第47話謎の夢

「あぁ。どうしよう」そう一人で呟く。


私は今、保健室のベッドで寝ている柊の隣にいる。

原因は分かっている。あの人を見たからだ。間違いなく、柊の大きなロックは開かれたと思う。全部思い出すとは限らないけど、変化は間違いなくあると思う。それがいい変化なのか、悪い変化なのか分からないけど。


「桜崎さん、そろそろ戻らないと」

「あ、あと10分だけいいですか?」


保健の土井先生が「分かったわ」と優しく微笑む。優しい先生で良かった。あまり、保健室は利用しないからどういう人なのかあまり知らないの。


けど、やっぱりこうなってしまったわね。タンス、鎖、アリスの目、この全ては柊の記憶に関係している。あの時、恐怖を味わさせる事でタンスと鎖を強く記憶に残してあの薬を飲ませた。その結果、恐怖を味わった記憶は消えたけれど、強く記憶に残ったタンスと鎖は無くなった記憶から出てこようとして、頭痛が起きる。どうしたら無くなった記憶を取り戻せるかまだ分からないけど、私はとにかく見えないゴールに向かって進み続けるしかない。


「はぁ」


そして、悩みはもう一つ。

私自身を操れなくなってきたこと。今まで、柊を異性として、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで仕方なくて、監禁して自分だけの柊にしていた私だったのに、最近昔の私が出てきている。柊を好きという事は変わらないけれどその中身が違う。

柊を異性として見ていないだ。

なんなのこの曖昧で馬鹿みたいな感情は。やっと柊が私の手に戻ってきたのに。


最近だってそうだ。

普通なら絶対に行かせないのに、友達とのお出かけを許したり、今日だって人目があるからって断ったり。いい加減にして欲しい。


「はぁ」


今日何回目のため息だろう。朝柊の悲しそうな顔を見てもう両手じゃ数えきれないくらいに、ため息をついたと思う。


気づくと時間はもう10分を通り越して20分を過ぎようとしていた。流石にこれ以上はまずい。


「ごめんね。私行かないと」


私はそういい、静かに柊にキスをして保健室を後にした。


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なんの夢だ。分からない。誰だこの人は。誰だ俺の横に立って手を繋いでいるこの小さな女の子は。なんで俺の目線はこんなに低いんだ。何もかもが分からない。でも、心がポカポカと暖かくてとても懐かしく感じるのは何故だろう。けど、この知らない人たちが話している内容はそんなに穏やかではない。


「騙された方が悪いんじゃないかな。桜崎さん」

「っ!ふざけるな!何故こんな真似をした!なんの恨みがあってこんなことをした!」


……いや、待て。知っている人がいた。前者は俺を2番目に育ててくれた人だ。どういう事だ。何が起きているんだ。


「恨み?恨みなんてないよ」

「じゃあなんで」


俺を育ててくれた人は「はっはっは」と高々笑う。


「邪魔だからだよ。私たち南方財閥は三大財閥の中では一番下だからね。三位よりは上の二位や一位の方がいいだろ?まぁ、椎名グループはずば抜けているからもう諦めているよ」

「椎名グループは無理だから私たち桜崎を狙ったと?」

「そういう事になるね」


そのあと人は机を壊す勢いで叩く。その衝撃でティーカップが揺れて中身が溢れる。俺の手をギュッと握る小さな女の子は怯えるように震える。


「百合、すまないが子供たちを外に」

「えぇ。分かったわ」


百合という女性は俺たちを優しく包み込むように「お母さんと外に出ようか」と綺麗な笑顔で言う。


「何を勝手なことをしようとしているのかな」

「……どういうことだ」

「その子供たちはこの会話には不可欠なんだが」

「は?」

「結論から言おう。その子供のどちらかと取り引きしよう。私の妻は子供が作れない体質でね。無論私は妻としか子供を作りたくない。そういう行為もな」

「何を言っている!子供たちは関係ない!」

「いいのか?お前たち桜崎はもうこの話無しでは立ち直れないぞ。もしマスコミにでもお前たちの状況を知られたらどうなるか」

「っ!……この外道が!」


俺を育ててくれた人はまた「はっはっはっはっ!」と笑う。


「なんとでも言えばいいさ。で、どうする?」


男は頭を抱え込み沈黙する。


「一つだけ言っておこう。もし、この話をお前が蹴ったとしよう。マスコミの攻撃にも耐えたとしよう。しかし、財閥から落とされて、持っている金全て出しても返しきれない借金を抱えむお前に家族を守れるのか?」

「っ!」

「悪い話ではないと思うのだがな。子供一人でこの話は無かったことにしてやると言うのだから」

「…………………………分かった」

「貴方!!」


男は「すまない、家族のためだ」と涙を流す。


「そんなの家族のためじゃない!血が繋がっていなくとも私たちは家族なんですよ!それを相手に売るようにして渡すなんてありえない!」

「すまない。すまない。すまない」


その反応を見てか女性は絶望した表情になり部屋から飛び出していく。


「では、そこの男の子をもらっていくぞ」

「……」

「ふっ。連れて行け」


俺を育ててくれた人の周りにいた黒服の男たちは俺のことを無理やり掴み愛美から離される。


「やだ!柊くんどこにもいかないで!」

「離せガキ!」

「やだ!やだ!柊くんは私の弟だもん!ぜったいにはなさい!」


小さな女の子は勇敢に俺の腕を再度掴む。その目は強い意志を感じる。――だが、大人の力に叶うはずもなく呆気なく俺はその女の子と再び引き剥がされる。そして……


「では、そろそら失礼しようか。このお茶美味しかったよ。桜崎さん」

「くそが」


黒服の男に脇に抱え込まれながら扉を出ようとした時、俺の意思ではないのに口が勝手に動く。


「お姉ちゃん!やだよ!助けて!愛美姉ちゃん!」

「助けるから。絶対に」


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そして、目が覚める。


時計を見るとかなり時間が過ぎているようだ。これじゃあ優香に怒られそうだな。


「お姉ちゃん」 


一人口ずさむ。ある程度の夢の内容は思い出せる。けど、モヤがかかっている。

お姉ちゃんという言葉は覚えてる。けど、誰に対してお姉ちゃんと言ったのか分からない。


とりあえず、教室にすぐに戻ろう。

多分保健室だよな。ここ。


「あら、起きたの?大丈夫?」

「はい」

「そう。けど、なんで泣いているの?」

「え?」


俺は目の下を触ると確かに泣いているようだ。水を触った感触がある。


「なんで……ですかね?」

「分からないわ。……あなた小日向くんよね?」

「はい」

「どことなく桜崎理事長と顔が似ているわね」

「そうなんですか?」

「えぇ。まぁ、偶然よね」


俺は保健室の先生の言葉を聞き、部屋を出た。


保健室の前の廊下はとても賑やかで、これぞ桜祭と言うように生き生きとしていた。

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