誰ルートにしようかな…」

スタートボタンを押すともう何回みたかわからないオープニング映像がながれた

あの日々をもう一度…あなたと

(あぁこの時間がずっと続けばいいのに…)

しかしこの幸せが続かなくなるなんてこのときは思いもしなかった

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