第20話俺は決断をせまられる
「え?えっと何が?」
「お兄さんが姉さんの彼氏ってことですよ」
なんで?家族だけの嘘が分かるんじゃなかったのかよ。あいつの彼氏ですって言った時は別に嘘をついているとバレるような言い方はしてない筈だけど。
「な、なんでそう思うの?」
「分かっちゃったんですよ。姉さんや父さん、お母さんが私に嘘をついた時みたいにね」
「君の分かる嘘は家族だけじゃないの?」
「そうですよ。でもお兄さんの嘘は分かりましたよ」
どうする。ここで実は友達です、って言っても妹さんが言うには俺の嘘はあいつの家族同様バレてしまう。嘘をつかず俺と彼女の関係をどう言えばいいのだろうか。
考えていると先にあちらから先に動いた。
「お兄さんが言いづらそうなので私から聞きますね」
「え?」
「私が思うにはお兄さんと姉さんの関係って人には言えないことなんじゃないですか?」
「っ!」
「それも歪で複雑な関係ですよね」
「っ!!」
ダメだ、もう詰んでいる。ここで違うと言っても俺自身がこの関係は歪で複雑と思っている時点で否定するということは嘘をついていることになってしまう。
終わってしまうのか?俺と彼女の心地いいこの生活が。
「何も言わないってことは、認めるってことですよね」
「……どうするの?親にでも言って俺たちの関係を壊すのか?」
「んーどうしてほしいですか?」
「は?」
「だから、どうしてほしいですか?」
意味がわからない。俺の意見を取り入れるつもりなら何故こんなに問い詰めるようなことをするのか。
でも、俺の意見を取り入れるのなら俺が言うことは決まっている。
「黙っていて欲しい。やっと貰えた愛なんだ。離したくないんだ。だから頼む」
「いいですよー」
「え?いいの?」
「はい。心から思って言ってるみたいですしね」
「よかった」
じゃあ、なんでこんな事を聞いてきたんだ?
何もする気がないなら、どうしてほしいなんて聞くか?それともただ単に興味があって聞いてきたのか。
「でも、条件があります」
やっぱりタダで、という訳にはいかないようだ。
「どんな条件だ?」
「まず一つ目。姉さんとお兄さんの関係を嘘偽りなく教えてください。まぁ嘘つかれても分かりますけどね」
「俺だけじゃ決めれない。あいつも……」
「あぁ、それは大丈夫ですよ。この部屋に来る時に姉さんにもそれっぽい事言っときましたから」
「……条件はそれだけか?」
「いえ、お兄さんの話を聞いてからまた決めます」
信じていいのだろうか。勝手に話して彼女に嫌われないだろうか。捨てられそうで怖い。
「言わないなら、今すぐに親にいいますよ?」
子供が言いそうな脅しだけど、今の俺にはこれかつてない程に恐ろしい脅しだ。
「わ、わかったから。言うから」
俺は監禁されていること、彼女とこれまでの生活を全て話した。妹さんは特に何も言わず「ふーん」と相槌を打つくらいだった。そして何故か俺が彼女とかの生活をする前の生活を聞かれた。その時の妹さんは相槌を打つことなく、苦虫を噛み砕いたような厳しい顔をしていた。
「じゃあ条件言いますね」
「う、うん」
「学校に行ってください」
「は?い、いや、無理だから!俺話したよね?俺が監禁されていること」
「そうですねー」
「じゃあなんで」
「今お兄さん姉さんのヒモですよね?」
うっ!それは俺が一番分かっていることだ。
でも、ここから出るなんて今の俺には考えられないことだ。それに彼女もそれだけは許さないだろう。
「一応私の大切な姉なので。普通、男が女を養いますよね。学校も行ってないお兄さんにそれができますか?」
「む、無理だと思います」
「ですよね。じゃあ学校に行ってください」
「それも無理だと思います」
「なんでですか?姉さんが許さないからですか?」
「そうだよ」
監禁している相手をそう簡単に出すはずがない。
それも妹が言ったからって何も変わらないと思う。
妹さんが本当にさっき言ってことを思って俺を学校に行かせようとしているかは分からないけど、ここから出るということは、俺と彼女の生活が変わってしまうということだ。俺が一番恐れていることだ。
「私の条件がのめないって言うなら別にいいですよ。報告するだけですから」
「君の目的はなんだよ」
「さっき言ったじゃないですか。姉さんが心配なだけです」
俺はどうすればいい。彼女が上手くこの話を無かったことにするのを賭けるか。でも、彼女も親に報告すると言われれば何も言えなくなるのではないだろうか。
「ま、この話はお兄さんだけじゃ難しいですよね。私は一回姉さんと話してきますね」
「え?あ、あぁ」
行かせてよかったのだろうか。結局彼女に頼ってしまった。仕方ないと言えば仕方ないのかも知れない。けど、この生活が崩れるのが嫌だ。ずっと彼女と他愛ない話をしながら時間が過ぎていくのが好きなんだ。偶に甘えてきたらする彼女が好きなんだ。
そんな生活がたった一人の考えで崩れるなんてやっぱり嫌だ。俺は、俺は、どうすれば良かったんだ。
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美鈴が来た。来るということは知っていた。
伝えてきた日にちより早く来るのも決まっていたと思う。両親に言われて来たんだろう。
「姉さん」
「あら、出てきたの?」
「うん。ちょっと伝えたい事があってね」
「何かしら」
私は野菜を切っていた手を洗って美鈴の方に向き直る。
「お兄さんを学校に行かせて」
「……それは貴方のお願い?それとも――」
「お母さんとお義父さんのお願いだよ」
「そう。私は嫌よ」
嫌に決まっている。それに学校に行かせて何になるのだろう。このままでいいじゃない。
「でも、せっかく見つけたんだよ」
「尚更じゃない。もう離したくないのよ」
「でも、お兄さんは思い出してないんでしょ」
「えぇ。多分」
「このままじゃお兄さんは戻ってこない。私はよく知らないけど、姉さん達にとっては大切な人なんでしょ」
彼は私にとっても、両親にとっても大切な人。だからこれ以上辛い思いをさせたくない。
彼のこれまでの様子を聞いていると怒りが爆発しそうだった。死んだあの人を私は許さない。
「お義父さんも手に届く所にいたら色々ときっかけを作れるって言ってたから」
「……分かったわ。少し考えるからお義父さんに言っといてくれる?」
「時間は少ないよ。姉さん」
そんな事私が一番理解している。
「分かっているわ」
「あと、あの紙の結果どうだったの?」
「99%一致してるわ」
「じゃあやっぱりそうなんだね。私は一回お兄さんの所に戻るから考えといてね」
「うん」
私はどうするべきなのだろう。彼をずっと騙し続けている私にどう決めればいいのだろう。
罪悪感に今にも押し潰されそうなのに。
でも、私は彼の事が好きだ。それだけは変わらない。この気持ちが普通ではありえないものだとしても。
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