第22話俺は色々と疲れる
「わお、お兄さんかっこよくなりましたねー」
手を口に当て大袈裟にリアクションをしている。
まぁ、正直自分でも前よりはいい感じになったと思う。髪型だけイケメンみたいな。
「ほら、美鈴も早くお風呂入ってきなさい」
「久しぶりに姉さんと入りたーい」
「私もう入ったわよ」
「え?お兄さんいつお風呂に入りました?」
いつ入ったといえばついさっきだ。それは彼女も同様。
「さっきだけど」
「姉さんは?」
「さっきよ」
「え?一緒に入ったの!?」
「えぇそうよ」
「本当に言ってるの?」
そこまで驚く事なのかと思ったのだが、普通は男女で一緒に入るということはそれなりの関係が無いと出来ないことだと思う。そこら辺の感覚が少しおかしくなったのかも。そうなったら一緒のベッドで寝ているのもおかしいのかもしれない。
「貴方なら嘘か本当かわかるでしょ」
「うっ……もしかしてやったりしてないよね?」
「えっと」
「性行為ですよ!性行為!」
「それはやってない!断じてやってない!」
「姉さんは満更でもないような顔してますけど」
彼女は頰に両手を当て腰をクネクネしている。
いや、勘違いされるからやめようねそれ。
あと地味にそれで気不味くなったりもしてるから。
「まぁ、本当にしてないようですし」
「う、うん」
妹さんはふぅーと息を吐き落ち着いて「じゃあ私はお風呂に行きますね」と言ってバッグから着替えをもって部屋から出て行った。
彼女は扉に何か挟んでいたからのそのままロックをいじる事なくお風呂に向かって行った。
「さて」
「ん?」
「少し話しましょうか」
ベッドに座り横をぽんぽんしている。横に座れということだろう。……何というか、多分真剣な話なんだろうけど柔らかい雰囲気があるから、そこまで緊張しなくていいって思えるから気持ちが少し楽になる。メリとハリの使い方が絶妙というか……とにかく接し方がうまい。
「で、何話すんだ?」
「不本意だけど学校のことね」
「お、おう」
言われてみれば俺も気になることはある。
「行くって言ってもどこに行けばいいんだ?もう前の高校には戻れないし……そうなると隣の村宮高校か?」
「違うわ、桜崎よ」
「い、いやいやいやいや!流石に無理だから!お前らの偏差値理解してんの?」
「前から勉強教えてたでしょ。それが役に立つ時が来たのよ。本当は子供に教えるためだけど」
「でも……」
「貴方は私といたくないの?」
少し声に甘さを出して上目遣いのように見つめてくる。それに俺は耐えられず目をそらす。
「わ、わかったから。頑張るから」
「えぇ。私も勉強教えるから一緒にがんばろ」
「お、おう」
俺のために色々としてくれる、と考えると心が温まる。今考えれば俺が彼女のことを良いと思えるのはこの温もりだと改めて感じる。
その彼女は珍しく「疲れたー」と言って座っているベッドに体全体を投げ出す。
「肩揉もうか?」
「ん、大丈夫よ。休めば疲れもとれるし」
「そうか。ならいいけど」
「えぇ」
ただ、俺は一つ違和感を感じた。いつもなら何かしらで甘えてくる彼女が何もせず、さらに俺からの提案を断った。これは俺の憶測であって予想であるのだが、今の彼女は何かから目を背けて逃げているように見えた。今の俺にはその何かの正体は分からなかった。まぁでも妹さんとか来てといきなり学校に行くってなったりして、色々と思う部分もあったりしてただ単に疲れただけなのかもしれないけど。
「じゃあゆっくり休めよ」
「うん。そうする」
彼女は寒くなりつつある温度に従って毛布と掛け布団に深く入り込む。俺はそれを横で見守っていると「入らないの?」と可愛らしく言う彼女に「妹さんはどうするんだ?」と聞くと「そうだった」と言い
おいおいと思いつつも「ここで寝るのは無理っぽいよな」と言う。
それと同時に扉が開く。
「やっぱりこの家のお風呂広い!」
元気が復活したようにテンション高めに入ってくる。もう子供のそれだ。
もうさっさと寝ろと言わんばかりに「美鈴は私の部屋で寝て」と布団にくるまりながら眠たそうに言う。やっぱり疲れてただけかな。
「姉さんは?」
「ここ」
「お兄さんは?」
「ん?ここだけど?」
「私一人ですか?」
彼女は妹さんに手を振り海にゆっくり沈むように目を閉じて眠りについた。
「し、仕方ないですね。私もそろそろ寝ますね」
「ん」
「では」
ついさっき開けた扉をまた開き出ていった。
なんか、こう、姉の力!みたいなのを見れた気がする。
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「じゃあ、行ってくるわね」
「うん」
クスッと微笑むと彼女が両手を広げる。
「はい」
「ん?
