第50話一人の少女の心境

やった、誰もいないところで柊君と二人っきりになれた!それに……隣に座れたし。今日、頑張った甲斐があった!……って思ってたんだけど私いつの間にか寝ちゃってたみたい。そこまでは別に良かったんだけど、なんで私柊君の肩で寝ちゃってるの!?さらに、なんか、頭が重いなって思ったら柊君の頭が私の頭に乗っかってるし!

ど、ど、どどどど、どうしよう。私、結構汗かいちゃったよ。柊君に汗臭いなんて言われたら私真冬の中スコートで外走っちゃうよ。あぁぁ!どうしよう!


と、とりあえず、私の頭から柊君の頭をどかさないと。

柊君の頭を手で支えつつ、私の頭をゆっくり抜いて。…………うん、作戦は成功したんだけど、この後はどうしよう。この手の中にある柊君の顔を私はどこに置けばいいの?このまま疲れ切った柊君を硬い椅子に置くのも可哀想で嫌だし。ここに、座布団なんてないし。


「あ、そうだ」


柊君は寝ちゃってるし、少し攻めてみようかな。いつも優香たちがいるから、中々そういう事出来ないし。ふ、ふふふ。この時やることは決まってるじゃん!膝枕以外何があるの!


でも、こんな事できるのは今の柊君は女の子の格好をしてるから。いつもの柊君だったら、隣に座れただけで、満足しちゃってると思う。優香や結雅たちには絶対に渡したくない。最近クラスの外でも柊君の話を聞くし。少しでも他の人よりも、リードしておかないと。


「わ、わぁ」


柊君が私の太ももの上で寝てる。なんだろうこの感覚。側から見たらこんなのカップル以外の何者でもないよ。そ、そうだ。写真撮っちゃおう。


私は、これまでで培った自撮り技術を最大限に活かして、写真を撮る。


カシャっ


これは私の宝物。絶対に誰にも見せない。そう心に決めた途端――


「ん……」


柊君が起きちゃった。


「あれ……俺寝てた……?」


少し寝ぼけてるみたい。夢のような時間はもう終わっちゃった。もっと長ければよかったのに。


柊君の顔がゆっくりと上を向く。そして、目が合う。


「おはよ、柊君」


神様はケチだなーと思いながら、私は笑顔でそう言った。


/\/\/\/\


「おはよ、柊君」


柔らかくて、肌触りが良くて、どこか落ち着いて、それでいて温かい。その極上の枕を提供していてくれた人物は何故か満足したかのような笑顔でそう言った。


俺が覚えているのは、紗枝が俺の肩で寝てしまったことまでだ。今何故、こうして紗枝に膝枕をしてもらっているのか全く分からない。てか――


「ご、ごめん!」


俺は勢いよく体を起こす。


「もう起きちゃうの?まだ寝ててもいいのに。ほら、まだ時間あるよ?」

「い、いや。大丈夫だよ」


流石にこれ以上は迷惑をかけるわけにはいかないし。それに、なんか恥ずかしい。


「んー、時間余ってるし少し回る?」


俺の休憩時間は2時30分までだ。今の時間は1時15分。確かに1時間弱の時間が余っている。けど、俺は椎名さんの誘いを断ったわけだし、それを無視して紗枝と回るのも……。


「私と回るの嫌?」

「ち、違うよ。その、俺椎名さんの誘いを断ったのに、他の人の誘いには乗るってのは少し嫌だなって。だ、だから紗枝と回るのが嫌ってわけじゃないよ」

「へぇーそうなんだ……。じゃあ椎名さんも誘おうよ。それならいいでしょ?」


まぁ、確かにそれなら誰かを贔屓しているわけでもないし。せっかく二人は俺を誘ってくれたんだし。


「うん。それなら」

「やった。じゃあ私アリスちゃんにLINEしとくね!」


でも、何で二人は俺を誘ってくれたんだろうか。二人なら他のクラスにも友達はいるはずだし。椎名さんは分からないけど、紗枝は部活の友達だっているのに。


それから5分くらい経った後、椎名さんは理科室に到着した。そこから、俺と紗枝と椎名さんはA組の出し物のお化け屋敷に向かった。……けど、俺たちは甘く見過ぎていた。うちのお化け屋敷がどれだけ恐ろしいものか。


「ギャー!ちょ、何で追いかけてくんの!」

「てか、足速くない!?あれ絶対誠でしょ!」

「あ!あそこに隠れようよ」


一旦落ち着いたところで、説明させてもらう。このお化け屋敷は驚き要素と、得体の知らない怪物が追いかけてくる要素が合体している。この広い体育館をめいいっぱいに使ったお化け屋敷と合わせた脱出ゲームだ。


「てか、あんなのが追いかけてきたら謎解く暇なんてなくない?」

「あの化け物(誠)をどうにかしないと」

「うん。そうだね」

「よし。きふゆ囮になってきて」

「え、ちょ!」


背中をトンと押され隠れていた場所から追い出される。その時化け物(誠)と目が合う。

あ、終わった。


「いやだーー!!」

「ヒョルリろろー!」

「よし、今のうち!」

「うん!」


あの二人本当に俺のことを囮にしやがった。てか、誠めっちゃ役にのめり込んでるじゃん。


「ヒョヒョヒョろろろ!!」

「捕まってたまるかー!」


俺はがむしゃらに走る。捕まったら何をされるか分からない怖さからか、普段より速く走れている気がする。その時後ろからの謎の声がスンと無くなる。


「ヒョ!」

「なんで前にいんだよー!」


俺は急ブレーキをして、反対方向に踵を返しまた走り出す。と、思っていたのだが――


「ヒョろりろ!」


二体いたのだ。完璧に挟み撃ちだ。


「ヒョー!」

「ビョー!」

「ぎゃあー!!」


と、捕まったわけですが。


「えっと、お前コーヒーか?」

「え、気付いてなかったの?」

「これで、分かるやつなんていないだろ」


脱落者用の出口のスタッフ係をしてる奏はどうやら俺とは分からなかったらしい。


「てか、やばいなそれ。話しかけられたりしなかったのか?」

「だいぶね」

「だよなー」


あんなに俺の格好を見て大爆笑をしていたのに、今はキョトンとしている。見返してやった気分だ。


「てか、あの化け物役……誠と裕也だよね?」

「おう。あの二人、体力もあるし、足も速いからな」

「ピッタリだね」


おっと、楽しんでいたらあっという間に時間が過ぎてしまった。残り休憩時間が15分しかない。


「じゃあ、俺は行くよ」

「おう」

「誠たちに頑張って、て言っといてよ」

「オッケー」


理科室に向けて足を向けようとすると、カシャとシャッター音がなる。


「これ、誠と裕也に見せとくわ」

「いいけど……」


後から何か言われそうだな。てか、紗枝と椎名さんはどうなったんだろう。捕まったのか、それともまだ逃げているのか。

俺は少し気になりつつも、再び理科室に足を向けた。

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