崩落

「…おはよう、早川さん。」

「っ、おはよう、鹿島くん」

「朝一番で悪いけど、

俺に付き合ってくれるかな」

「……うん、いいよ」


少女は、いつものように笑った。


「……昨日のは、

早川さん、だよね…?」

少年は、おずおずと切り出した。

「………」

少女は何も言わない。

ただその顔は歪んでいて、

それこそが最上の肯定だった。

「……っ、なんであんなことしたんだ!!

生きてるんだよ!?

みんな生きてるんだ!

人の命を奪っていいはずないだろ!

っ、なんで……!なんであんなこと!」

ぽたぽた、と床に丸いシミができる。

…あぁ、鹿島くん泣いてるんだわ。

少女は思った。

そして少女は何も答えないでいた。

「なんとか言えよ!!」

気持ちが昂りすぎたのか、

少年は少女の襟首を、思い切り掴んだ。

「人を殺せるなんて、どうかしてる!!

……っ、そんなの、人じゃないだろ!

俺らのこと騙してたのか?!

いつもと笑顔で笑いながら、

影で人殺ししてたのかよ!

この、化け物!裏切り者!!!」

少年は怒鳴った。

怒っているはずの彼が、

なぜだかとても辛そうだった。

「裏切り者……!!!」

彼は繰り返した。

瞬間、ドン!と少女は少年を突き飛ばした。

「何が悪いの!!?」

少女はここに来て始めて口を開いた。

明らかに激昴していた。

「何が悪いの?!!

なんで?!求めたのは私じゃない!!!

みんな望まれてやったのよ!!

みんなそうして欲しいっても思ってた!!」

普段の彼女なら考えられないほどの、

荒い口調だった。

「私がしたくてしたんじゃない!!

どうしてそんなに責められなきゃ行けないの!」

少年はただ黙って聞いていた。

呆然とするでもなく、

ただたんたんと、話を受け止めていた。

「……責任転嫁するなよ!!!

たとえ誰かが望んでも、

人を殺していいはずないだろ!!!!

逃げてんじゃねぇよ!

お前がやらないって選択肢だってあっただろ!!

最後に決めたのはお前だよ!!

責められねぇわけねぇだろ!!」

少女の言葉の本流が止まったのを見て、

少年は怒鳴り返した。

少年も、普段では見られないほどの口調だった。

「なんで?!!?

……鹿島くんならわかってくれると思ってた!!

鹿島くんだって人任せじゃん!!

お兄さんのために大学に行くんでしょ!!

それと一緒じゃん!何が悪いのよ!!!」

「?!」

少年の冷静な部分が、

少女の言葉に違和感を感じた。

「どういう意味だよ!?」

なんで俺が大学に行く話が出るんだよ?!

少年は困惑を込めて、

ゆっくりと、聞き返した。

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