第19話俺もバレるらしい

彼女の妹が来るまであと一週間となってしまった。


だからと言って諦めたわけじゃない。

ご飯を食べている時、勉強の合間、ゲームで負けた時のお願いごとをこなしている時間、ありとあらゆる時間を使って案を出し合ったりした。ちなみに一回も勝てなかった。考えながらしていると、いつのまにかコースから外れていたりしてCPにすら負けてしまった。彼女はそんな事はなかったけど。


そして今までで出た案で一番有効的なのは、

この鎖から常時解放されて、ここである理由で住ませてもらっているという事にすること。妹さんの姉……家族が言う嘘は見破られる。

家族ではない俺が嘘をつけば、バレることはない。


あともう一つの案は、彼女が妹さんと出掛けてこの家の話題に触れさせないということ。

もう、これはほぼ賭けだ。妹さんが「最近変わったことある?」なんて挨拶代わりに聞いてきたらその時点で負けだ。

でも、この2つの案は妹さんがこの状態を両親に伝える前提で決めている。妹さんが理解して黙っていてくれればいいけど。もしかしたら姉と一緒で他の人監禁してるかもね。姉妹だし。


ちなみに前の案は彼女が出した。

そう考えるとやっぱり少しは前進した気がする。


「でも、やっぱり私がいない間鎖を外すのは少し抵抗があるわ」

「仕方ないだろ。もしいきなり入ってきたらどうするんだよ」

「でも、外側からロックかかってるわよ?」

「お前の妹だから怖いんだよ」

「それは私が鬼嫁と言いたいのかしら?」

「違うわ!どこからそんな発想出てくるんだよ!」


なんて、めんどくさい子なんだ。てか、危機感無さすぎだろ。

すると、彼女の携帯からピピピとバイブ音と共に鳴る。


「え?……嘘でしょ?」


とてつもなく嫌な予感がする。確実にフラグ立ったな。


「妹もうそこまで来てるって」

「だと思ったよ!ってそんな事言ってる場合じゃないよな。どうするんだ?」

「とりあえず鎖外すわね」

「……お前なんか冷静すぎじゃないか?もしかして知ってたとかじゃないよな?」

「そんな事ないわよ。こういう時こそ冷静になるものよ。それに、動揺していたらあの子の思うツボじゃない」

「そうか」


言いくるめられた気がするが、今はそんなことは気にしてられない。あとは彼女にかかっているのだ。

俺はこの部屋に妹さんが入ってきた時に頑張るしかない。


「じゃあ、出迎えに行ってくるわ。後は話した通りだけど、ご飯とかお風呂は合間を見て呼びにくるけど、もしかしたら遅くなるかもしれないわ」

「ん。大丈夫」

「鎖を外したからって、自由はしないでね」

「お、おう」


謎の妙な圧を感じた。やっぱりあんまり信じてもらってないのか?よく分からない。


もしかしたらこの部屋の中に何かあるのかもしれない。でも普通、監禁をしている場所に何か隠すか?

――タンス

タンスを見ると頭が痛くなる。何が原因だ?

最初この部屋に来た時は全然そんなことは起こらなかった。あの中に何があるんだ?


「うっ!」


だめだ、タンスの何かを思い出そうとすると頭が割れそうだ。

やめよう、もしかしたら得な事があるかもしれないけど、今の俺には損しかない。


突然ピーと馴染みのロックが外れる音がする。

え?なんで?まだ、妹さん来てなかったの?

それならいいけど――


「ごめんなさい。もうバレたわ」


ダメだこりゃ。







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最初見たときはこいつの妹なんだな、って思うほどそっくりだった。多分小さくして顔を幼くしたらこうなると思う。何故か今はニコニコしているけど。


「えっと、お兄さん誰ですか?」

「あーその、ちょっと待ってくれるかな。おいちょっと来い」

「妹がいるのに、ダメよそんなこと」

「……いいから来い」

「もう、強引ね」


やっぱり少し冷静すぎだろ。いや、寧ろこの状況を望んでいたようにも感じる。


「どこまでバレてるんだよ」

「ここに貴方がいることだけよ」

「なんで、バレたんだよ」

「なんか、隠してる?って言われてバレたわ。そこから追い討ちの連発よ」

「な、なるほど。恐ろしいな」


本当に嘘がバレるんだな。正直ハッタリかと思ってた。


「えっと、私の事忘れてます?」

「あ、ご、ごめん」


忘れてなかったよ。寧ろ君の事話してたから。

うん。忘れてなんかないよ。


「ふーん。まぁいいや。で、お兄さんは誰ですか?」

「あ、えっと俺は小日向柊です。その、こいつと付き合ってます!」


これが俺の作戦。彼氏と彼女なら別に何も言われないんじゃないか?大作戦。もっとカップルの事知ってればもっといい作戦が出たかもしれない。


「もしかしてお泊りですか?」

「え!?あ、う、うん!」


カップルってお泊りなんてするのか。初耳だ。

いや、でも確かに潤も「俺今日彼女家に泊まりに来るんだよなぁ、緊張するなー」って言ってた気がする。


「え、えっと君の名前は?」

「私は美鈴みすずです。姉さんの妹です」

「あ、うん、よ、よろしくね」


やばい、めっちゃテンパってる。多分嘘が分かる、分からない関係なくこのままだとバレる。


「姉さんお腹減ったー。何かちょうだいよー」

「分かったわ。手伝ってくれる?」

「えー、ここまで来るのに疲れたから無理ー。それに小日向さんと話してみたいしー」

「でも……」

「大丈夫だよー、話すだけだから。それとも何かまずいことでもあるの?」

「もう、分かったわよ」


これ姉と妹の立場が逆すぎる。それにこいつが、言い負けているのを見ると少し新鮮な気分だ。


彼女がスタスタと歩いて俺の近くに来る。


「ど、どうした?」

「ごめんね、私はちょっとご飯を作ってくるから、

美鈴のことよろしくね」


おぉ、思っていた事と違う事を言ってきやがった

「私以外と話さないで。だから美鈴とも話さないでね」なんて言ってくるかと思っていた。

もしかしたらこいつなりの、彼女ヅラなのかもしれない。ちゃんと作戦を立てといて良かった。

俺が言う嘘はバレない。


「じゃあ姉さんよろしくねー」

「はいはい」


そこでロックがあることをバレるとマズイのでは?

と思ったのだが、扉に物を挟んで少し開いていた。

やはり流石と言うべきか。


さて、どうするべきか。この部屋に彼女以外の人と二人きりは初めてだ。

ここは、俺が高校生の余裕を見せてやる。


「え、えっと、あいつと仲良いんだね」

「え?まぁそうですねー」

「そ、そっか」


まずい話が続かない。てか、そっちが話したいって言って残ったじゃん。何にもないの?

仕方ないもう一回俺から行くしかないか。


「えっと、美鈴ちゃんさっきと口調違うね」

「まぁ、親に挨拶の時は丁寧な言葉を使いなさいって言われてますから」

「そ、そうなんだ」

「……じゃあ、お兄さんが言いたい事はこれでもう無いですか?」

「え?あ、うん」


最初から話す気無かったのかな。次に出てくる言葉は多分「じゃあ、もう話しかけないでくださいね」

ったら言われる。


すると先程あいつが俺に近づいてきたように、美鈴ちゃんも近づいてくる。


「じゃ、私から一つ言いますね」

「う、うん」


――お兄さん嘘ついてますよね?


俺はその言葉に唖然とするしかなかった。

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