想い

隣の席の早川さんは、とても大人っぽい。

それでいて、優しくて可愛くて、

いつだって凛としている。

そんな彼女が好きで、

俺は毎日彼女に声をかける。

彼女になら、俺はなんでも話せる。

そう思えるほどに、

俺は彼女が大好きだった。



ほんの気まぐれだった。

学校で勉強して帰っていた。

少し遠回りして、

頭をリフレッシュしようと思った。

新しい道を発見すると、

ワクワクするし、

何だか探検家にでもなったようで面白い。

あの日も、そんなの軽い気持ちだった。

入り組んだ路地を抜けた先は、

一面が赤く染っていた。


「早川さん……?」

認めたくなくても、大好きだと認識した脳が、

その存在を是認していた。

早川朱音、俺の好きな人。

いつもの数段暗く冷めた目で、

身体中返り血で染めた彼女は、

どこか驚いたような、

そんな目で俺を見ていた。

どうして?

彼女が人殺し?

早川さんだぞ?

あの早川さんだ、

いつもと笑顔で、温かくて、

女神みたいに柔らかく微笑む。

「…………」

何も言わない。

道を歩く蟻を見るような目。

女神の色はどこにも見当たらない。

疑問ばかりで頭が上手く働かない。

す、と早川さんの手が

腰のホルダーに伸びるのが視界に入った。

彼女の手が拳銃を引き抜き、

こちらに照準を合わせても、

なんの気持ちも浮かばなかった。

「あ、死ぬのか。」

そんな漠然とした、そんな感動。

予想に反して、

その俺を殺す道具は、

何をするでもなくそのまま下ろされた。

「帰って」

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