第6話 十二月十一日 木曜日 真相
朝、本鈴が鳴る前ギリギリになって教室に入った僕は、難波も大里さんもいるのを確認して席に座った。
下校中に何を話したのかは、二人しか知らない。
放課後、十七時頃になって教室へ一人で来た百合ちゃんに、僕はいつも通りに話し掛けた。
十八時頃、憔悴しきった僕の所に難波と熊谷が来た。
「レコーダーに録音してあるから、それを聞いてからにして」
僕は死んだ魚のような眼をしていただろう。そして、心にはぽっかりと穴が開いた。そんな気持ちを無視して、二人はレコーダーの音に耳を傾けた。
「佐々木さん、何か忘れ物でもしたの」
「うん、ちょっとね」
「あの、少し話があるんだけど良い?」
「うん、良いよ」
「佐々木さんって、彼氏いるよね。隣のクラスの鷲岡」
「……もう隠してもしょうがないよね。私の事大切に思ってくれてる人にまで嘘はつけない。全部話すよ。まず、倫太郎君とは五月から付き合ってるの。嫌々じゃなくて私から言ったの。もともと、中学でやんちゃして自暴自棄になっていた私は、自殺しようと思って、その前に一縷の望みをかけてSNSに自殺しますって書いたの。そしたら、倫太郎君が必死に止めてくれた。それから仲良くなって、同じ高校に進学しようって言ってここに来たの。ここなら私の過去を知る人はほとんどいないからね。本当は学校でも仲良くしたいんだけど、俺と一緒にいるとろくな事にならないからって休日しか一緒にいられないんだよね。そこは寂しいけど、我慢しなきゃね」
「そうなんだ……」
「そろそろ倫太郎君とチャットで話す時間だから、じゃあね。後、絶対に……」
ノイズ音の後、再生が終わった。
「絶対にの次は何なんだよ。教えろよ、小林」
「そうだぞ、昨日俺がどんな思いで大里と話したか。ちゃんと最後まで何があったか話せ」
「話すよ! 佐々木さんは人差し指を顔の前に持ってきて、絶対にこの事は内緒だよって言ったんだよ。これで満足か」
本当は、耳元で「絶対に話すんじゃねーぞ」と囁かれた事は墓場まで持って行くよ、百合ちゃん。
熊谷たちが散々文句を言って帰った後、相沢先生がいつもより遅れて教室へ来た。
「百合ちゃんの秘密、分かった?」
はあ、やっぱり知っていたか。でも、様々な思いをして知ったこの事実は、ただ人に聞くより、何倍も価値がある。
「ええ、分かりましたよ。でも僕は、この事を知るまでの方が楽しかったです」
「そうなんだ、それは良かったね」
先生は少し残念そうに教室を後にした。一体何を期待していたのか分からないが、先生の思い通りにはいかなかった様だ。もしかしたら、相沢先生の素顔は何重ものベールに包まれているのかもしれない。
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