第35話名前の由来なんて知る由も無い
今日は色々と疲れた。俺はもう既に自分の家のように使っている愛美の家のベッドの上でそう思っていた。
椎名アリスという美しさと可愛さを両方を兼ね備えた人物が転校してきた。俺も先週の金曜日に転向してきたのだが……まぁそんな事は置いといて。
彼女は愛美の知り合いらしい。何故か俺の事まで知っていたのかが気になるのだが、そんな事を考えても俺に分かるはずもなく、さっさと諦める。
そして愛美と美鈴ちゃんは三大財閥の桜崎という事、さらに椎名さんもその一つのSHINAグループらしい。財閥ってどんだけ凄いんだよ……。
そんな風に今日の事を思い出していると――
「お兄さんがダラけてる」
「今日は疲れたんだよ」
「へぇー、なんでですか?」
俺は今日の事を、ある程度簡単にまとめて、美鈴ちゃんに話す。アリスの事も財閥グループの事も。
「あれ?知らなかったんですか?私達の家の事」
「全く知らないよ」
「まぁ、私達の家ってよりは再婚相手の義父のお陰ですけど」
「義父?」
「はぁー。姉さん何も話してないんだ」と呆れたように首を振り「あ、でも私から言うと口が滑るかもしれないし」と手を口に当てながらボソボソと呟く。
口が滑るってなんだ?
「まぁ、これは今度にして、アリスさんと会ったんですねー」
そう言うと美鈴ちゃんは少しニヤッとする。
「え?あ、あぁ」
「どうでした?綺麗でしょ」
「まぁね。でも……」
確かに椎名さんは綺麗で可愛い。けど、俺は椎名さんよりずっと綺麗で可愛くて、愛おしい人を知っているからなんとも言えない。まぁこれを本人の前で言う勇気はないのだが。
「アリスより私が可愛くて綺麗って?ありがとう柊大好き」
「おわっ!……いつの間にいたんだよ」
「さっきから」
「だからその、さっきからが……もういいや」
聞いても無駄な気がするし。
「柊、ちょっと散歩に行かない?」
「ん?いいけど」
「じゃあ行こ」
俺は「よいしょ」と言いながら立ち上がる。
今何故いきなり散歩に行こうと言い出したのか分からないけど、まぁ愛美の事だから大した理由も無いと思う。
「うわー、寒い」
「手が特に冷えるわ。手が冷えるとご飯が作れないわ。手が冷たいわ」
「……はいはい。手繋ごうな」
「ふふふ。はい」
なら手袋をしろ、と言おうと思ったのだが、学校で一緒にいられる時間も少なくなったし、愛美のお陰で誠達と知り合えたんだし、少しでも恩返しになればと思っての行動である。
こうして生活できるのも愛美のおかげだし。
「付いてきて」
「はいよ」
俺は愛美と並びながらコンクリートを歩くと、だんだん花よりも木が目立つ場所に着く。
「ねぇ、この木の名前しってる?」
「いや、分からん」
「これね、
「ひいらぎ?」
「そう。
「へぇー」
ん?確か柊って木に冬って書くよな?ずっときふゆって何だよって思ってたけどそういう事だったのか。やっと椎名さんのきふゆ呼びが分かった。
そうなるとやっぱり尚更、俺と椎名さんの関係がどんな感じだったのか気になる。
そんな風に頭を悩ませていると突然愛美が「私の名前はね」と語り出す。
「愛が溢れた美しい人になってほしいって、付けた名前なんだって」
「へ、へぇー」
「柊はどんな願いがあったのかな」
「……分からない」
親がいない俺にはそんな話を聞いた事もない。まず話したことが無いんだ。……でも気になる。俺だってどんな由来があってこの柊という名前が付けられたのか。
「愛美の親は美っていう文字が好きなんだな」
美鈴ちゃんの名前にも美が入っている。
「ふふ。そうね。あの人自体がそうだからかもね」
「そうなんだ」
愛美の親はどんな人なんだろう。三大財閥の一つなんだから、普通の人ではないと思う。 あ、でも再婚相手の義父が財閥の人なのか。でもそんな人と再婚できるのだからやはり普通の人ではないだろう。
「でも、親の願いが叶ったな」
「え?」
「だって、愛が溢れて美しい人なんだろ?愛美はそうだろ」
「そ、そうかな」
「なんで照れてんだよ」
俺がそう言うといきなり抱きしめられる。少し苦しい。
「照れてないから」
「それ、照れた奴が言うセリフだろ」
顔が見えないから当てずっぽなのだが。
「そうかも」
そんな、むず痒い会話が終わりどこか少し気まずい雰囲気になりながらも、帰るときの距離は来る時よりもぐっと縮まり肩がずっと触れ合っていた。
俺はこの時間がどの時間よりも幸せだと思った。
/\/\/\/\
昨日の
「なぁ、柊」とツンツンと肩をつつかれる。
「何?」
「お前大橋の事優香から聞いたよな?」
「え?あ、うん」
「噂なんだけど、椎名さんの事狙ってるらしいぞ」
「え?」
「ほら、椎名さんって顔もいいしスタイルも抜群だろ」
確かに椎名さんは日本人離れした体型をしているし、顔も抜群に良い。狙われるのも必然なのかもしれない……けどだからって、それを見逃すってわけにもいかないだろう。……俺と同じ怖さを味わって欲しくはない。
「けど、SHINAグループだし、あいつもそこまで馬鹿じゃないだろ」
「あ、たしかに」
「それこそ、やっと退学って感じだろ」
「かもね」
人の悪口を言うのはあまり好きではないのだが、人の事を悪く言わない誠でさえこう言うのだから確信は強まる。
「ま、でも一応目は光らせとこうぜ」
「分かった」
「おいそこの二人、後でこれ職員室に持ってきてくれ」
「え?なんで?」
「あぁ?」
「はい!分かりました!」
すると誠は小声で「あの先生めっちゃ耳いいんだった」と落胆する。教卓を見ると大量のプリントとノートが積まれていた。これは往復しないとダメそうだ。
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