「行ってきますのハグ」
「それまだあったんだ」
「はーやーくー」
まぁ、仕方ないと思い、恥ずかしながらもハグをする。ちなみに妹さんはまだ寝ている。
「じゃ行ってくるわ」
「ん」
今日二度目のいってきますを言い彼女は部屋から出て行く。ちなみにもう鎖は無い。彼女いわく「まぁもう大丈夫かなって」らしい。かなり前進した気がする。でも「部屋から出ないでね」と少しドスの効いた声で言われた。
「あ、それと」と扉が閉まる寸前に彼女の顔がひょいと現れる。
「美鈴にちゃんと朝起きなさいって言っといてくれる?」
「ん?あー分かった」
「お願いねー」と言って今度こそ扉が閉まる。
妹さんは朝が苦手なのかな?あと、それとまぁ俺が言うのもなんだけど学校とかいいのかな?まだ休みの時期じゃないと思うけど。後から聞いてみよう。
それからテレビをつけて彼女から渡されたノートを見て勉強をしていると扉が開く。心の中で「やっと起きたのか」と呟く。ただ今の時刻11時30分。
「あ、おはようございますおにーさん」
「ん、おはよう」
「姉さんは?」
片手で目をこすりながらあくびをしながら俺に聞いてくる。
「学校に行ったぞ」
「あー、そうですか」
「そういえば妹さんの学校は?」
「答えてもいいですけど、妹さんってなんですか」
妹さんが笑いながら俺の呼び方に難癖をつけてくる。仕方ないじゃん。俺が名前で呼ぶの潤くらいだし。
「美鈴でいいですよ」
まぁでも確かに本人に向かって妹さんなんて言うのも少し変かなとは思う。ということで潤以外に初めて名前を呼ぶことにする。
「えっと、み、み、美鈴ちゃんでいいかな?」
「お兄さん噛みすぎですよ。あ、私はお兄さんって言いますね。お兄さんはお兄さんって感じがするので」
「好きにしてくれ」
……ってそうじゃなくて、俺が聞きたいのは――
「あ、えっと私の学校のことですよね」
「そうそう」
少し顔を俯かせて床を見つめているけど、その目は床を見ていないような気がした。
「私学校行けてないんですよ」
「え?えっと」
「まぁいじめっていうか、嫌がらせっていうか、
避けられるっていうか……まぁ全部ですね」
俺が返事に困っていると「まぁ、そうなりますよね」と美鈴が一人で呟いた。
「いや、いいんですよ言ったらこうなるって分かってましたから」
そこで俺は気づく。俺も小学校と中学高で同じ様なことをされていた事に。でも、俺がそれから逃げ出さなかったのは、潤がいつも隣にいてくれたからだ。確かに逃げたいと思うことは無かったわけじゃない。でも潤がいつも通りに話してくれて馬鹿な事言って笑わせてくれて、それで逃げ出さず耐え切れた。美鈴ちゃんに潤みたいなやつがいるから分からないけど、もしいないとしたら今ここにちょうど勉強が飽きてきた暇人がいる。話を聞くぐらいなら俺にでもできるはずだ。
「美鈴ちゃん」
「何ですか?」
俺は美鈴ちゃんの無を見つめるような目線から目を離さず言う。
「俺でよければ話きくよ」
この作品ってカクヨムコンテストに出せるんですかね?最近カクヨム使い始めたからあんまり分からないんです。分かる人教えていただきたいです。
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