第38話存在
スポーツ用品店から出ると、次は大きいLAZYというショッピングモールに入る。レイジータウンに来たら、とりあえずLAZYに入るらしい。
LAZYは大混雑とは言わないがそれなりに、人がいる。
一階には主にフードコート。二階には小物、雑貨。三階には洋服、といった感じで色んなものが揃っている。
最初は二階に上がり、優香達はアクセサリーや化粧品などを買い、俺と誠たちはその荷物持ちをさせられた。三割は俺と裕也と奏で、後の七割は誠が。それは流石にキツイだろうと半分持ってあげると、誠は「柊ありがとう!」と言って抱きついてきたが、愛美と違ってゴツゴツしていたから出来るだけ早く離れた。それに荷物が当たって痛かったし。
「あ、ごめんちょっと俺も買いたい物あるから待ってて」
「分かったよー」
俺は荷物を一旦優香に渡し、アクセサリーが売っているショップに入る。
先程白石さんに聞いたのだが、桜崎は基本アクセサリーや化粧をしてもいいらしい。普通の高校じゃ有り得ないだろうけど、そこは桜崎だからと言えば納得だ。やっていい事ダメな事の判断は生徒任せらしい。それも向上の一端だとか。
とにかく、俺がここに来た理由は愛美と一緒のネックレスが欲しかったからだ。何か一つ同じものがあればいいなと前から思っていたのだ。
ネックレスであればそこまで目立つ事もないだろう。
店内を見て回っていると、ペア用と書いてある看板に目がつく。俺はそこに吸い込まれるように入っていく。
「あ、これいいかも」
俺はパズルのピースの黒と白の形をしたネックレスを手に取る。そのネックレスはピースを組み合わせるとピッタリとパズルのようにはまる。
うん。これにしよう値段も手が出ないほどでは無い。少し背伸びをしないとダメだが。
「気に入ってくれるかな」
俺は少しにやけながらレジに向かった。
/\/\/\/\
俺は誠達の元へ戻ると、ちょうどいい時間だったのか、さーちゃんが「お昼ご飯食べたいっ!」と言うので、じゃあそうしよう、という事になった。
「あ!ねぇねぇ!柊くん!一緒にこれ食べない?」
「ん?」
南沢さんはスマホでLAZYのホームページを開き、キラキラした目で俺を見る。
でもこれは流石に……。
「いや紗枝、男の子がお昼ご飯にパンケーキは辛い
と思うよ」
横からヒョイと現れた優香が言う。
「えぇー、そんな事ないよー。甘いものだから全然余裕だよねー柊くん?」
「甘いものだから無理なんじゃ?」
「えー、そうなの?」
そうなんです。甘いものが嫌いとかじゃないけど、やっぱり流石に普通に肉とか魚とか米とか食べたい。それに、結構体力使ったからそれなりにお腹減ってるし。でも、そんなに悲しそうな顔をされると心苦しい。
「で、でも、デザートとしてまだ食べれそうなら一緒に食べ――」
「え!いいの!ありがとう柊くん!」
まだ、最後まで言っていないけど……まぁ、いいかそう言うつもりだったし。けど、俺そんなに食べれるかな。
色々なメニューがある中どれにしようか迷っていると、次は優香がスマホを見せながらツイツイと袖を引っ張る。
「どうした、優香?」
「えっと、その……」
「ん?」
「よかったら私と一緒にパフェ食べない?」
優香のスマホの画面を見ると、どデカイパフェが映っている。フルーツとクリームが盛りだくさんだ。
「で、でも俺南沢さんと」
「そ、そうだよね。ごめん」
だから何故そんなに悲しそうな顔をするんだ。どこかで女子は甘い物が好きと聞いた事があるが、本当だったらしい。
「みんな決まった?」
「俺は決まったぜ」
「「俺も」」
「私も」
白石さんが「決まったっぽいね」と言いピンポンと鳴るボタンを押す。
しばらくすると40代くらいの男性が「ご注文をどうぞ」とオーダーを取る機械を開く。
誠はボリュームたっぷりのステーキ、裕也はパスタを、奏はアクアパッツァ、優香はトマトとアボガドの盛り合わせサラダ、さーちゃんは誠と一緒のステーキ、南沢さんは小のグラタン、白石さんは本日特性のサンドウィッチ、音葉さんは海鮮サラダと小のドリア。俺は――
「あー、俺はこのポテトで」
「え?そんなんで足りんの?」
「いやほら、この後二人と食べるから」
それにネックレスを買ったしね。
