第11話俺は……

脱ヒモになるためにも、やはりここから抜け出さないとまずい。

彼女は程よい包容力あり、たまに甘えるような感じもある。だからとにかく癒される。そして、この部屋とお風呂を見る限る俺のようにお金に困っているような感じもしないし、あちらから俺を養っていくと宣言された。それに俺もどこか彼女に甘えているようにも若干感じる。


とにかく、ヒモにならないように今できることをしよう。

と言ってもこのベッドの上ではある程度の自由があるのだが、ここから離れようとすると自由は無くなる。つまり俺がヒモになる未来は何か行動を起こさない限り一直線らしい。もう、ほぼ詰んでる。


にしても、本当にやることが無い。

あ、そうだ。俺の周りに何があるかもう一回確認しよう。何か役に立ちそうな物は……無いな。

俺が見渡す限り、物一つない。

大体のものはタンスかクローゼットに収納されているのであろう。

分かることはタンスに俺がこの部屋から出る時に使う拘束具があることぐらいだ。


……やっぱり寝ようかな。

あいつに、あーだこーだ言えば多少は許される気がする。うん、寝よ。


だが、目覚めてしまった意識はそう簡単に寝ることを許してくれない。

ただ、ふかふかのベッドの手伝いと、暇なことがあってか、すぐに寝ることはできないが、少しずつ睡魔が襲い始めてきた。これなら、寝れそうだ。







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気がつくと、やはり眠っていたらしい。

周りを見渡すが、彼女はまだ帰ってきてないらしい。時計が無いからどれくらいの時間に出かけて行ったのか分からないし、今どのくらいの時間かも分からない。時計の相談をしよう。


俺が目覚めてからだいぶ経ったと思う。

不意にピーと甲高い音が部屋に響いた。


「ただいまー」


ここは、お帰りというのが正解なのだろうか。

それとも監禁されてる身として、素っ気なく対応するべきなのだろうか。それとも無視するべきなのか。ただ、もう若干普通に話をしているから、あまり気にすることもないのかな、と思う。


「あぁ」


これが一番無難だろう。


「えぇー、愛しい妻が帰ってきたのかそれだけー?」

「俺がいつ、お前の夫になったんだよ」

「だって今日寝てるときに自分から抱きしめてきたじゃない」


朝の温もりはこいつだったのか。いくら、意識が覚醒してないにしても、俺がこいつを自分から抱きしめるなんて。ただ、思い返せば思い返すほどこいつの、温もりが自分の腕の中にあり、絶対に手放したくないことが思い出せる。


「その、悪い。朝から抱きしめたりなんかして」

「え、何を言ってるの?朝からあんなに嬉しかったことなんて私は一度も無いわよ。それに言っちゃうと私のいろんなところが、キュンキュンしちゃって、朝から色々と大変だったんだから」


そこまで言われるとちょっと引く。元から若干引いてるんだけだ、さらに引いたわ。

まぁ、元はと言えば俺が朝からこいつを抱きしめてことが悪いんだけど。


「まぁ、その話は今置いといて、テレビとゲーム機?みたいなの持ってくるから、悪いけどほんのちょっと待ってて」

「あ、なんか手伝うこととかないか?」


ここぞとばかりに脱ヒモを実行していく。

別に掃除をしろ、と言われればするし、肩を揉め、

と言われれば誠心誠意揉ませていただく。流石に

夜の営みをしようと言われると、今は全力で首を横に振らせていただく。


「貴方に怪我なんてさせられないから、大人しく待ってて」

「……はい」


脱ヒモ、失敗。次こそは何かしらの行動をしないと、本当にヒモになってしまう。

あ、でも監禁されているんだから、別にヒモでもよくない?……この考えがヒモになっていくんだろうな。やはりいち早くも脱ヒモだ。


そして、また先程と同じピーと部屋に響く。


「んっしょっと、うぅー重い」


ここだ!と思い手伝いに行こうとしたがベットから一歩踏み出そうとした時に足首に痛みが走る。

そうだった、足首に鎖あるんだった。

ご主人様に飛びつこうとした犬の気持ちが少し分かった気がする。


「お、おいやっぱり手伝うよ。今は絶対にこの部屋から出ないって約束するから」

「でも……」

「お前にも怪我させるわけにもいかねぇーだろ」


少し考える素ぶりを見せて「じゃあ、お願いするわね」と言って、鎖がある杭のような物から鎖を何周か回して長さを伸ばした。

恐らくではあるが、今この状況だと、部屋をある程度自由に歩くことができると思う。


「じゃあまずこのテレビから……」










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「お、おつかれさま」

「あ、あぁ」


テレビを設置するのめっちゃ疲れた。

配線やらなんやらで、てんやわんやになって、それが終わったら、次はどの向きかでお互い譲り合って決まらなかった。結局あいつが折れてテーブル側に向くことになった。とにかく他にも色々とあって疲れた。ただ、久々に何にも縛りがなく歩くことができた。


「なぁ、そう言えば今何時だ?結構お腹減ってきたぞ」

「あ、この部屋に時計無いんだったわね」

「うん」

「お昼ご飯持ってくるついでに、小さい時計持ってくるわね」

「助かる」


扉のロックが解除されるピーという音とともに、俺の頭に一つあることが浮かんだ。


――俺の足の鎖伸びたままだ。

今なら、クローゼットとタンスの中身が見れるんじゃないか?

彼女が出て行ったことを確認して今いる場所からタンスに向けて歩き出す。


一歩、また一歩踏み出すたびに心臓の鼓動が、

ドクン、ドクンとだんだん速くなる。

緊張のせいなのか呼吸も少しずつ速くなる。


わずか15歩がものすごく長く感じた。

膝もガクガクと震えている。

なにか、なにか使えるものがあれば。


そう思いタンスに手をかけようと瞬間だった。


「あ、そこ私いない時触ったら警報なるからね」

「っ!!」


扉の上から声が聞こえた。彼女の声だ。

あ、監視カメラあるのを忘れていた。気づくのが遅すぎた。

途端に、心臓の鼓動がさらに速くなる。

呼吸も落ち着かない。


「はっ……はっ……はっ」


どうする。どうする、どうする。

俺は彼女に何をされるのだろう。俺の四肢を切られる可能性せいだってあるかもしれない。

逃げる?無理だ、いくら鎖が伸びていたとしても、あそこの杭までは届かない。


膝がガクガクとさらに震えて立つことも困難になってきたころに、扉のロックが外れたピーと鳴った。

今その音は俺にはやけに大きく聴こえた。


体がビクッと震え、もうダメだと思い、立ち崩れそうになった時、柔らかくてふんわりとした甘い匂いが俺の体を包んだ。

心臓の鼓動がドクン……ドクン……とだんだんとゆっくりになる。

呼吸も少しずつ深く吸えるようになった。

この安心感はどこから溢れでるのであろうか。

その安心感を確かめるように、彼女に腕を伸ばそうとした瞬間。


「次同じことしようとしたら、分かるよね?」


酷く冷たい声は俺の体を強張らせるのには十分すぎた。


そこで俺は改めて実感した。

彼女は俺を監禁する側で、俺はされる側なんだ、と。


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