君は何のために戦うのか

foreside

第1話 

クランド、君はどうして戦士になったんだい。

クランド、君はどうして戦いをやめなかったんだい。

クランド、君はどうして国のために命をかけられるんだい。


アンドリューは街に運び込まれたクランドに向けてそう何度も繰り返した。


クランドは戦士だった。俺は国のために戦うといい、幾多の戦いに身を投じてきた。ある時は腕に大きな傷を負い、ある時は頭から血を流して帰ってきた。


一般人として商業を営むアンドリューも、いつの日か来るであろうクランドの死というものを心のどこかでは受け入れていた。


クランド、きみは強い男だよな。

クランド、きみはこの傷は名誉ある傷だと言ったよな。

クランド、きみは私ではなくあの市民の心配をしてくれと言ったよな。


いつものように深い傷を負ったクランドの姿を目にすると、クランドがアンドリューに伝えた数々の言葉が走馬灯のように思い起こされる。


「アンドリューよ、俺は戦士としてこの国のために戦う決意をした。この国の市民の命を、平穏を守ることにした」

「俺の傷は大丈夫だ。そんなことよりあの市民の手当てをしてあげてくれ。この傷は私にとっては名誉でも、彼らにとっては憎悪そのものなのだ。早く辛い気持ちを思い起こさせるあの傷を手当てしてあげてくれ、頼む」


アンドリューはクランドに近づき、いつものように声をかけようとした。

ただ今回はいつもとは違った。彼は・・・。


息をしていなかった。


「アンドリュー、俺はいってくる。戦いは激しさを増してきた。ごめんな、お前も覚悟を決めておいてくれ」


クランドがこの戦に出て行く際に言い残した言葉が思い起こされる。

クランドは笑顔だった。覚悟を決めた男の顔は死を恐れていない様子だった。

アンドリューはその顔を見て何かいうこともできなくなった。そのときアンドリューはこの先にいつか訪れるであろう運命を受け入れたのだっった。


ただあまりにも早すぎた。クランドはまだ30歳だった。


クランドの右手をアンドリューは両手で包み込み、自らの額に近づけた。クランドの腕は温かさを失いつつあった。それは彼の肉体が生から死へとシフトしていることを意味していた。ほんのりと残る温かさを掌で感じ、クランドと最期の握手をした。彼の目には涙が浮かんでいるような気がした。


私は彼の死を受容するように努めた。戦士として国のために戦う男にとって、あの姿は宿命であり、名誉だったのだ。


クランド、お前は強い男だったよ。

クランド、お前の最期。しかと見届けたぞ。

クランド、戦士らしい最後だった。俺はお前のことを一生忘れない。

お前は俺にとっても戦士だったんだ。


数日後、

アンドリューは荷物の整理にクランドの家に向かった。

奥部屋にある机の中身を整理すると、一通の手紙を見つけた。


「アンドリューへ

お前にちゃんとお別れを言えなくてごめんな。最後は笑顔で別れると決めていたんだ、俺の決めた、俺の求めた戦士らしい最後を、お前の前では遂げたかったんだ。許してくれ。


まずはじめに俺が戦士になった理由をお前に話してなかったな。俺は、病気だったんだ。

若い頃から体が強いことだけが売りだった俺が15の時、完治不能の難病にかかったんだ。このことは家族以外誰も知らない。お前にも知らせられなかったな。ごめん。

そして残りの命を何にかけるかを必死に考えたんだ。そして俺がたどり着いた答えは、国のために戦い、そしてお前のために戦い、街の平穏を守ることだった。戦いという場に赴き、揺らめく灯火を燃え上がらせて、誰かのために戦うことが私の生きがいになったんだ。


だからこそ、俺がどれだけ深い傷を負ったって、痛くも痒くもなかった。俺にとって何よりも苦しかったのは、仲間が、市民が、そしてお前が苦しむ姿だったんだ。苦しみの連鎖は何も生まない。苦しみを引き受けるのは俺のような消え行く男だけでいいんだ。だからなアンドリュー。誰も恨まないでくれ。この戦いは平穏を勝ち取るための戦いなんだ。決して憎悪を生み出し、さらなる戦いを生むための戦ではないんだよ。それだけは覚えていておいてほしい。


そして最後に。俺の最愛なる家族とこの国のことを頼んだぞ。お雨になら安心して任せることができる。俺にとってお前は、いつまでもかけがえのない存在さ


今までありがとう。元気でな。


クランド」


手紙を読み終えたアンドリューは溢れ出る涙を抑えることができなかった。クラウドの異変に気付くことができなかった自分への情けなさと、彼を失ったという事実に対する行き場のなさが波打っていた。一方で怒りは自然と湧いてこなかった。


頭を抱えて泣きわめく私にどこからか声が聞こえたような気がした。


「お前は俺にとても戦士だったぞ」


その声は太く低く唸っていた。クラウドが天から、最後に振り絞ったのだろうか。

声が消えた後の空間はには、元のようにアンドリューのすすり泣く音だけが響いていた。

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