第34話いつだって俺は知らない
「やっと会えたね!」
「い、いやちょっと待って!」
俺に抱きついていた彼女は「ん?」と首をかしげる。それだけで絵になる美しさがある。
「人違いだよ。失礼だけど俺は君のこと知らないし、まずきふゆなんて呼ばれたこともない」
こんなに印象深く残るような人を忘れるはずない。仮に忘れていたとしてもこうして会ったりすれば何かしら思い出すだろう。それが俺には全くないのだ。
「え?覚えてないの?」
「覚えてるもなにも、初めて会ったんだから」
「冗談だよね?私だよ?椎名アリスだよ」
彼女の名前を聞き俺はもう一度思い出すように頭を回転させる……が結果は変わらず。
「ごめん」
「そんな……じゃ、じゃあ!この目に見覚えは!」
俺は彼女に促されるまま目を見る。
右が青。左が茶色だ。つまりオッドアイ。このまま見ていると引き込まれそうな魅力がある。だが、そういう訳にもいかない。突然俺を頭痛が襲う。
「うっ」
「ど、どうしたの?」
「い、いや大丈夫」
またこれか。本当になんなんだこれは。
「ねぇ、本当に覚えてないの?」
「うん。ごめん」
俺がそう言うと椎名さんは「…-そんなぁ」と俯く。
「小学一、二年の時だから仕方ないのかなぁ」
「ごめんね。俺小学生の時の記憶あんまりないんだ」
「ううん。大丈夫。これから頑張るから」
俺が「そ、そう」と言うと話の隙間を見つけたのか誠が「えっと、椎名さんだったよな。柊とどういう関係だったのか説明してくれないか?なんか訳ありぽかったし」と俺を目で指しながら言う。
「あ、うん。えっとね私ときふゆはね――」
その時だった。教室の戸が勢いよく開けられる。
「え?アイビー先輩?」
「はぁはぁ。アリスなんで貴方がここにいるの?」
「あ、愛美?うわー!久しぶり!」
「そんな事どうでもいいわ。なんでここにいるの」
愛美が少し怒ったように言う。椎名さんもそれを感じたのか「なんで怒ってるのぉ」と涙目になっている。
「うぅ。聞いてないの?愛美のお父さんが来ないかって。それにきふゆも居るって言うし。だから是非!って思って」
愛美のお父さんって一体何者なんだ。知っている筈も無いよなと思いながら隣で唖然としている優香に聞いてみる。
「え?知らないの?アイビー先輩のお父さんって桜崎の理事長だよ」
「え、そうなの?」
「苗字も桜崎だよ」
確かに言われてみれば、金曜日の職員室で桜崎さんって言われていたかもしれない。でも納得だ。あの広い家も、俺がこの桜崎に試験も何も受けずに転入できたのも。
「えっと、しゅ……小日向くんちょっと来てもらえる?」
「え?あ、は、はい」
「アリスは自分のクラスに戻りなさい。そろそろ授業が始まるから」
「えー。仕方ないなぁ」
俺は教室から出て愛美に着いて行く。その際に他のクラスの人とすれ違うと「え?アイビー先輩?」
「なんで?」「てか、隣の奴誰だ?」と様々な声が飛び交う。そして、やがて誰もいない階段の踊り場に着く。
「柊はアリスの事知らないのよね?」
「全く見覚えないな」
「そう……ならいいわ」
「愛美の知り合いか?」
「……そうね。昔の知り合いよ」
愛美の知り合いだということは分かったのだが、何故俺の事を椎名さんは知っていたのかが気になる。やはり記憶が薄い小学生の時か。椎名さんも小学生の時と言っていたし。
「まぁ分かったわ。ごめんね連れ出して」
「ん、いや大丈夫」
俺がそう返事すると「じゃあね」と言って階段を上っていった。
少し騒ついた廊下を歩いて、教室に戻ると廊下とは全く違う、シーンとした空気が教室に全体に広がっていた。
ゆっくりとした足取りで自分の席に着くと誠が椅子をこちら側に向ける。
「えっと、すまん柊」
「は、はい」
「まず、アイビー先輩とどういう関係だ?」
どういう関係と言われれば誰にも言えない関係なのだが……。
「な、なんの関係もないよ」
「じゃあ何の話してたんだよ」
「えっと……あ、お、俺ここに入ったばっかりだから不自由な事はないかとか。ほらあい……びー先輩ってここの娘さんだからさ」
「……ふーん。まぁそれは分かった。ならさ」
「うん?」
すると男子全員の視線が一斉に俺に突き刺さる。え?なんで?
