第26話俺はどうすればいい?

後2日。後2日で俺はこの部屋から出ることになる。だからといって、逃げるとかそういうのじゃない。ただ単に学校に行く。それだけなのに、今俺が抱いている感情は怖いだ。心の底からせり上がってくるかのように湧いてくる。

そして、まず間違いなく俺と愛美の生活は変わっていくだろう。確信が持てるほどにこの生活に学校という存在は異形すぎる。かといって行かないと、

変わるどころかこの生活自体が終わる。

お前何様なんだ、と言われそうなのだが一応美鈴ちゃんに申し出たのだ。

だが、「いくらお兄さんでも、それは譲れませんし私に勇気をくれたのはお兄さんでしょ?勇気をくれた本人が勇気が無いって、私の勇気はなんなんですか?」と言われた。


少し話が変わるのだが、美鈴ちゃんはまた改めて歩もうとしている。まだ傷は癒えたわけじゃないけど、それでも頑張るという姿勢は見られる。それでも学校に行くのはまだ先になりそうだが。

でも、そんな頑張ろうとしている美鈴ちゃんに言われると俺は何も言えなかった。



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「ねぇ、これ付けて」

「ん?」


愛美の手渡されたのはごく一般的に見える、ただの腕時計だ。まぁでも、普通の腕時計じゃないだろう。


「分かってると思うけど、これはただの腕時計じゃないわ」

「だろうな」


俺が他愛ない返事をすると、愛美ら淡々と説明し始める。


「まず、付けたら私以外絶対に外せないわ」


俺の腕に腕時計が付けられる。感触と外見は普通の腕時計だ。


「とってみて」

「え?あ、うん。……え?全然とれない」


痛いくらいに力を入れてもピクリともしない。仕掛けがあるのか探しながらカチャカチャと動かすがそれらしき物もない。


「分かった?」

「分かったけど、俺ずっとこれ付けたままなのか?」


愛美に問いかけると彼女は首を横に振りながら

「いいえ」と言う。


「私だけ外せるわ」

「なるほど」


いや、全然なるほどじゃないけどな。といっても教えてなんて言って教えてくれるはずもない。聞くだけ無駄だ。


「これだけか?」

「ううん。これにはGPSついているの」


「ほら」と言って俺の目の前にスマホがかざされる。画面には地図に赤色の点が点滅している。

多分この赤色の点は俺だと思う。これで常に俺の場所が分かると。愛美的にこれが本命の機能なんだと思う。


「あと、私から一定の距離を離れた状態で校外に出ると」

「出ると?」

「ちょっと我慢してね」


スマホの画面を操作する。すると――


「熱っ!」


一瞬だったが、腕時計から物凄い熱が放射された。

つまり愛美の行った距離を守らないとかの熱が永遠と続くのだろう。腕を見るとやはり赤くなっている。


「ごめんね。でもこういう事だから」

「いいけど。別にこんな事しなくても」

「そうしないと私が嫌だから。自分勝手だけど」

「まぁ、分かったよ」

「うん。あ、そろそろ寝よっか」


時計を見ると11時だった。確かにいつも寝ている時間とほぼ同じ時間だ。ちなみに美鈴ちゃんは愛美の部屋で寝ているらしい。いや、寝させているの方が正しいか。前一度美鈴ちゃんの要望に応じて三人で寝たのだが、朝何か顔に柔らかい衝撃が伝わり目を開けると美鈴ちゃんの足が俺の顔を蹴っていた。確か寝る前は俺たちと同じ方向に頭があったはずなのだが朝は逆になっていた。愛美の方を向くと相変わらず俺の腕を抱えたまま寝るから、腕を使えず足を退かせないという状態が続いた。

それ以来美鈴ちゃんはこの部屋で寝させてもらっていない。そのうちもっと酷いことになりそうだったからな。


ベッドに体を預け今となっては必需品の毛布を被る。こんなにフワフワですぐに寝れそうなのに、最近はあまり寝れていない。原因はちゃんと分かっている。でもこれはどうしようもなくてあと、もう

2日後……正確には後30分で日にちが変わるから1日と30分なのだが……時間というのは誰にも止められなくて、人の意思なんて全く関係なく毎秒同じテンポで進んでいる。その進んでほしくない時間は着々とその日に向かって進んでいる。

でも、その時間は平等に与えられている。その時間をどう使うかは自分で決めれる。

だから俺はこの苦しい心を癒すために何をするか考えた結果がこれだ。


「愛美」

「どうしたの?」

「ちょっとあっち向いてくれないか?」

「いいけど」


愛美は逆方向……俺に背を向ける形になる。

俺はその温もりを詰めて詰めまくった背中に抱きつく。


「どうしたの?」


一瞬ビクッと震えたが、すぐに包み込むような甘く透き通った声で俺を和らげる。


「ごめん。このままでいさせて」

「うん。いいよ」

「ありがとう」


俺はその日柔らかい体を抱きしめふわりとした彼女らしい匂いに包み込まれ久々に深く心地よい眠りについた。



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「柊起きて」


嫌だ起きたくない。せっかく深く温かい海に潜れたのに、外の寒い世界になんて戻りたくない。

ずっとこの温かい海にいたい。この感覚はいつぶりだろう。最近は無かったこの感じ。


「柊、柊」


でも、海より温かい声が外から聞こえる。

俺はどっちの世界に行けばいいのだろうか。ここに残りたい気もするし外の温かい声も気になる。


「柊、もう起きないなら……こうだ」

「みあっ!」


こいつせっかく人が良い眠りについていたのに、弱い耳を触って起こしてくるとは……。

でも、不思議な夢だったな。


「ねぇ柊離してくれないと、私ダメになる」

「え?あ、わ、悪い」


俺は柔らかくていい匂いがする、腕の中にいる人を離す。本当はずっとこのままでいたい。進む時間なんて気にせず、ずっと。


「柊」

「ん?」

「キスしたい」

「え?」

「だって柊が離してくれなかったから……だから柊が悪い」


愛美は体を反転させ、俺の方に向く。顔が近い。吐息がかかる。これ多分拒否したらむくれるだろうな。


「いいけど」


顔が口がさっきよりも近づいて交わる。


「んっ」

「ちゅっ」


そういえばキスなんてあの日以来なんだよな。今は前とは違って触れ合う程度のキスなのだが。


「おっはよーごさいまーす!」


美鈴ちゃんが絶妙?なタイミングで入ってきた。

俺と愛美で美鈴ちゃんを見る、そこで目が合う。


「あ」

「え?」


これはなかなか大変な事になりそうだ。







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