第59話
いない。どこを探してもいない。教室も図書室も、屋上も体育館も、倉庫も、他の教室のどこにもいない。紗枝と誠と手分けをして探しているが見つかる気配がない。
「見つかったか?」
「いや、どこにも」
「あいつどこに行ったんだよ……」
優香を探し始めてから2時間程経った。それなのに、優香が見つからないのは俺たちから逃げているか、それともこの学校にいないかのどちらかだ。
「誠、外とか……」
「外か。こんだけ探してもいないんだし、可能性はあるな」
「探そう」
「あぁ。手分けするぞ」
誠がスマホで連絡をして一旦理科室に集まる。
「俺たちは外を探す。紗枝は学校周辺を探してくれ」
「わ、分かった」
「よし。行くぞ柊」
「うん」
「あ、柊君待って」
「これ、優香に」と1着の赤いコートを渡される。これは優香がいつも着ているコートだ。紗枝は連絡をされた時点でこうなる事を予測していたらしい。これはよく紗枝に見られることで、いつもはまったりしているのに、急に人が変わったように状況判断能力が飛び抜ける時がある。
「うん。分かった」
「俺が見つける可能性は無いのかよ」
「誠は優香のこと力ずくでも背負って学校まで戻ってこれるでしょ?筋肉しかないんだし」
「へいへい。……とりあえず急ぐぞ」
確かに俺には優香をここまで背負ってくる力はないだろう。優香の身長はほぼ俺と変わらないしな。
とにかく、1秒でも早く優香を見つけないと。いくら冬用の制服を着ているからと言って、真冬の外を耐え切られるかと言うと難しいだろう。それに、女の子は寒いところが苦手だと思うし。愛美も美鈴ちゃんも苦手だしな。
「うん、行こう」
こうして、紗枝たちに一声伝え俺たちは玄関に急いだ。
相変わらず廊下は人で混んでいるが、ガタイのいい誠の後ろをついていくと、楽に前に進める。ただ、足が速すぎて追いつくのに精一杯だ。やはり、と言うべきか誠の息が切れるそぶりもない。俺はもう限界間近だ。
だが、そう、夢中で走っているうちに玄関についていた。気づかないくらいに全力で走っていたらしい。
肺が酸素求めているなか、優香の下駄箱の番号を誠に聞く。
「452番のところ」
452番の下駄箱を探す。偶然にも一番最初に目に入った番号が466番だった。そのおかげで簡単に見つけることができる。下駄箱の中の靴は……外履きがある。けど、学校のどこにもいない。内履きのまま外に出たって事もある。いや、寧ろ今はその可能性の方が高いだろう。
不幸中の幸いと言うべきなのか今、外は雪は降っていない。今にでも雪が降りそうな雰囲気はあるのだが……。
「俺は、桜町と桜木町を探す」
「流石に負担が大き過ぎない?」
「何言ってんだ、バスケ部なめんなよ」
「そっか。分かった。俺は桜橋を探すよ」
「あぁ、見つけたら優香のスマホ使って知らせろよ」
「了解」と一言交し、ドシっとした、重たそうな雲の空の下を俺と誠は、どこかに消えてしまった、優雅で可憐な一人の少女を探し始めた。
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「ハァ……ハァ……」
無謀だったのだろうか。たたでさえ広い町を走りで一人の女子を探そうなんて。いや、誠はもっと広い二つの町を走っているんだ。俺が諦めるなんてありえない。
「優香ー!」
喉が痛い。掻っ切れそうな鋭くて、冷たい風が染みる。こうなるんだったら走る運動もしとけばよかった、と後悔する。
もし、この町にいなかったら、誠の方にいるはずだが。
短時間で行けるのは俺と誠が探している範囲くらいだ。車を使えば別だが、雪がそれなりに積もっているしそこまで遠くはいけないはず。もしかしたら逆の方に行った可能性もあるが、あっち側は工場しかない。なかなか、行くような場所ではないが、一応中村さんにも手伝ってもらおうか、そう考え腕時計を……
「そういえば付けてなかった」
今考えれば学校の外に出れる時点で気づくべきだ。
愛美にバレたらどうしよう。せっかく、信頼を得て自由をもらっているのに、許可なく外に出たとなんらかの形で知られたらまた前の形に元通りだ。
身体が勝手に踵を返し始める。一歩、また一歩、走ってきた道を戻ろうとする。それが、正解だと心の底から思ってしまっている。
刹那、強い風が吹き荒れる。風が止むと、ふわふわとした雪が降り始める。
あー……寒い。けど、その、寒さが俺のしなくちゃいけない事を思い起こさせる。ここで、学校に帰って何になる。自分のことより、優香の事を考えろ。
俺は何も優香に返せてないじゃないか。食堂に一緒に来てくれたこと、勉強を教えてくれたこと、メイクをしてくれたことは微妙だけど……お返しはまだ一つもできていない。
ようやく、体が優先するとことを理解したのか、再度踵を返す。
そう、これでいい。今は今のことを考えればいい。愛美のことはその時に考えればいい。先のことをみる余裕は俺には無い。
「よし!」と自分を奮い立たせる。
一度冷静に深呼吸をし状況を整える。そういえば、ここはどこなのだろうか。来た道を戻れば帰れるのだが。
目印になるものは、ボロいアパートくらい。
「え、ここって」
俺が住んでいたアパートじゃないか。けど、これを見続ける時間はない。久々に見たこのアパートから離れるのは名残惜しいが、今はとにかく早く優香を見つけて、このコートを渡して学校に連れ戻さないと。
「おい」
「……?」
「柊か」
何故だろう。何故、今日はこんなにも、もう二度と会うことはないと思っていた人に会うのだろうか。
「――大家さん」
「久しいな」
「そう、ですね……」
「いきなり消えたと思えば、いきなり現れるとはな」
「……すみません、急いでるのでこれで失礼します。またいつか必ずここにきます」
俺は今までの礼を心の中で言いながら軽く頭を下げ、再び走ろうとする。
「そういえば、その桜崎の制服をきた女がお前の部屋でちぢこまっているぞ」
「なっ!本当か?……本当ですか?」
「あぁ」と大家は俺の部屋の窓を見ながら言う。
「随分とべっぴんさんだったな」
どういう工程でこのアパートにたどり着いたのかは分からないけど、すぐそこにいるなら、こんな所で突っ立っている意味はない。
「すみませんが、入らせてもらいます」
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
先ほどより深く頭を下げ、礼を言う。また、入らせてもらえることに、優香を中に入れてくれたことに。
この、今にも崩れそうな階段を上るのは何ヶ月ぶりだろうか。この壁も、このドアも、この手すりも、相変わらずボロい。愛美の家と比べたら大違いだ。
けど、嫌いになれない。知らないうちに愛着が湧いたのかもしれない。
ここだ。この部屋だ。懐かしい。
部屋には見られたらまずいものは持ってないから安心だが、中は綺麗なのだろうか、私物は捨てられているのだろうか。一応テレビゲームあったんだけど。まぁ、捨てられていても仕方ないか。
そう吹っ切れると、この古く、蹴ると壊れそうなドアを開けた。
/\??
現在地
↓
工場←桜橋(桜崎)〈柊担当〉→桜木町〈誠担当〉
→桜町〈誠担当〉
町の並び方です。
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