「アリスちゃんにハグされてたのはなんだよ!」
「そうだぞ!」「ずるいぞ!」「変われよ!」
「それなのに、知らないとか可哀想な事言いやがって!」
「そ、そんな事言われても」
そう言うが誰も聞いてくれるような素振りは一切ない。俺は助けを求めようと、唯一敵意のない目線を向けている裕也に助けを求める。
「柊ごめんな。こいつらそう言う関係は止められないから」
「そ、そんな」
「すまん」
「さーて柊。どうしてもらおうかな」
これって俺悪くないと思うんだけど。抱きついたの俺じゃないし。
「えっと……食堂のご飯おごるよ」
「お、まじ!ってここタダだから!騙されねぇから!」
「だよねぇ」
困りきった俺を見たのか優香が誠を「まぁまぁ、柊くんが居なくても誠はあの子に目も向けられないよ。他の男子もね」と煽る。
「くっ!うるせぇ!とにかく、何かで償ってもらうからな!」
「なんて理不尽な」
そこで一旦区切りがつくと、いい時間になっていたのか授業を担当する先生が入ってきた。怖い顔をした先生だったからか一瞬で静まる。ありがとう先生。
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四限も無事?終わりやっと待ちに待った愛美の弁当だ。四限は体育のバレーボールだったのだが、やけに俺にスパイクが打ち込まれたのは偶然だよな。
「飯だぜー!」
相変わらず元気がいい事だ。さっきも俺にスパイクを思いっきり何回も打ってきたもんな。
「柊くん今日も食堂?」
「あ、いや今日はあるんだ」
俺はバッグに入っている手包みを取り出して見せる。
「えー、そうなんだ。じゃあ私は購買に行ってこようかな。あ、一緒に食べていいかな?」
「うん。いいよ」
「じゃあすぐに行ってくるから待っててね!」
「分かったよ」と言ったが恐らく聞こえていないだろう。物凄い速さで教室から飛び出していった。食堂もタダだから購買もタダなのかな?
俺がそう考えていると、開いていた教室の戸から異彩を放った金髪の女の子が入ってくる。言わずもがな椎名さんである。
「きふゆ!一緒に食べよ!」
「え?あ、俺優香と食べるんだけど一緒でいいなら」
「全然大丈夫だよ!」
周りからの視線がとても痛いが特に凄いのが横の誠だ。もう俺が貫通しそうな勢いだ。
「あ、えっと誠も――」
「え!まじ!いいの!」
「い、いいかな?椎名さん」
「え?あ、うん」
「よっしゃー!」
反応が野生のそれだった。もう待っていたとしか思えない。
「ごめーん結構人居て、椎名さん?」
「あ、お邪魔してるね」
「全然!私話して見たかったの!」
「そう言ってもらえると嬉しいや」
そうして誠と俺の机をくっつけて、ご飯を食べ始める。俺の前にいるのは椎名さんで誠の前は優香だ。
机に置いていた手包みを開き弁当箱取り出す。愛美のご飯はとても美味しいから楽しみだ。二段製になっているから上がおかずで下が白米だろうか。
俺はワクワクな気分で弁当箱を開く。
「お、柊のうまそう」
「あげないよ」
「……ちっ」
いくら優しくしてくれる誠であっても、愛美のご飯を渡すわけにはいかない。
続いて白米が入っていると思われる箱を開ける。
「なっ!」
俺は勢いよく蓋を閉める。そこには文字などは書いてなかったが、やけにハートの飾りが多かった。とても嬉しいのだが、今ここでこれを見られると色々とまずい気がする。
「どうした?」
「い、いや、なんでも」
「ふーん」
その後は相変わらず野菜盛りだくさんの優香の昼ご飯の事を話したり、桜崎についてや、椎名さんの事や色々話した。
「間違ってたら悪いんだけどアリスちゃんのお家ってもしかして、SHINAグループとかじゃないよね?」
「ん?そうだよ」
「それって結構すごいんじゃ……?」
「えっとSHINAグループって?」
俺がそう聞くと優香は淡々と語り出す。
簡単にまとめると、この日本には三大財閥があるらしい。その一つがSHINAグループ。
「あと、ここの桜崎もその一つだよ」
「え!?」
「確か優秀な人材を見つけるためにこの学校を作ったらしいしね」
「へ、へぇー」
やっぱり尚更この椎名さんと俺の関係は無いように思える。普通の人と財閥の人が関わる事なんてまず無いだろう。誠もそう思ったのか「やっぱり椎名さんの言ってる、きふゆと柊は人違いなんじゃないか?」と言いながら弁当の白米を口に放り込む。俺も白米食べたい。
「そんなはずは無いです。愛美がここにいるのが何よりの証拠です」
「……どういう事?」
「あ、これ以上は秘密です。さっき愛美にあまり話すな、と言われましたから」
「そっか」
やはり少し椎名さんと愛美の関係が気になる。愛美がここにいるのが何故、何よりの証拠なのか。
家に帰ったらそれとなく愛美に聞いてみよう。
これは余談なのだが、白米は誰も見ていないうちに口に全て流し込んだ。それを見た先生からは「ハムスターの真似か?」と笑われた。
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