第43話接触
「起立、礼」
四時間目が終わった。今日も授業についていくのでやっとだった。いくら教えるのが上手くても教えられる側がそれについていけないとやっぱり厳しい。弁当でも食べて元気を出そうと鞄を漁るが――見当たらない。あ、そういえば今日は食堂で済ませてって言ってたっけ。珍しく寝坊したんだよな。まぁ、愛美も完璧人間じゃらないってことだな。
「柊飯食おうぜ」
誠と裕也が片手に弁当を持ってご飯を誘ってくる。
「ごめん。今日俺食堂なんだ」
「じゃあ着いてくよ」
「そう?」
「おう」
「うし、行こうぜ」
二人と教室から出ると、ばったりアリスと会う。
「おっと。大丈夫?椎名さん」
「うん、大丈夫。きふゆはどこに行くの?」
「食堂だよ」
「あ、私も一緒していい?」
後ろにいる二人に目を向けると「いいよ」と裕也が言う。誠は何も言わなくてもオーケーの表情をしているから大丈夫だろう。
「なら、行こっか」
「うん」
椎名さんが加わり食堂に向かっていると、優香とも会う。そして、一緒に行くことになった。
なんか、ゲームみたいだ。そう思っていると、噂の人物、大橋加瀬とその取り巻きたちと階段で鉢合わせする。
「おや、優香じゃないか」
優香はそれを無視して大橋たちを避けるようにして階段を下る。だが、取り巻きたちがそれを止めるように立ちはだかる。
「なに?邪魔なんだけど」
「いいじゃないか、雪嶋たちともいるんだから」
「それとこれの何が関係あるの」
「どうせ、食堂に向かうんだろ?なら、俺たちとでいいじゃないか」
俺がどうしていいか分からずに固まっていると、大橋が何かに気づいかのように「ん?」と目線をこちらに向ける。
「もしかして、君が椎名ちゃんかな?」
「そ、そうですけど」
「噂通りに凄く可愛いな。どう?俺たちとご飯食べない?放課後とか遊びに行こうよ」
「い、いえ遠慮します」
そろそろまずいと思ったのか、誠が「おい」と威圧的に大橋に向けて言う。
「そろそろいい加減にしろよ。さっさと退いてくれねぇか?」
「それはすまない事をした。……優香、椎名ちゃんいつでも待ってるよ」
大橋はそう言い取り巻きたちと横を通り過ぎていく。が、その時俺にわざとぶつかるように、取り巻きのその一人が体を当ててくる。
「調子のんなよ」
「っ」
俺にしか聞こえないくらいの、小さな声を最後に残していった。
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今日の授業が終わり鞄に荷物を詰めていると、先生から一つ声がかかる。
「あ、言い忘れてたけど、今回の桜祭の予算決めは球技大会だから。ついでに種目はバスケね。こっちには雪嶋と瑞樹がいるから学年一位は取れよ」
「おっしゃー!!」
裕也と誠は嬉しそうにハイタッチをする。この二人の実力は見たことがないから分からないけど、体育で見る運動神経からして多分化け物だろう。
「そうとなったら練習だ!」
「おし!行くか!」
そういえば二人は言い一目散に教室から飛び出して行った。それに続くように俺も教室から出る。確か今日二年生は少し早めに終わっているんだよな。愛美はもう車のところまで行っているのかな。
そう考えながら階段を下りていると、後ろから 「小日向くん」と名前を呼ばれる。この声は――
「愛……アイビー先輩。どうなされましたか?」
階段には何人かの生徒がいる。ここでいつもの話し方をするとまずいだろう。ということで一芝居する。
「先生がこれを貴方にって」
「すみません。ありがとうございます」
「では、失礼するわ」
周りからの視線が突き刺さるが、俺は気にしないフリをして誰もいない廊下に出る。周りを見渡して渡されたメモ用紙を開く。そこには、今日生徒会があるから、少し遅れるねと一言書いてある。
なるほど、さてどうしようか。中村さんの所まで一人で行ってもいいのだが、変に気を使わせるのも嫌だし。……部活見学でもしていこうかな。
「よし、そうしよう」
やっぱりまずはバスケ部だろうか。今日の二人は気合が入っていたから見応えがありそうだし。確かバスケ部は第二体育館だっだはずだ。
「あれ、柊君?」
「ん?あ、紗枝」
「帰るところだった?」
「ううん。今から部活見学でもして行こうかなって」
そう言うと紗枝の顔はパァと輝く。
「じゃあまずは、テニス部からだね!」
「い、いや先にバス」
「よし、じゃあー行こ!」
俺の腕は強引に紗枝に引っ張らて、第二体育館とは違う方向の第四体育館へと連れていかれた。てか、紗枝意外と力強いな。
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「はい、とうちゃーく」
第四体育館は、テニス部専用の体育館だ。それに、桜崎はなんと第五体育館まであるのだ。第一体育館はサッカーとバトミントン、第二体育館はバスケとバレーボール、第三体育館は野球と卓球、第四体育館はテニス、第五体育館はその他だ。この学校部活が多すぎて記憶が追いつかないんだよな。ちなみに陸上部は廊下を使っている。廊下も普通じゃない広さだし安全面は大丈夫らしい。まぁ、今はそんなことより、この状況をどうするかだ。テニス部は女子だけらしく、男は今俺一人の状態だ。本当に俺はここに居ていいのだろうか。ほら、なんかめっちゃ見られてるし。
「お願いしまーす。って紗枝その子だれ?ここ女子テニス部専用だよ?」
「あ、部長。この子は見学です!」
「だから、ここ女テニス部だって……」
凛部長と呼ばれる人は、愛美より少し短い髪を一つに結んだ可愛いというよりは綺麗と表すにはふさわしい人だ。
「そんな事気にしてるから平らなんだよ。まな板先輩」
紗枝は自分の手を胸の前に添えて上下に動かす。紗枝さん、部長さんが殺気立っておりますが。
「よし、紗枝お前は外周だ。死ぬまで帰ってくるな。ちなみに半袖半ズボンで行けよ」
「わ、わぁー。先輩の体のラインですらっとしてて美しいなぁー」
「はぁ、調子のいいやつだわ」
このやり取りはお馴染みなのか、周りも誰も止めようとしない。寧ろ笑っているくらいだ。
「で、君は見学なんだよね?」
「えっと、はい。強制的にですけど」
「はー。だよね、ごめんねうちの妹が」
「妹?」
「そうだよー。この、まな……凛お姉ちゃんの妹が私なのです」
今確実に、まな板……いや、やめよう。考えるだけで後ろから刺されろそうだ。そのテニスラケットで。
「ま、学校では先輩って呼んでるけどね」
「へぇー」
……家族って羨ましいな。
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