「お前優しすぎるだろ。……まぁいいけど」
「じゃあ以上で」
店員さんが確認の読み上げをし、それが終わると何処かへ去る。何処かと言っても注文を伝えるために厨房に行くだけだと思うが。
「本当に良かったの?」
「うん大丈夫。それに、南沢さんのやつも優香のやつも美味しそうだったし」
「っ!そ、そうだね」
「だ、だね!」
「うん。楽しみだね」
俺がそう言うと「あ、そ、そういえばもう少しで桜祭だね」と優香が言う。
眉を寄せ困っていると、裕也が「あ、そうか柊は初めてか」と笑いながら言う。
「うん」
「まぁ、他で言う文化祭だな。桜崎は夏と冬で開催してるぜ」
「へぇー」
「俺たちも二回目だけど、規模が……な」
「あー、ね。ビックリしたよね」
「規模?」
誠が「カメラは来るわ、人は馬鹿みたいに来るわ、学校側もノリノリで生徒たちに自由にさせるから、なんでも出来るわで、とにかく凄い」と説明してくれる。
なるほど、とにかく凄いらしい。
「へ、へぇー」
「あとは出し物だな」
「今回は何にする?」
「前は何したの?」
「体育館を借りてお化け屋敷だな」
「あれ、本当に怖かったからね!泣きかけたから」
優香たちはその時を思い出しながら、共感し合っている。……当然と言われればそれまでなのだが、俺の知らない桜崎の人間関係を皆んなは持っている。
人と人の関係や人の仲の良さ、良い所悪い所全て含めて一つの輪だ。その中に突然俺が入って良かったのだろうか。綺麗な輪の中に異物が入るとどうなるだろうか。
「今回はカフェとか良さそう!」
「優香はパフェが食べたいだけでしょ」
「あ、バレた?」
結果は分かりきっている。輪なんて一瞬で崩れるだろう。そうならない為にも少しでも考えないといけない。誠達の事も愛美の事も。それに椎名さんが一体俺の何だったのかも。
「まぁ、でもカフェいいかもね」
「普通のカフェとかつまらなくね?」
「ここは王道で男装カフェでしょ!」
「じゃあ男子は女装ね」
「うちのイケメン、裕也と柊と俺のコンビで最強だな」
「はは、また変なお世辞。褒めても何も出ないよ」
皆んなが俺を無言で見つめる。え、なに。
突然奏が「なぁ」と真剣な雰囲気に包まれながら言う。
「コーヒーのことミスターコンテストに出さね?」
「それいいかも」
「前は俺が出たから今回は柊だな」
「決まりだねっ!」
「え、なに?ミスターコンテストって」
「えっとな、ミスコンの男バージョン」
たしか、ミスコンって容姿に優れている人が集まって審査員とかが、誰が一番か決めるやつだよな?
それに俺が出る?
「いや、無理!」
「もう、決定事項でーす。変えられませーん」
「なんて無茶苦茶な」
「大丈夫だって。自信持って頑張れ!」
自信を持つって……無理だ。前の高校で、不幸の子なんて呼ばれて嫌がらせだってされていたんだぞ。
それで自信なんて根こそぎ取られて無くなったよ。
元から無かったのかもしれないけど。
「ま、とりあえず後からコンテスト用の服とか見に行くか」
「さんせー!」
「そういえば、柊くんって髪型セットしないんだね」
「……え?セット?」
「ワックスとかで」
ワックス?体育館とかに塗るあれ?それを髪につけるの?危険すぎない?
「大体の男子はセットしてるけどな」
「裕也はパーマでしょ?」
「うん、美容院でかけてもらった」
「俺もかけようかな」
「失敗してチリチリになりそう」
「ありえるから怖い」
そうして、勝手に俺がミスターコンテストたるものに参加する事が決まり、その話をしていると頼んでいた料理が少しずつテーブルに運ばれてくる。やがて全員の料理が運ばれてくると、次は他愛もない話が始まる。学校の話じゃなくて、休日の事や、あのテレビが面白かったとか、最近ハマっている事など。
俺はそれが楽しくて、それこそ今だけしか見ていなかった。
――でもそれはダメだった。
一番大切で大好きな彼女まで俺は忘れきってしまっていた。そしてそれに気づかない彼女ではない。
もちろん時計で俺たちの会話も聞いているだろう。
そして、彼女は俺の事を攫って監禁するヤンデレなのだ。それを忘れてはいけなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます