第12話俺は思い出せそうで思い出せない
俺が再び膝をガクガク震わせていると、彼女のひんやりしている細い手が俺の頰撫でた。
「大丈夫よ。次からしなければいいだけだから」
その言葉を彼女の手で俺の脳にゆっくり、刻み込んでいるように俺には感じた。
俺の状態を見てか、彼女は杭の方に歩み、先程鎖を緩めた逆の方に回して俺が行動できる範囲を縮めて行った。
これ以上彼女に反抗してはならない、機嫌を損ねてはならないと思い、引っ張られる方に流されるように動いた。
杭はベッドとくっ付いている。だが特別な鍵?仕掛け?みたいなものが施されており、俺がどうこうできるものではない。
――すぐそこにあるのに
だが、彼女の言葉が早速効いてきているのか、この鎖をどうこうしようと、考えるだけで身震いをしてしまう。
「あ、お昼ご飯だった。持ってくるわね」
「……」
彼女の声を聞くだけで、怖くて怖くて仕方なくなってしまう。あの温もりはどこにいったんだろう。
やっぱり偽物だったのか?
俺が彼女の温もりについて、自分に問い合わせていると、いつのまにか、昼ごはんを持ってきたらしい。手招きをされると、自分が動こうとする前に体が動いていた。
俺が席に座ると、彼女は手を合わせて「いただきます」と言ったので、俺もそれに続くように「いただきます」と声を弱々しく発した。
しばらく無言で食べていると彼女の方から「ねぇ」
と聞いてきた。
「っ。な、なに?」
「おいしい?」
「う、うん」
その時だった。俺の言葉が合図のように頭がとてつもなく痛くなった。
「うっ!い、いたい」
彼女に助けのような目線を向けると……彼女はニヤリと笑っていた。何が起きたんだ?痛い、痛い。考えようとすると頭がさらに痛くなる。
何か食べ物に入れられた?何かしてくるかと思って構えてはいたけど、食べ物の中に入れてくるのは予想外だった。いや、よく考えれば分かることだ。
でもガクガク震えていて、考えることすら怖くなっていた俺に思い浮かぶはずがない。
そこでまた一段と頭が痛くなる。重くて硬い物で
何回も、何回も叩かれているようだ。
「うっ、ああー!」
「おやすみ」
その言葉とともに、俺の意識は消えた。
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「起きて、ねぇ起きて」
ゆさゆさと体が揺さぶられる。布団に染み込んだ甘い匂いが、ゆっくりと意識を戻す。
「ふぇ?あ寝てた。ご、ごめん」
「ふふっ」
「ど、どうした?」
「いや、なんでもないわ。それよりも、あれの付け方分かる?」
と、指をテレビの方にさす。あれ?テレビ?
「え、いつのまにテレビ?」
「貴方が寝ているうちに私がやったわよ」
「言ってくれれば良かったのに」
「気持ちよさそうに寝てたから。それよりもあれ分かる?」
「あ、あぁ多分」
「じゃあ、お願いね」
ベットからテレビに方に向かおうとして、思い出す。――あれ?足の鎖、と足を見るとピンと張った鎖ではなくゆったりとした鎖だった。
杭の方をみると……うっ!痛い!なんで?
「どうしたの?」
「い、いやなんでもない」
何か思い出せそうで思い出せない。後少しのところで頭痛が襲う。これ以上思い出そうとすると気を失いかける。
と、とにかく今は取り付けの方に専念しよう。
ってこれ、最新のやつじゃん。
テレビの大きさといい、このゲーム機といい、やっぱり相当な金持ちなんだな。
でも、俺の家にあるやつとあんまり変わらない。寧ろ取り付けやすいから、楽々と進む。
「よし、できたぞ」
「そう。私は皿洗いしてくるから、好きにしてていいわよ」
「あ」と言ってこちらに歩いてくる。
不意に彼女の手が俺の頰撫でた。
そこに何の意味があるか分からないが、俺の体はビクッとなり、冷や汗をかく。
なんでだ、さっきからおかしいぞ。
「ふふっ。じゃあゆっくり」
「う、うん」
だめだ。また頭痛が来そうだ。ゲームに気を向けよう。そうしないと本当に気を失う。
ピーとロックが解除される音と共に、彼女はまた
「ふふふっ」と謎の笑みを浮かべたまま、部屋から立ち去った。
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